12-35 ポスター作りと兵庫編の方針会議
一旦イナデラたちと別れた僕たちは早速音楽イベントのポスターを作るため隣の部屋で絵を描いていた。
「うーん、どんなデザインがいいかなあ。まだ始まってもいないのにすっごいワクワクするね!」
「はい! 素敵なポスターを作って素敵なイベントにしましょう!」
いつもの様にミヤタと腰巾着のハナコが文化祭気分で率先して取り組み、他がそのバックアップを担当し。祭りは本番より準備している時のほうが楽しいっていうよね。
「ひかげ、あんた確か絵が描けたわよね。いろいろ案を出すからちょっとあれこれ描いてくれるかしら。あたしはこういうのはからっきし駄目で」
「あ、うん、いいけど」
イラストの原画はチーム明日花のホームページのデザインなどを担当してくれたひかげが担う事になった。こういう作業は適性がだいぶ分かれるから脳筋のレイカには無理だろうな。
「ふふ、責任重大ですね、ひかげさん」
「むう、プレッシャーかけないでよ」
「ぼくもえをかくよー」
「かきかきー」
芸術のセンスがないひかげのお友達も戦力外通告を受けたメンバーの一人である。きぃは絵を描くのに必要な道具とかを準備とかしてくれたけど、マタンゴさんはいつもの様に落書きを描いて思い思いに遊び始めた。
「まあ商店街の小さなイベントだし気負わずにそれっぽいものを描けばいいか。そもそも蓑呂木商店街って何が有名なの?」
「主だったものは会場となるライブハウス、怪獣のマスコットのミノキング、スイメイさんの怪談屋ですね。最近は雰囲気のある場所を生かしコスプレイベントもしているそうです」
優秀なメイドのフィリアさんは事前に調べていたらしくひかげにアドバイスする。つまりバンドメンバーは全員商店街の有名なものに関係しているのか。
「スタイリッシュにするか、詰め込みタイプにするか……うーん、悩ましいね」
「ひかげの好きにするといいよ。こっちは全力でフォローするから」
「丸投げするよりも手伝って欲しいんだけど」
彼女はブーブーと文句を言いつつも早速下描きを描き始めた。これからどんな絵が出来上がるのか楽しみで仕方がないね。
「ふふ、楽しそうだね」
「ありゃ、シオン君?」
和気あいあいと作業をしていると部屋にシオンがやって来た。はて、まだ練習が始まって間もないのに何をしているのだろう。
「えーと、なんか用事でもあるの?」
「ああ。ひかげには中華街でやんわりと話したけど俺たちの目的を少しだけ教えておきたいんだ。今は黒鬼たちもいないみたいだし。ああ、上からも許可は取っておいたよ。余計な面倒事を避けたいのはうちの上司も同じだからさ」
「ふむ」
ほのぼのとした空気はその説明で若干ピリッとしたものに変わる。これは大事な話だししっかりと聞き逃さない様にしよう。
「それでその目的っていうのは? 君は僕らに何を教えてくれるのかな」
「簡単に説明すると俺たちの目的は白き帝の軍勢の下部組織であるマフィアと赤月会を仲違いさせて潰し合わせる事なんだ。元々両者は良好な関係とは言えなかったけど、そのためにあれこれ不和を生み出す種も用意してあって既に抗争も始まっている。君たちにはその喧嘩の邪魔をしないでしてほしいんだ」
「そりゃまた随分と血生臭い話やのう。レイカは喜びそうやけど」
「まったくもって同意するわ。そんな楽しそうなイベントがあるのに参加しちゃいけないって生殺しにも程があるわ」
シオンが目的を語ると反社コンビのドーラとレイカはその話題に食いついた。紗幸は苦笑していたけど、僕はその話を聞きながらどう行動すべきかすぐに分析を始めていた。
「もちろん双方の組織に死者は出るだろう。けれど五城楼の騒動の時の様に民間人に被害が出る事はない。警察の横槍で共倒れになるかもしれない。ただ一つだけ言える事は君たちが介入しなくても善良な市民は誰も困らなくて問題は解決するって事なんだ」
「流れ弾や勘違いで一般人が襲われる事もあるかとは思いますが」
「そうなったらそうなったで警察は本気を出すでしょう。ミドウの一件で警察は信頼回復のために必死になっていますからね」
フィリアさんの鋭い指摘にシオンは反論する。若干ブラックな話だけど納得のいく説明ではあるね。
「ソウゲツの失脚により白き帝の軍勢は大幅に弱体化を始めた。特に彼の傘下の組織は新しい指導者のミドウにつくか造反するかで内輪もめをしている。内部からガタガタになっている今が連中を潰すチャンスなんだ」
「ソウゲツがねえ。あいつってすごい奴に見えてへっぽこだったけど、実は本当はやっぱりすごい奴だったり?」
ソウゲツを倒したひかげはむぅ、と首をかしげてしまう。あいつの小物っぷりは伝え聞くだけでも様々なエピソードがあるけど、結局どれが正しい人物像なのかわからなくなってしまったからだ。
「ひかげが思っているよりもずっとね。あいつの権力はハッタリによって作られたものだけどあの男には確かに金や知略、そしてカリスマ性でそれを現実にするだけの能力があった。ソウゲツは四幹部の中で最弱だったけど間違いなく最強の存在だった。単純な力の強さだけが上下を決める物差しじゃないんだよ」
「ふにぃ、なんだかわかったようなわかんなかったような」
ミヤタは難しい話に頭からぷしゅー、と煙を出してしまう。僕もソウゲツの事は正直舐めていたけどシオンが言うのなら彼は確かに傑物だったんだろうな。
「話は分かったよ、シオン君。それでどうしますか、ミヤタさん」
「どうするって」
「シオン君たちのやっている事はグレーですけど白き帝の軍勢を倒すのに必要な事で普通の人が困る可能性も低いです。ゼロではありませんが。そして私たちが介入すれば問題は余計にこじれる可能性もあります。その上で聞きたいんですが……チーム明日花はこの問題に対処しますか?」
「うーん」
全ての話を聞いたハナコはミヤタの意見を伺う。ただその口ぶりからは彼女はシオンに賛成であり、最初から答えが決まっていた誘導尋問にも思えたんだ。
当然ミヤタは悩んでしまう。シオン達宮澤劇団のやり方は決して正しくはない。それは根っからの正義のヒーローであるミヤタにとっては受け入れ難かったらしい。
「ヨシノくんは?」
困ってしまったミヤタはたまらず僕に助けを求める。そしてそうした事により会議の結論は決まってしまった。何故なら必要とあらばグレーなやり方も是とする僕は完全にシオンと同じ考えの立場だったからだ。
「僕はシオンの提案通り何もしなくていいと思うよ。途中で民間人に被害が出れば別だけど基本的には悪い奴らが潰し合っているだけだからさ」
「うーん、ヨシノくんがそういうのなら」
彼女はかなりしぶしぶと言った様子だけど僕の意見を受け入れ何もしない事を決断した。
「……ま、ミヤちゃんがそういうのなら」
「お嬢様がそれをお望みならば」
「うぃ」
「せやなあ」
それに追随し他の皆も同意する事に決める。そりゃこの状況で反論は出来ないよね、もし下手に動いたらそれこそ事態を悪化させるかもしれないし。
「ありがとう。話したい事はこれだけだから。それじゃあ俺は練習に戻るね」
「うん、頑張ってね」
「ふにー」
密約が上手くいったシオンは満足げに戻っていった。もちろんミヤタは納得がいっていないのかアホ毛を不機嫌そうに揺らしていたけど。
とにかく僕たちは当初の予定通り商店街のイベントのお手伝いをしよう。波風を立てず、穏便かつ平和的に解決出来るのならそれで一番だからさ。




