12-45 再び現れたペイルライダーの模倣犯
おパンツ泥棒のハロウィンパイセンを無事撃破し、仕事を終えた僕らはのんびりセントマリアに帰還した。
「アキヅキさーん。任務終わりましたよー」
しかしブリッジに戻って報告した僕を待っていたのは変わらずどこか警戒した眼差しだった。むしろさっきより険しい表情になっているような?
「え、何この空気?」
「ええと、犯人はヨシノくんじゃなかったよ?」
ミヤタも子供ながらに何かを察しつつ不安げに伝える。でもアキヅキさんは、
「その事なんですが……別の問題が発生しまして」
「はあ」
先ほどまでのギャグの空気はどこへやら、人が死んだみたいに重々しい口調でそう言った。
「つい先ほど赤月会の事務所で殺人事件が起きたという連絡が警察からありました」
「赤月会? ああ、そういやピリついてるんでしたっけ。それが何か?」
どうやらこれがこの空気の理由の様だった。やっぱり人が死んだのか。報告があったのが先ほどとの事なのでどのタイミングで事件が起こったかはわからないけど正直特段驚くような事ではない。
こうなるのは事前の情報で知っていたし反社同士の喧嘩なら一般人の被害に関してはさほど気にしなくていいからだ。もちろんアキヅキさんみたいに秩序を護る立場の警察はかなり困るだろうけど。
「これが犯人と思われる人物の映像です」
「これって……ペイルライダー?」
「あら」
アキヅキさんは続けて防犯カメラの映像を見せてくれる。
そこには黒いフルフェイスメットに黒いコートとどこかで見た様な服装をしていた人物が映っていた。手には拳銃のようなものが握られているしこいつが犯人で間違いはないのだろう。
「随分と懐かしいですね。今更ペイルライダーの模倣犯だなんて」
なお言うまでもなくオリジナルのペイルライダーは他ならぬ僕である。だけどもちろん僕はとっくにペイルライダーを引退しており、これについても一切身に覚えがないのでこの事件にはなんら関係はないと断言出来る。それを証明するには証拠が必要だけど。
「ヨシノさん」
「はい」
ただ僕が一度彼女の信頼を裏切った前科がある事は紛れもない事実だ。アキヅキさんは完全に警察の眼差しになり僕を氷のように冷たい眼でじっと見つめた。
「科学捜査の結果、犯人が発砲した弾丸の線条痕がヨシノさんの持っている拳銃と一致しました。そして現場に残された毛髪もヨシノさんのDNAと一致しました」
「え?」
「あらまあ」
そして彼女は現代の司法において決定的ともいえる証拠を突き付けた。皆は突然の事にわけもわからず唖然としていたけど僕は短い時間で推理を組み立てる。
犯人はおそらくおパンツ泥棒の時に映っていたもう一人の僕だろう。そいつは僕のふりをして僕の部屋に忍び込み拳銃を盗み犯行に使った。きっと同じタイミングでハロウィンがおパンツ泥棒をしたのは彼も共犯であり囮のような役割をしていたのだろう。
これで拳銃は説明がつくけど問題はDNAだ。言うまでもなくDNAはその人個人のものであり、一卵性双生児かクローン人間でもない限り一致する事はない。こちらも僕の髪の毛を部屋から盗んだと考えるか、敵が僕のDNA情報も含めてコピーしたと考えるのが妥当だけれど……。
それらの説明に矛盾はない。だけどもっとも考えられる可能性は僕自身が犯行を行ったという可能性だ。かつて復興利権をめぐる争いで、皆を護るために一線を越えたあの時の様に。
特にアキヅキさんは一度僕を信じようとしてくれて――それを無残にも裏切った。これで信じてくれというのは馬鹿げた話に違いない。
「物的証拠のない弁明は無意味ですよね。すみません、ちょっと証拠を集めたいので外に出てきていいですか?」
「ふにに……」
「ヨシノさん……」
「みんなどうしたの? こわいかおー」
僕がそう提案するもアキヅキさんは無言だった。ブリッジにはマタンゴさんが不安げにおろおろと歩き回る音だけが聞こえ、息も出来ない程空気が澱んでいたんだ。
「そうさせてあげたいのは山々ですけどね」
「駄目っすか」
「駄目っすね。安心してください、推定無罪の原則は守りますので。私たち警察はあくまでも法と証拠に基づき捜査します」
「そうですかー。あの時の事根に持ってます?」
「それなりに無茶をしたので出世に響きましたがその事自体はそこまで恨んでいませんよ。公私混同して職権を乱用した私が悪いんですから」
「あー……なんかすみません」
僕はあの時の裏事情を知らないけどどうやらあの時彼女はかなり無茶をしたらしい。それも自らの進退をかけて……それで裏切ったわけだから流石にこれは全面的に僕が悪かったとしか言えないよね。
仕方ない、なら今回は彼女の手を借りずにやってみよう。流石にこれ以上迷惑をかけられないから。
「本当にすみませんねー! 証拠を見つけたら戻ってくるんで!」
「「ヨシノ(くん)(さん)(お兄ちゃん)っ!」」
僕は全速力でその場から逃げ出す。そりゃね、罪悪感はあったけど無実を証明するにはこれが一番手っ取り早かったからね。
「待ってください! 私はそんなつもりじゃッ!」
ただ逃げている最中アキヅキさんの悲痛な声が聞こえてきた。どうやら彼女は仕事だったから厳しく言っただけで本当はやっぱり僕の事を信じてくれていたらしい。
すみません、アキヅキさん。けど今度は絶対にあなたを裏切りませんから。
僕は心の中でそう謝罪し、捕まえようとする仲間を振り切ってセントマリアを脱出したのだった。




