12-30 怪談屋のスイメイと助手のサクラギの勧誘
バンドのメンバーを集めるため僕らが最初に訪れたのは怪談屋なる不思議な場所だった。
「ねーねー、ここは何のお店なの? ちょっと不気味だけど」
店の外観はなかなか雰囲気があり、怖いものにある程度耐性のあるミヤタも入る事に二の足を踏んでしまった。そもそもこの商店街自体が薄暗くて怖いからなあ。
「ここは怪談屋。怖い話を売り買いするお店だよ。この商店街じゃ一番儲かってるんじゃないかな。メインの収入は本にした時の印税らしいけど」
「ほーん」
ケマの説明を聞いてもピンとこなかったけどとりあえず中に入ろう。売れそうな怖い話……なんかあったかな?
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ」
「やっほー、儲かってる?」
「ぼちぼちでんなー。いい加減このくだりやめない?」
イナデラは店の主であるスイメイに身内のノリで第三者にはわからない挨拶をした。紙袋を被ったサクラギもいるし目的の人物は全員揃っているし丁度いいね。
「あら、ハナコたちも来たの?」
「ひかげちゃんこそ」
「やほー」
チーム明日花からはひかげとマタンゴさんズが参加しており、ホラー系が苦手な癖に興味津々な彼女は怖いもの見たさでこの店にプライベートで訪れていた様だ。
「くるくるー」
「くらくてじめじめー」
キノコのマタンゴさんズにとっては暗い店内は快適らしく水を得た魚の様にはしゃいでいる。皆のおかげでホラー要素が皆無になり微妙に営業妨害になっちゃったね。
「それで何の用? 学校で使えそうな程々にくだらないネタ系の怪談は今はないわよ」
「違う違う、今回は商店街を盛り上げるための素敵なアイデアについて話そうと!」
「ああそう。あなたは今日もお金を落とさないのね。たまにはうちの売り上げに貢献して頂戴」
やや不機嫌そうなスイメイはイナデラを突っぱねる。あまり言いたくないけどこのお店は明らかに毛色が違うし、賑やかになった所で恩恵は少ないし既に儲かっている彼女からすれば商店街の振興はさほど興味がないのかもしれない。なら非協力的なのも納得だけど。
「まあまあ、とりあえず話くらい聞いてあげたら」
サクラギはおどおどとしながらスイメイにそう促す。話が分かる彼を起点に交渉してもいいけどもう少し様子を見てみよう。
「むう、ならお金を払えばいいんだよね。じゃあちょうど良さそうなお話を頂戴」
「毎度あり」
イナデラはスイメイの要望を聞いて百円玉を机の上に置く。手間賃と考えればかなり安いしこれでも別にいいか。
「ならそこのキノコのゾンビ、マタンゴさんについての小ネタを一つ教えてあげましょう」
「マタンゴさんの?」
「ぼく?」
彼女が話したのは僕たちにとって最も身近なゾンビについてだった。だけどこんな可愛さしかないキノコにどんなホラー要素があるのだろうか。
「知っての通りマタンゴさんには缶詰を集める習性があるわ。カラスが光るものを好む様に。その理由について考えた事はあるかしら」
「いや特に。考えた事もないね」
「その理由はね、同じ系統のゾンビにシュリーカーというゾンビがいるんだけど、彼らは殺した獲物の脳味噌を缶詰に入れてコレクションする習性があるの。マタンゴさんが缶詰を集めるのはその名残だとかなんとか」
「何それ怖すぎるの!」
「うわあ……知りたくなかったなあ」
スイメイは裏設定、ではなくマタンゴさんにまつわるホラーな話を語ってくれた。なんていうか夢が壊れるショッキングな真実である。
「のうみそくれー」
「ひぃ~」
マタンゴさんは悪ノリをして某ゾンビ映画のセリフでひかげを怖がらせる。ただ結局はマタンゴさんだからそんなに怖がってはいなかったよ。
「ねえねえ、もっとちょーだい! はい!」
「いいけど」
欲しがりなミヤタは身銭を切りブタのがま口から百円玉を取り出して支払った。彼女も仕事なので代金を受け取ったけど若干迷惑そうに見えるのは気のせいかな。
「なら今度はドッペルゲンガーの話をしましょう」
「ドッペルゲンガーって自分にそっくりな人で見たら死ぬって奴だっけ」
「ええ。ドッペルゲンガーの正体は何か。諸説あるけどそれは平行世界の自分という説があるの」
「平行世界……」
僕とハナコはその単語に反応してしまう。僕のサードマンモードはある意味ドッペルゲンガーだし他人事じゃなかったからね。
「ドッペルゲンガーを見たら死ぬのは整合性を保つために二つの存在が融合し消滅するから、というのがその理由よ。あなたももし自分とそっくりな人を見たら気をつけなさい。相手の名前と顔を認識した瞬間存在が統合され消滅してしまうから」
「ほへー。じゃ、じゃあハナコちゃんはどうなるの!? 結構そっくりだったよね!」
「多分違うと思うので大丈夫だと思いますよ」
「そっかー、なら安心なの!」
ミヤタは成長した時の事を思い出しひどく怯えてしまったけどその説明にすぐにホッとする。でもそうか、なかなか興味深い仮説だね。
平行世界とは違うけど未来人の場合はどうなるのだろう。もし未来人が過去の自分と出会ってしまったら同じ現象が起きるのだろうか。試してみるつもりはないけども。
「ああ、似た様な話でクローン人間生産工場っていう都市伝説もあるわね」
「クローン人間?」
「あー、それあたしも聞いた事ある」
「私もー。ネオユートピアにクローン兵を作る工場があったんだっけ」
「僕は聞いた事ないですけど」
スイメイはおまけで別の都市伝説の話もしてくれた。随分と胡散臭さしかない話だけどどうやら地元民の間では結構有名な都市伝説らしい。
「ネオユートピアにはとある国の秘密基地があってそこでクローン兵を作っていて、放棄された工場から兵隊が逃げ出した。だから海崎にはそっくりな顔をした少年をよく見かけて、アイデンティティを保つために自分と同じ顔の人間を殺しまくる、そんな話だね」
イナデラはその都市伝説について解説をしてくれた。都市伝説ってやたらそういうクローンとか人面犬みたいなマッドサイエンスな実験が好きだよね。
「へー、それってどんな顔?」
「それは……お前だァ!」
「それ別の奴だよね」
「小山田ァ!」
「誰だよ」
「そ、そんな! だからオリンピックのあの人は消えちゃったの!?」
「それは別の理由だと思うよ」
ホラーな店の雰囲気を無視して関西人らしくイナデラとケマはこれでもかとボケまくる。いいね、流石はほぼ大阪な海崎市民だ。ぜひともチーム明日花にスカウトしたいよ。
「って、話が思いのほか盛り上がっちゃった! これだけ怖い話を買ってあげたんだから耳寄りなとっても素敵な話をしてもいいよね!」
「恐怖のみそ汁とか使い古されたしょうもない話じゃなければいいわよ」
「青い血なら」
「それももうあるから」
ただイナデラは当初の目的を思い出し軌道修正を試みて本筋に戻してしまう。もう少し話を聞いてみたかったけれどやっぱ本編を進めないと。
「イベントの話なんだけどさ、あたしたちでバンドを組もうって考えていてね。スイメイとサクラギももちろんやってくれるよね!」
「バンドねぇ」
「音楽イベントですか。どうせ暇なので僕は構いませんけど」
スイメイは気乗りしていない様子だったけどサクラギはまあまあ好感触だった。やはり付き合いが長いのかとりあえず却下せずに考えてはくれるらしい。
「まあいいでしょう。物は試しでやるだけやってみましょうか」
「おお! 恩に着るよ!」
「わお!」
そしてさほど交渉する事無くあっさり勧誘は成功し皆は手を叩いて喜んだ。これで四人、バンドをするにはこの時点でも十分だね。でももうちょっと粘ってもいいかも。
「よーし、詳しい話は後にしてじゃあ次に行ってみよ~! あたしの後に続けー!」
「わっふー! とてちてとてちて~」
猪突猛進、うちのリーダーにも匹敵するほど行動力のあるイナデラはミヤタと共に商店街を疾走する。今回のクエストはいつもより輪をかけて騒がしいねぇ。




