12-31 底辺配信者、ヘイザエモンの勧誘
順調にバンドのメンバーを増やし僕らは最後に洋服屋を訪れた。昔は流行の最先端を行っていたんだろうけど、商品はどれも中高年マダムが好みそうなものばかりで今はどうやって食いつないでいるのかも怪しい程度に閑散としている。
「お邪魔しまーす」
親しき中にも礼儀あり、イナデラは最低限の礼儀を払い一応挨拶をしてから店を素通りして居住スペースに入った。
というか友人の彼女たちはともかくほぼ他人な僕らもいきなり家に押し掛けたけど失礼じゃなかったかな。手土産くらい用意しておけば良かったよ。
年季の入った廊下を歩くと最近よく聞く萌えポップなアニソンが聞こえてくる。よく歌ってみた、踊ってみた系の動画で流れているあの曲だね。
「こんちゃーす」
「キャハ! ヘイ、ヘイ、ヘイ!」
イナデラがふすまを開けると、部屋の中では何かのアニメのコスプレをしていたヘイザエモンが三脚にセットしたスマホのカメラの前で全力で歌いながら踊っていた。先ほど配信がどうのこうのって言っていたからこれを撮影して投稿するのかな。
しかし彼女は僕らの存在に気付く事なく最高に痛々しい笑顔で熱唱し踊り狂っていた。著作権があるから歌詞は流せないけど、それではしばしの間この生き地獄の様な時間をお楽しみください。
それにしても絶妙にいじりにくい程度に歌もダンスも下手だなあ。声はアイドル声優みたいで可愛らしいけど……くどいけど痛々しいね、うん。
「うげ」
ヘイザエモンはダンスの途中でようやく僕たちの存在に気付き動きを止めてしまう。そして何も言わずに機材を操作して撮影を止め、音楽も停止させた。
「ちょっと何しに来たの。撮影中は部屋に入らないでっていつも言ってるじゃん!」
「ごめんなさいなのー。でも楽しそうだったの!」
「ああどうも」
彼女は明らかに迷惑そうだったのでミヤタはすぐに謝罪する。コスプレをするオタクにも色々いるけど彼女は性格が悪いギャルタイプみたいだ。売れるためにグラドルからコスプレイヤーに鞍替えしライバルを蹴落とすためにあれこれする人もいるらしいけど、正直そういう手段を選ばない崖っぷちコスプレイヤーを連想してしまいあまり印象はよくなかった。
「別にいいでしょ、誰も見ないんだし。ねえヘイザエモン。あんたの動画の最高再生回数ってどのくらいだっけ?」
「……五百くらい」
「あれ、三百くらいじゃなかったっけ」
「いいじゃない! 二百くらい誤差よ! あとヘイザエモン言うな! 私はその初対面で必ず覚えられる苗字が大嫌いなのよ!」
イナデラは彼女を煽るとムキー、と小物臭のする反応で怒りだした。どうやら彼女は世間一般でいう所の泡沫配信者の様だ。
「インフルエンサーからすればむしろ得する気もするけど」
「……確かにそうかも。ならこれもある意味天賦の才なのかな!?」
「ソウカモネー」
だがけだるげなスイメイの指摘にヘイザエモンはすぐにニヤリと喜んでしまう。怒ったり喜んだり忙しい奴なこって。
「ねーねー、私たちバンドをする事になったんだ。ヘイザエモンちゃんもどう?」
「はあ? バンド? 何でそんな話になったの」
「イベントで。私とサクラギも成り行きで参加する事になったわ」
「ふーん」
友人たちは早速ここに来た目的について話した。ただ彼女もまたあまり興味を示さずやる気がないように見える。
「えー。やらないの?」
「だって私は配信とかで忙しいし」
誰も見ないだろ、なんて即交渉が決裂しそうな事は口が裂けても言えない。よし、ここはハナコにお任せするか。僕は彼女に目配せをすると任せてくださいと言わんばかりに頼もしい笑みを浮かべた。
「ヘイザエモンさん。でも正直最近閲覧数が伸び悩んでいるって思っていませんか?」
「まあ……否定はしないけど」
ヘイザエモンはほぼ面識のないハナコに迫られ困惑してしまう。だけど彼女は怯んでいる隙にすかさず畳みかけた。
「同じ事をしていても同じ結果になるだけです。あれこれ試してみるのもいいかもしれませんよ」
「うーん。確かにそれもそうかも……うん、やってみよっか!」
コミュ力がチーム明日花でもトップクラスなハナコのおかげで交渉は無事成功する。何よりも正史で展開を知っていたというアドバンテージがあったのが一番大きいんだろうけど。
「おお! これで五人目だ! これだけ揃えば十分だね! 早速次のステップに進もうか! これからあたしたちのストーリーが始まるんだー!」
「わっふー! やったね! うぇーい!」
喜びのあまりミヤタはフライングでイナデラとハイタッチをしてしまう。まあ前祝って事でいいよね。
さあ、何はともあれこれでメンバーは揃った。それじゃあA子に連絡を取って本格的な練習とかをスタートしようか。




