12-32 バンド練習初日
そんなこんなで始まった練習初日。女子高生と軽音の組み合わせは青春モノでは鉄板だけど基本的に序盤で盛り上がるシーンの一つではある。
ぴょろろんぴょろろん。
しかし練習場所である空き店舗からは酒飲みが宴会で演奏する様な珍妙なメロディーが流れてきた。
あるいは変なおじさんのテーマ曲であろうか? あれって原曲は沖縄の曲なんだっけ。作曲者が沖縄県の行政から嫌われてことある事にハブられているから知名度は低いけど。沖縄だけにね。
ほどほどに脱力してランダムでデバフをくらいそうなその曲を演奏しているのは発起人であるイナデラだ。彼女は汗をほとぼしらせてギターをかき鳴らし、最後に思い切って弦をはじいて清々しい顔で天を仰いだ。
「どう!?」
「ここは忌憚のない意見を言わせてもらうよ。才能ないから止めちまえ」
「ぐべッ!」
僕がドストレートに感想を述べるとイナデラはショックで即死してしまった。だけどここは空気なんて読まずに正直に伝えるのも優しさだよね。
「えと、えと、えーと、ハートは伝わって来たの!」
「曖昧な優しさはかえって傷つけますよ、お嬢様」
あまり空気が読めないミヤタですらこの演奏はねぇな、と思ったらしくやんわりとした言い方にとどめる。でもねぇ、やっぱりこれは流石にね、ちょっと人に聞かせられるレベルじゃないよね。
「う、うーん。ギターの弾き方は間違っていないんだけど……何でだろうね?」
指導員のA子もあまりの酷さに匙を投げてしまう。彼女が善良な人間だったからいいものの人によっては役目を放棄して帰ってしまいそうなほどだったというのに。
「うう、この中じゃ一番経験者なのに~」
「おかしいわね。前に家から流れるギターの音色を聞いた時はもう少し形になっていた気もするけど」
ただスイメイだけは違うリアクションをして違和感を抱いていた様だ。でもちゃんと弾けるのならそうしない理由なんてないはずなのに。
「え? ギター? 家から? あたし家でギター弾いた事ないよ。お父さんの機嫌が悪くなるから」
「え?」
「え?」
「も、もしかして怖い話? やだ~」
話が食い違っている事に気が付いた二人は互いに困惑し、ケマは身をよじってあざとく怖がった。ホラー……って程じゃないけどどうしてこうなったのかなあ。
「うーん、僕もギターが弾けるのでイナデラさんにはボーカルに専念してもらいますか?」
「付け焼刃でものにするよりもそっちのほうが早いかな。サクラギ君はなかなか上手だし」
とにかく今は謎の究明よりもライブの成功のためA子は彼の意見に同意する。サクラギも抜きんでて上手ではないけどイナデラのそれとは天と地ほどの差があったからそうするのが妥当な線だろう。
「イナデラちゃんもそれでいい?」
「は~い。がっくし」
戦力外通告をされたイナデラは不本意そうだったけどその意見を受け入れた。彼女には悪いけど時間は有限だ、適材適所で頑張るしかないだろう。
「でも指導をするのがA子だけで大丈夫なの? あんたも別に指導を専門にしてる人ってわけじゃないでしょ」
散々な結果にレイカは少し厳しい事を言ってしまう。正直このレベルかつ普通以下の指導者じゃ短期間でお金を取るレベルに仕上げるのは絶望的だったので無理もないだろう。
「ちゃんと手は打ってあるから。カモン!」
「やあ」
「おっす」
「お菓子がもらえると聞いてやってきたぞ!」
しかしA子はニコッと笑い助っ人を召喚する。その人物は何とアラディア王国の工作員シオンとサブロウとカンパネラだったのだ。
「し、シオン君? 何でここに」
何故バンドの練習の助っ人に宮澤劇団のスパイたちが――だけど一番驚いていたのは彼に関する全ての事情を知っていたハナコだった。




