12-42 緊急クエスト・おパンツ泥棒を捕まえろ
――芳野幸信の視点から――
緊急で連絡を受け、状況が飲み込めないままセントマリアに戻ると艦内は明らかにピリピリとした空気が流れていた。
話を聞かなくてもわかる。どうやら好ましくない事が起こったらしい、
「あれ、ヨシノくんもう来てたんだ」
「あ、ミヤタも来たの」
説明を待っているとミヤタとぶたにくが戻ってくる。どうやら相棒に乗って超特急で戻ってきたようだ。
「うん? 連絡があったから。さっき会ったよね」
「ぷひ?」
「さっき?」
ただどうにも話が噛み合わない。朝にセントマリアの会議室でポスターを貼る場所を決めた後僕はそれ以降ミヤタと会っていなかったのに。
「ぷひぷひ」
「?」
「ぷひ!」
不思議に思っているとぶたにくは僕に近付きものすごい勢いでニオイを嗅いで、何かに安心したのか嬉しそうにはしゃいでいた。こいつも一体どうしたんだろう。
「皆さん揃いましたね」
けれどその理由を追求しようとするとアキヅキさんの説明が始まってしまった。むう、仕方ない。この違和感は後回しにしておこう。
「それでこれは一体何の騒ぎなんですか? ただ事ではない様ですが」
おお、フィリアさんもSPの顔になっている。これもしかしてガチの何か? 今回は比較的ヌルゲーで終わりそうだと思ったのにやだなー。
「単刀直入に申し上げますとミヤタさんのおパンツが盗まれました。個室のタンスにあったものがごっそりと」
「はい?」
「ふに?」
「は?」
でもアキヅキさんの口から飛び出たのはそんななかなかインパクトのある発言だった。そして画面上には三点リーダーが表示され、そのエフェクトの再生が終わった後その場にいた全員が僕のほうに顔を向けてしまう。
「わわっ! そんなにわたしのおパンツが欲しかったの!? でもなんで!?」
「おうコラヨシノォ、ちょいツラ貸せや、ナ?」
「ついにやりおったか。警察にはいつかやると思ってましたって言うとくで」
「うちの兄がすみません……!」
「待って待って、推定無罪の原則を知らないのかな? 今回は本当に身に覚えがないから」
皆は証拠も何も一切ないのに一方的に僕が犯人だと決めつけてしまう。理不尽な日本の司法やマスコミの縮図の様な光景に僕は悲しさを通り越して虚無感を抱いてしまった。
「僕は今朝セントマリアを出てからずっと外にいてポスターの許可の交渉とかイベントの告知をしていたよ。っていうか防犯カメラがあるからすぐに事実だってわかるでしょ」
フィリアさんに締め上げながら僕はすぐに無実である事を主張するための弁明をする。機密の塊であるセントマリアの艦内には防犯カメラが多数あるのでそれを証明するのは容易いように思えた。しかし――
「……映ってますけど?」
「え?」
アキヅキさんは強張った表情でタブレットの画面を見せる。そこにはどういうわけか普通に艦内を歩く僕の姿が映し出されていたのだ。
「決まりですね。誰かこいつのズボンとパンツを脱がして足を押さえてください。高枝切りばさみはありますか?」
「これは確定ですね。でもどうしよう、子供が出来なかったら未来が変わっちゃうかも……」
「ハナコー、一応秘密にしとき。でもこれはないわー。うん。変態の遺伝子を残さないためにもそうしたほうが世のためになるかも」
「待って! ムスコには手を出すんじゃないッ!」
その弁明は事態を悪化させてしまい僕は絶体絶命の状況に置かれてしまう。本当に身に覚えがないのに一体これはどういう事だろう。だけどこのままじゃムスコと離れ離れになってしまうからなんとかしないと!
「そうだ! ほらフェイスレスとか変身能力を持っている奴がいたよね! 誰かが僕のふりをして罪を擦り付けたんだ!」
僕はひとまずその場をしのぐためにフェイスレスに罪を擦り付ける事にした。あいつがこんな事をするとは思えないしとばっちりを食らった向こうからすればたまったものじゃないだろうけど。
「こいつはこう言っていますが。皆さんはどう思います?」
「えーと……実際何者かが変身をした可能性はありますし的外れな主張ではないでしょう。変身や擬態系のスキルを持った人って結構いますから。盗まれたのがおパンツだけならいいですけどもしかしたらこれは目を欺くためのフェイクでセントマリアの機密情報が目当てだったのかもしれません。だとすれば由々しき事態です。もしそうなら実際フェイスレスかどうかはわかりませんが敵対勢力の誰かがそうした可能性もありますね」
「クッ! こんな意味不明な主張がまかり通るとは世界観ァンが憎いですッ!」
「ふう」
フィリアさんはものすごく悔しがっていたけどハナコの説明に納得して一旦僕を解放してくれる。でも筋は通っているしその可能性は本当にありうるかもしれない。
何よりもこの映像に映っている人間は間違いなく僕ではなく僕以外の何物かだという事は断言出来る。ギャグっぽいけど考えてみればこれって結構ヤバい状況なのかも……それを証明出来ないのが歯がゆいけどさ。
「話を続けていいですか? まだお伝えしたい事があるので」
「あ、はい、どうぞ」
僕の不安が伝わったのかアキヅキさんはさらに証言を続ける。彼女は続けて別の映像を見せてくれて、そこには明らかに中に誰かが入っている巨大なダンボール箱がうごめく姿が映し出されていた。
「……誰もおかしいと思わなかったんですかね、これ」
「このダンボールを被った何者かはミヤタさんの部屋に侵入、十秒にも満たない時間で外に出てセントマリアから脱出しました。一応サイモンさんが怪しみましたがダンボールの中からブヒブヒという声が聞こえたのでぶたにくちゃんが遊んでいると思ってスルーしたそうです」
「警備がガバガバにも程がありませんかね!? ダンボールでどうにかなるのはス〇ークさんの世界だけですよ!?」
「返す言葉もありません」
「サイモンさん……すみません、後で丸刈りにしておきます」
ハナコの渾身のツッコミに日英の警備のプロフェッショナルは頭を抱えてしまう。いくら優秀な人物でも部下がアホならどうしようもないのだ。
「ともあれこの人物が犯人なのは間違いないですね。僕の無実は証明されたわけですから」
「……まあ、ヨシノさんの主張が事実ならそれはそれで別の問題がありますけど」
「あ、確かに」
僕は一瞬安心したけどすぐにこれがやっぱりよろしくない事態である事に気が付いた。いずれにせよこの映像に映っている僕は偽物であり、ギャグキャラも含めれば少なくとも二名の第三者が侵入した事実は変わらなかったからだ。
「ハナコさんの先ほどの言葉を借りればこのダンボールの人物はフェイクかもしれません。というわけで緊急ミッションです。侵入者を探すため直ちにおパンツ泥棒を捕まえてください!」
「イエス、マム! ミヤタのおパンツは僕が取り返すからね!」
「うん、頑張ろうね!」
「ああうん。じゃマタンゴさんズ、缶詰あげるから適当にやっといてー」
「わーい」
ただ結局はおパンツ泥棒なのでシリアスなのかギャグなのか理解しがたい空気が流れてしまう。やる気があるのは僕とミヤタだけであり、他はイマイチ乗り切れていない様だった。
犯人が誰だか知らないけど危うくムスコをやられそうになったんだ。この借りはきっちり返させてもらうよ。




