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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-50 神渡の街を愛する黒鬼

 ただそれはそれとしてやはり暇な事には間違いない。残念ながら現段階では身動きが取れないので僕は誤魔化しと暇つぶしのため部屋の中のものや窓から見える外の様子を調べてみる事にした。


「ふふ、やはり退屈ですかね」

「あ、いえ」


 挙動不審な態度が余程怪しかったのか僕の単純な思考回路は黒鬼さんにすぐに見抜かれてしまう。別に悪い事はしてないからいいんだけども。


「そういえばここって新しい住宅が多いんですね。隠れ家にしたのもそれが理由ですか?」

「ふに? どういう事?」

「昔から住んでいる人がいなくて、ご近所との人間関係が希薄でたくさん人がいるからすぐに溶け込めるのかなって事」


 僕はその発言の意味を理解出来なかったミヤタに理由を教えてあげる。なおこれは一般教養で決して犯罪を行うにあたって手に入れた知識じゃないからね?


「概ねその通りです。なかなかの洞察力ですねぇ。元々スラムだったこの地区は震災で大きな被害を受け、治安の悪いイメージを変えるという意味合いも兼ねて新しい建物がたくさん出来たんです。今じゃすっかりオシャレな住宅街になってしまいましたが昔はもっと混沌としていたんですよ。個人的にはちょっと居心地が悪くなりましたけどねぇ」

「そうなんですかー。一応復興には成功したんですね」


 汚れていても住み心地の良い田沼の様にアングラな場所を好む黒鬼さんにとっては不評だった様だけど傍から見ればこの地域の発展は成功以外の何物でもない。岩巻もこんな感じになればいいんだけどな。


「見せかけは、ですけどね。ちょこちょこ手抜き工事で建てられたものもありますし。辛い現実から逃れるためクスリに手を出した奴もそこいらじゅうにいます。後者に関しては今となっては過去形ですがね」


 黒鬼さんは寂しそうにそう呟き視線を僕からそらしてしまう。その視線を追うとそこには写真立てがあった。


 目つきの悪い少年は小さい頃の黒鬼さんだろうか。もう一人高校生くらいの少女も写っているけどこの人物は誰だろう。


「ここにいた薬物中毒者は一斉摘発の後精神病院やらムショやら見えない場所にぶち込まれました。この街の美しさはそうして作られたものなのです。見たくない醜いものを綺麗なもので適当に覆い隠して」


 もしこの写真の人物が彼の大切な人ならばもしかしてその人は死よりも悲惨な末路を辿ったのだろうか。お涙頂戴の感動ポルノでは決して描かれない様な生々しい悲劇的な結末を……。


「先ほど私があなたを助けた目的を話した際、麻薬組織の撲滅が狙いだと言いましたが本音では故郷で好き放題する奴を懲らしめたかっただけなんですよ。震災の後に金目当てのヤクザ連中に故郷や大切な人を蹂躙され、何も出来ずに悔しい想いをしたリベンジと言いますか。私情が混ざってお恥ずかしい限りですけどね」


 苦笑しながら語った黒鬼さんの言葉は僕にとっても他人事ではなかった。きっとどこかで選択を間違えていれば、僕らは東北を護る事が出来ず岩巻も神渡の街の様になっていたかもしれない。


 そこまで話を聞いて僕は少しだけ彼の事を理解してしまう。彼は目的のためならば手段を選ばない狡猾で冷酷な人間ではない。ひどく人間味にあふれ鬼の仮面を付けただけのただの故郷を想う心優しい少年だという事に僕はようやく気付いてしまったんだ。


『乳首ドリルすんのかいせんのかいすんのかいっ!』

「ふふっ、すみません、重苦しい話をしてしまいましたね」

「いえ」


 ただ黒鬼さんは話しすぎたと思い至ったのか乳首ドリルのフィニッシュでシリアスな空気を台無しにされると同時に話を中断する。っていうかこの芸人さんもいつまで乳首ドリルをするのかな?


「ジュース、ぬるくなりますよ」

「あ、はい」


 語る言葉を持たなかった僕はそのもやもやした感情をジュースと一緒に飲み込む。正直味なんてわからなかったよ。


 ただ、僕は黒鬼さんの気持ちを理解しただけでなく任侠映画に出てくる舎弟の心情も理解してしまう。きっとどうかアニキと呼ばせてくださいって縋り付く弟分はこんな気持ちなんだろうな。

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