12-40 相棒以上恋人未満な相方とチー牛で親睦イベント
黒鬼が事件現場のビルの入口周辺に戻った頃には野次馬や報道陣も参加しかなり騒がしい事になっていた。
おそらく今回の抗争は戦後最大級のものになるに違いない。もっともヤクザの戦争はつい最近も東北であった気もするが、きっとマスコミはそれも含めて面白がるのだろう。一般人にとって住む世界の違う者同士の殺し合いなど所詮日々の退屈な生活を楽しませる刺激的なスパイスにしかならないのだから。
「ギバさん、律子さん。もう話は終わりましたか?」
「とっくの昔に。いやー、疲れた疲れた。腹減ったしそろそろメシに行かないか?」
「ええ、そのつもりで声を掛けました。では行きましょうか。どこかリクエストはありますか」
「私はどこでもいいわよ」
「私もー。腹に詰めこめりゃなんでも」
ようやく会えた二人も自分と同じく長々と警察から事情聴取を受けていたのだろう、かなり疲弊している様に見えた。そんな彼女たちが欲するもの――それは間違いなく牛丼だ。
黒鬼はそう勝手に決めつけ最寄りの牛丼チェーン店に移動する。働く勤め人の英気を養うサンクチュアリへと。
黒鬼たちは牛丼チェーンのカウンター席に座り、左からギバ、黒鬼、律子の順に並んだ。カロリーを猛烈に補充したかった黒鬼とギバはチーズ牛丼を、律子はカレーを注文し数分後即座に食事が提供される。
「どうでもいいけどアレを見た後で肉は食べづらいな」
「そうですか? 私はカルビホルモン丼にしようか迷いましたが」
「狂ってやがるな」
ギバはあきれつつ右手だけでチーズ牛丼を口の中にかきこむ。かく言う彼女自身も内心では正直どうとも思っていなかったりするのだが。
「でもチーズ牛丼ってなんでこんなに美味しいのに放送禁止用語なんですかねぇ。その理屈で言えばピザも禁止にするべきだと思いますけど」
「ただの言葉狩りだろ。似たような理由で味噌煮込みうどんを使わない様にすべきだって声もあったな。知的障害者を意味する言葉の誤植のうどんと脳みそを意味する味噌の組み合わせが完全にアレじゃんってよくわからん理屈で。実際ごくごく一部では使われていたらしいがな」
「マジカルバナナなら失格になりそうなこじつけにも程がある連想ゲームですねぇ」
「まったく、言葉そのものに意味はないんだけどな」
食事中、黒鬼とギバは他愛もない雑談で盛り上がる。そして彼女はちらりと自身の左腕があった場所に視線を向け苦笑しながら話題を続けた。
「漢字の害だの石編の碍だのひらがなのがいだの言葉を変えても差別が無くなるわけじゃない。言葉なんてクソどうでもいいんだ。障がい者への差別をなくそうってうたっている市が障害者の事業所に委託していた仕事で、材料に不良品が多いから何とかしてくれって市にクレームを付けたら逆ギレされてもう取引しないって言われたりとかさー。結局上っ面だけなんだよあんなもん」
「やけに具体的ですねぇ。誰かが経験したんですかねぇ」
「けどまあ結局優しい言葉を言いながら目をそらされたり腫れ物に触る感じで扱ったりするのが一番腹立つかな。あと勝手に小さな子供で感動されるのも。こういうガラの悪い奴もいるのにな」
ギバは積もり積もった愚痴をぶちまけ左腕を持ち上げる。肘から先の袖はぶらんと揺れ何とも言えない虚しさが漂っていた。
「……恨んどるか? 俺の事を」
「何を」
「ギバちゃんの左腕を奪った事を」
「別にお前が奪ったわけじゃないだろ。あの時はどっちにしろガレキで原形をとどめない程度にぐちゃぐちゃになっていたわけだし」
ギバは『あの日』、倒壊した建物によって左腕を挟まれ切断しなければ助からない状況に陥ってしまった。
彼は命を助けたい一心で究極の決断を選択した。つまりギバからすれば黒鬼は命の恩人であるのだが、彼はそうとは思っていないらしく少なからず負い目があったのだ。
「なあ、この左腕の事でいい加減うじうじ言うのはやめようぜ」
「そうしたいんやけどなぁ」
「……ま、私も人の事は言えないけど。お互い乗り越えられないまま大人になっちまったな」
「ほんまやな。俺も、お前も、この街も」
しんみりとした空気を誤魔化す様に黒鬼はチーズ牛丼をほおばる。ハイカロリーなチーズ牛丼はズン、と重くのしかかる様に腹の中にたまる。
「だからこそミヤタたちには託したいっちゅう想いがあるんや。俺の代わりにあの復興から取り残された商店街を救ってくれるんやないか、俺の見れなかった景色を見る事が出来るんやないか、そんな事を期待しとるわけなんや」
「フッ、なら私も手伝ってやるよ。私もお前と一緒にその景色を見たいからな」
黒鬼とギバは同じチーズ牛丼を食べながら絆を深める。ただある程度盛り上がった所で黙々とカレーを食べていた律子がコホンと咳ばらいをしてから言葉を発した。
「二人とも私がいる事を忘れてないかしら。何勝手に親睦イベントを起こしているの?」
「あ、すみません。では律子さんも話に混ざりますか」
「別にいいわよ、寂しがり屋の中学生じゃないんだから」
律子は平静を装ってはいたが少なからず嫉妬はしていた。何よりどうしようもない寂しさが彼女をじわりじわりと締め付け苦しめる。
結局どれだけ尽くしても黒鬼には自分が見えていないのだ。そんな事はわかっていたはずなのに。
(こんな時はカレーを食べましょう。悲しい時には松〇のカレーを食べるに限るわ)
律子は寂しさを押し殺し、訳の分からない理屈で自らを誤魔化してほんのり辛みの強いカレーを貪った。




