12-37 『あの日』の前、輝いていた父親たちの勇姿
「あむあむ。んめーの~」
サク、サクという心地よい音を奏でながらミヤタは恍惚とした表情でジューシーなメンチカツをもしゃもしゃと食べる。いい肉を使っているのか肉の旨味がぎっしりと詰まっているし、ガツンとおなかにたまるから体力がモリモリ回復しちゃいそうだね。
「そうそう、休憩がてらDVD鑑賞でもしない? うちのライブハウスでライブをした人の過去映像、ってかお父さんたちの映像だけど」
「お、いいね!」
休憩中も実力を高める事に余念のないイナデラはポータブルDVDプレイヤーとDVDを用意しセッティングを始めた。
「ふに? イナデラちゃんのお父さんもバンドしてたの?」
「うん、ここにいるみんなのお父さんやお母さんと一緒に。インディーズだけど結構有名だったんだよ! 下手すればそのへんのプロの人より人気だったんじゃないかな?」
イナデラは誇らしげにミヤタにそう言い切った。多少反抗期気味でも父親の事はバンドマンとしては尊敬しているんだね。
「おー、これいつの?」
「私たちが生まれる前くらいじゃないかしら」
親しい人間は懐かしい映像に盛り上がる。正直他人のライブ映像なんて見てもリアクションに困るけどここは付き合ってあげよう。
「お母さん痩せてる!」
映像の中のケマの母親はドラムを担当していたけど、そんな事よりやはり気になるのがほぼほぼ別人な容姿だったという事だ。
「え? これさっきの人? 原形とどめてないじゃん」
ひかげはなかなか失礼な感想だけどこれは確かにそう思うのも無理はない。当時の彼女は髪も染めておりクールビューティー系のイケイケなお姉さんで、先ほどの三食プラスおやつにとんかつを食べていそうなザ・肉屋のオカンを体現したかのような見た目とはまるで似ても似つかなかったからだ。
「この一人だけ色が違うのはヘイザエモンのお父さんかな。空気の読めなさは親譲りだったのね」
「ヘイザエモン言うな。なんかこういう姿見たくないなあ」
スイメイいわくこのトゲトゲ銀色の髪の毛のSF作品の雑魚敵っぽいサングラスをしたインディーズ感が半端ない男性はヘイザエモンの父親らしい。漫画のキャラを実写化すると急激にダサくなる事があるけどそんな感じだ。彼らの音楽を詳しく聞いていなくてもこのバンドが売れない理由は何か、と聞かれたら僕はこいつのせいだと即答するだろう。
「この背後霊がチラチラ見切れているのはスイメイのお父さんじゃない?」
「ええ多分。コープスペイントっていうんだっけ、こういうの。あまり意味をなしてないけど」
「あ、そういう名前なんだ。プロレスラーでも結構こんなメイクをしている人がいるよね」
「いやいや、さらっと聞き捨てならない単語が聞こえたけど!?」
話を進めていると紗幸はすかさずツッコミを入れる。コープスペイントの男性の背後には確かに幽霊らしきものが映っており、その人物は何故かがっつりしましまのトラキチ装備をしていたのだ。
「これは虎が優勝した時大はしゃぎして川にダイブして死んだ人間の霊よ。私のお父さんも根っからのトラキチだから引き寄せちゃったのね」
「憑りつかれるとトラキチになっちゃうのかなあ」
「えー」
霊視解説に僕が適当に返し、それに対し紗幸は何かを言いたそうにしていたけどその言葉を飲み込む。話を聞く限りではそこまで凶悪な霊ではなさそうだけど虎党以外からすれば悪夢としか言いようがない最悪の呪いだね。
ただ、それらのツッコまざるを得ない要素を吹き飛ばすくらい別次元の存在がいた。
「で、この一際目立っているのがイナデラのお父さんか」
「うん。やっぱりすごいギターテクだなあ」
サクラギとイナデラはその人物の超絶技巧に魅入られてしまう。イナデラの父親の技術は一人だけズバ抜けており、一流のプロにも引けを取らない程の演奏をしていたのだ。
ただ僕はすぐに不自然な点に気が付いてしまう。いや、別に不自然ではないけど……こちらの映像には今はない親指と人差し指があるべき場所にあったという点だ。
「また演奏とかしてくれないかなあ」
「うーん、無理じゃない? お父さんは音楽番組を見るだけでも機嫌が悪くなるし。昔はかっこよかったらしいけどね。『あの日』の前は」
イナデラが寂しそうにそう口にし、僕はようやく腑に落ちる。推測だけどイナデラの父親は震災で負傷し指を失ったのだろう。そして当然ミュージシャンとしての彼は死に……あんな自堕落な性格になってしまったというわけか。
「どうせならお父さんにもあたしたちのライブを見に来てほしいけど無理だろうなあ……」
「イナデラちゃん……」
彼女はあるはずのない可能性をイメージしてしょんぼりしてしまう。彼にとって音楽がどれほど大切なモノだったのかどうかはわからないけど、音楽に関わる全てを拒絶する様になったという事はそれだけ大切だったという事に違いない。
「なら誘ってみれば?」
「A子さん」
そこに導きの篝火を灯したのは先生役のA子だった。彼女は駅前で応援歌を歌っていたように優しく彼女に語り掛けたんだ。
「音楽に力はない。でも歌う人間には力がある。歌に想いを込めればきっとお父さんにも伝わるはずだよ」
「A子さん……はい! ぎゃふんと感動させてやるんですから!」
単純なイナデラは励まされた事によりすぐに元気を取り戻す。最初は親子仲が悪いように見えたけど、なんだかんだで彼女はかつての輝きを失った父親の事を気にしていたんだね。
「うん、その意気だよ。まあ伝わりすぎるのもそれはそれで困るけどね」
「え? どういう意味です?」
「?」
「ううん、何でもないよ」
ただA子は切なそうに不可解な事を口にする。僕らにはその意味が分からなかったけど、それは彼女の本心からの言葉なのは間違いないと確信してしまった。
「さーて、たくさん食べたしそろそろ休憩終わりなの! わたしたちは皆を応援するからね!」
「うん! よろしく頼むよ!」
最後にミヤタが威勢のいい声で締めくくりキリのいいところで練習を再開する。
皆それぞれ事情を抱えているんだろうなあ。よし、なら僕たちは頑張る皆を一生懸命応援するだけだよ。




