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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-52 神渡の夜、反社の事務所に潜入ミッション

 僕は黒鬼さんに頼んでその辺で調達した黒いフルフェイスヘルメットと黒いコートを身にまとい、闇が支配する世界に溶け込みペイルライダーが次に襲うであろう反社の事務所を目指していた。


 いや、溶け込めなかった。関西第二の大都会である神渡の夜は杜宮以上に賑やかでむしろ昼間より明るかったけどそれ以前に今は夏でありこんな服装をしている人間は誰一人としていない。もしこの時期にコートを着ている人間がいるとするなら男のシンボルを見せつけたい不審者くらいだろう。


 だけど残念ながらこの姿が最も敵をおびき寄せるには都合がいいので仕方がない。しかしこのままでは別の存在、具体的には変質者の敵である正義の味方もおびき寄せてしまう。本来の目的からは離れてしまうけど僕はやむを得ず目的地まで人目を避けて行動する事にした。


 ああ、暑い、クソ暑いにも程がある。ヒートアイランド現象という奴か。サウナスーツを着ている様で頭がぼーっとしてイライラする。


 まったく誰がこんな服装を考えたんだ。ペイルライダーイコール黒フルフェイスヘルメットに黒コートのイメージを定着させたのは有志の模倣犯の連中だけど、僕はカッコよさを重視し夏季における機能性を考えてくれなかった中二ボケのそいつらを全員まとめて射殺したかった。


 こんなダルいミッションとっとと終わらせよう。僕は忍者の様にビルのダクトや室外機を上り白き帝の軍勢の拠点の周辺に移動、様子を伺った。


「?」


 しかし僕はすぐに違和感を抱く。人の気配がしない。正確に言えば一切の音が聞こえない。それは足場にしている室外機からも。


 室外機が止まっているという事はエアコンが動いていないという事だ。それは室内でも下手をしたら熱中症で死んでしまう様な熱帯夜では不自然である。


 なるほど中に人はいないのか。カチコミを恐れて雲隠れしたか、あるいは既にもう……。


 とりあえず手ぶらで帰るのも嫌なので僕は内部に侵入して探索を開始する。


 エアコンは前述の通り稼働しておらず明かりもついていないので薄暗い。事務所にはやはり推測通り誰もおらずもぬけの殻だったけど、死体がないという事は何らかの理由でこの場所を放棄したと解釈するのが妥当だろう。


 話を聞く限りここはヤクザの事務所らしいけど掛け軸だの日本刀だの任侠映画にありがちなそれっぽいものはない。一見すると普通の会社の事務所にしか見えないものの、それ故にかえってリアルなものを感じるので恐ろしさは引き立つかもしれない。


 ただ何をするにしてもノーヒントでは何も出来ない。サードマンモードを使ってもいいけど、僕は胸元に忍ばせた小型マイクで黒鬼さんに指示を仰ぐ事にした。


「黒鬼さん、聞こえますか。事務所に入りました。中に人はいません。どうぞ」

『もしかしたらと思いましたがやはりそうでしたか。ペイルライダーの襲撃を連中も予測していたんでしょうねぇ。私もそちらに向かいますので引き続き警戒しながら待機してください』

「了解しました」


 短いやり取りの後僕は指示とも呼べない指示を受諾する。大人しく待っていてもいいけど……ここは軽く室内を調べて見るか。


「何かないかなー」


 僕は事務所の机の上を目視する。引き出しの中を調べても良かったけど変に痕跡を残すのもね。後で部下を引き連れ詳しく調べるであろう黒鬼さんに現場を荒らすなって文句も言われそうだし。


 しばらく探索をしていた僕は机の上に乱雑に置かれた競馬や競艇、競輪にまつわる本を注視する。そりゃヤクザだからギャンブルに興味はあるだろうけど、その下には着順のメモも書かれていた。


 この机の持ち主は競輪で堅実にワイド――一位から三位の二車を着順に関わらず当てる、要するに一番脳汁が出ないローリスクローリターンな選び方で賭けていたようだ。


 ワイドは複数ある賭け方の中では最も確率が高く配当も低い初心者向けの賭け方だ。もちろんどんな賭け方をしたからといってどうという事でもない話だけども。


 ただ僕はギャンブルに別の使い方がある事を知識として知っていた。それは資金洗浄、いわゆるマネーロンダリングである。問題のある方法で手にしたお金でもギャンブルをしてその配当金を受け取ればあら不思議、どこでも使える普通の綺麗なお金に見えるというわけである。


 もちろんギャンブルだから最も確率の高い方法を選んでも必ず成功するわけではない。しかしこの方法ならば特に知識や伝手がなくても誰でも出来るというメリットがある。ここにいた人物が汚いお金を、たとえば違法電子マネーを用いてマネーロンダリングをした可能性は十分にあるだろう。無制限に使える違法電子マネーならばボロ負けしたとしても損をする事は決してないしここの連中もそうやって儲けていたのだろうか。


「っ」


 探索を続けていると僕は事務所に近付くかすかな足音を聞いた。黒鬼さんかと思ったけど微妙に異なる。まさか僕の偽物か。


 いや、それにしては歩くペースが速い。普通は敵に警戒して慎重に動くのに。プロの殺し屋とは思えない――とするとここの組の構成員だろうか。


 僕は拳銃を構えていつでも撃てる準備をした。ただもしここで事を起こせば偽ペイルライダーがやっぱり僕だと思われてしまうだろうし、出来ればそんな事はしたくなかったけど……。


 よし、侵入者と遭遇してもすぐには撃たずまずは相手の目的を確認しよう。けれど話し合いで解決しなかった場合には躊躇ってはいけない。たとえ疑念が深まったとしても命よりは大事ではないし。

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