12-33 宮澤劇団の表の顔
困惑するハナコに音楽指導の助っ人として現れたシオンは質問に答えてくれた。
「知っての通り俺たちとA子は仲良しでね。一人じゃ心細いから音楽の心得がある俺たちを助っ人に呼んだんだよ」
「そういやシオン君はジャズ奏者もやってたっけ。でもサブロウとカンパネラも出来たんだ」
ひかげはほぼ裏設定な設定を引っ張り出し、僕も五城楼で女体化シオンと出会った時の衝撃を思い出した。結局彼はどうやって女体化をしたんだろう?
「まあ俺たちは一応劇団員だからな。全員演劇とか楽器とか芸能に関する何かしらのスキルはあるんだよ。俺はそこまで得意じゃないけど初心者に軽く教える程度の事は出来るぜ」
「ネルはドラムが得意だ! あとラッパも得意だぞ!」
「劇団員ねえ」
宮澤劇団は対外的には存在しない事になっている組織なのでサブロウはぼかしながら答える。なるほど、アラディア王国はそうやって世界各国にスパイを送り込んでいるわけか。
芸能関係の仕事は頻繁に海外を移動しても怪しまれないし外国人であってもそこに存在して違和感はない。実際シオンは上手に潜伏していたからね。
何より最大のメリットは身分が証明されなくても位の高い人と接しやすいという部分だろう。もちろん大前提としてセレブにお近付きになれる程度のランクの音楽家や役者になっていないと駄目だけど。
「へぇ、あなたたちは劇団員の方なんですか。なんていう劇団なんですか?」
「宮澤劇団ってとこだ。マイナーだしホームページも大昔のまま更新されてないから知らないだろうけど」
興味を示したイナデラの質問にサブロウは怪しまれないよう正直に答えた。一見馬鹿な様に思えるけど、ほとんどの一般人は宮澤劇団の存在を知らないし知っていてもスパイ組織だという認識はないので正解っちゃあ正解ではあるかもしれない。
「宮澤劇団……都市伝説というか陰謀論でそんなのがあったわね。アラディア王国には宮澤劇団っていうスパイ組織があって、そこの組織のトップのミヤザワは実質的な国家元首であり世界を支配していると。もしあなたがそうならぜひ詳しくお話を伺いたいのだけれど」
「はは、俺も聞いた事があるよ。似た様な話でハンバーガー屋だかピザ屋だか牛丼屋が影の政府の拠点っていうのがあったな。正直これと言った事は何もないから期待されても困るんだけどなあ」
が、奇譚蒐集家のスイメイは真実を知っていたらしくどこか嬉しそうに尋ねた。もちろんサブロウは笑ってシラを切っていたけどやっぱり今の時代はいくら秘密にしても完璧には隠しきれないんだな。
陰謀論は九十九パーセントが嘘で残りの一パーセントは真実だと言われている。多くの人はたとえこの話を聞いたとしても馬鹿げた話だと一笑に付すんだろうな。
「さて、こっちも暇じゃない。与太話をしている暇があったらとっとと練習するぞ」
「あ、はい! それじゃあ宜しくお願い致します!」
「ああ! ネルたちに任せろ!」
イナデラたちもそんな民衆の一人だった。彼女たちは彼らが国家のために暗躍するスパイとは露知らず、最高の助っ人として彼らを快く受け入れたんだ。
「うーん、ま、いっか」
僕は少し考えてその申し出を受諾する。たとえ後ろ暗い事があっても流石に今回は彼女たちに害を為す事もないだろう。そんな事をしてもアラディア王国には何のメリットもないし純粋に手伝いに来てくれたっていう解釈でいいよね。




