12-29 空へと旅立ったアストロじい
父親と喧嘩したイナデラを追いかけて外に出たけど、彼女もミヤタも走って移動したのかすぐ近くにはないなかった。
「うずうず」
ただそれはそれとしてハナコはものすごく嬉しそうだった。この状況で喜ぶとかサイコパスしかいないけど何となくその理由を察していた僕は一応話を聞いてみる。
「何ニヤニヤしてるの、ハナコ?」
「だってこれもろ青春じゃないですか! ネタバレになるので言えませんけども! とにかく正史通りにすればハイ!」
「だろうねぇ。それを聞いて一安心したよ。まずは追いかければいいんだよね」
商店街を盛り上げようと奮闘するイナデラと全てに諦観した父親の喧嘩。一般的には悲しい事だけど最終的にハッピーエンドになればそれもまたサクセスストーリーを盛り上げるためのスパイスになるのだろう。
ならば黒子である僕らは目立たない様に暗躍しその舞台を成功させるまでだ。サクッと物語を進めたかった僕はひとまずサードマンモードを発動しイナデラたちを追いかけた。
「はぁ~」
「よしよし、いいこいいこ」
二人はすぐに見つかりイナデラは商店街の入口である猫の看板の下でミヤタに慰められていた。子供に甘えるとかいい年して何をやっているんだか。というか普通に羨ましいよ。
「大丈夫ですか、イナデラさん」
「うん、なんかごめんね、みっともない所見せちゃって」
ハナコが声をかけるとイナデラはすぐに立ち直り苦笑する。しかしこのみっともない所とはどっちの事を指すのだろうか。どちらかと言うと今の状況のほうがみっともない姿だけども。
「別にいいよ。悪いのは役目を果たしていない会長さんだから」
「そうなんだけどさー……まあお父さんだけのせいじゃないけどね、諦めムードは全体的に漂っているし」
僕はひとまず何となく印象の悪かったお父さんを下げる事で励まそうとしたけど、それは正解ではなかったらしくイナデラは余計落ち込んでしまう。
たとえ義務を果たさず現状を変えるため何もしなかったとしても親には違いないという事か。機嫌が悪くなったのはお父さんの発言からで、その前は普通に会話をしていたから別に仲が悪いというわけではないのだろう。
「けどどうしてそんなにイナデラは商店街の振興にこだわるんだい? 言っちゃ悪いけどここは普通の寂れた商店街とは次元が違う。どう考えてもかなり大変そうなのに」
僕は問題を解決するためじゃなく、純粋に同じ様に故郷を想う人間として彼女の想いが知りたかったのでそんな質問をした。
蓑呂木商店街は普通のシャッター商店街とは違い最早廃墟になる寸前の限界を迎えかけている商店街だ。他に道もあっただろうにどうしてそんな茨の道をあえて突き進むのか僕はどうしても気になったんだ。
「うーん、何でだろうね。あたしにもよくわかんない」
けれどイナデラは想像していなかった答えを述べたので僕は拍子抜けしてしまう。いや、確かに漫画とかじゃなんかすごいドラマチックな動機があるけど現実はそんなものなのだろうか。
「ただ前の商工会の会長……あたしのおじいちゃんがね、嬉しそうに昔の事を話してたんだ。賑わっていた当時の写真とか見せてくれて。あたしが生まれた頃にはもう寂れていたけどなんかその風景を見たくて。おじいちゃんはお空の上にいるからこのイベントが成功しても見るのは無理なんだけどね」
「そっか、君のおじいさんは、」
「うん、今宇宙でなんかよくわかんない仕事してるよ。人工太陽がどうのこうので」
「出そうになった涙を返せや」
続けて予想だにしない答え第二発。けどまさかここで人工太陽が出てくるとは。確かに最近は宇宙ビジネスが活発で官民を挙げて宇宙飛行士やメカニックを増やしているけども。
「あはは、なんか昔から宇宙が好きだったんだって。日本人の宇宙飛行士じゃ最高齢だってさ。本にもなったよ」
「そういえば本屋で見た様な……っていうか一体何があったらシャッター商店街の商工会の会長から宇宙飛行士にジョブチェンジ出来るの。身近にそんな映画になりそうなサクセスストーリーがあるのになんで君の親父さんや商店街の人は諦めてるの。明らかにシャッター商店街を盛り上げるより難易度高いでしょ」
「いやむしろこっちのほうが難易度高いよ」
「それもそっか」
「そこで納得されるのも悲しいんだけど。でもおじいちゃんが会長のままだったら商店街ももうちょっと賑やかになっていたかもね」
どうやら話を聞く限り彼女のおじいちゃんはレイトン元首相にも匹敵するくらいのスーパーおじいちゃんだった様だ。きっとそんなに情熱と行動力のある人だったら確かにシャッター商店街くらいどうにか出来ただろう。
「ただおじいちゃんは宇宙飛行士になるために会長をやめちゃって。そのあたりから商店街はどんどん寂れていって……だから周りの人は自分たちを見捨てて宇宙に行くなんて、ってちょっと恨んでるんだよ」
「なかなか感情移入出来ない心情だね。センター試験の国語のテストで出たら誰も答えられないよ。たまにそういう変な問題あるけど」
「自分たちを見捨てて宇宙に行くなんて、って言葉だけ聞けばSF系のなろう小説の一文みたいですね。ここからなんやかんやで人類が滅びファンタジー世界になって宇宙に行った人たちが数千年後に戻ってきて戦争になったりするんでしょうか」
「確かにね。あたしもこんなセリフを人生で言うなんて思わなかったよ」
サブカルが好きなハナコのリアクションがよくわからなかったのかイナデラはとりあえず笑う。おじいちゃんがどんな人生を送って来たのか興味は尽きないけど、それはそれとして今は地上に残された地球人の話をしないと。
「普通はこういう成功例があるとよーし、頑張ろうってなるよね。でもお父さんたちは違った。身近に成功者がいる事で余計に惨めな気持ちになったんだよ。どうしてこんなに違う人生になっちゃったんだって。もう少し頑張っていたなら自分たちもああなれたんじゃないかって後悔したんだ」
「そういう考え方もあるんですね……」
「卑屈と言えばそれまでだけど、実際そう考える人は多いだろうね」
ハナコは納得していない様だったけどどちらかといえばネガティブな僕は商店街の人の考えに共感出来た。今でこそミヤタのポジティブ思考に多少は染まったけどきっと彼女と出会う前なら僕もそちら側にいただろうし。
「そんな時東北でチーム明日花っていうボランティアの人たちが大活躍しているって聞いてね。しかもリーダーは小学生くらいの女の子で。そりゃこっちも後に続けるかもって励みになるよ」
「そっかー、確かにわたしたちはいろんなお仕事をしてきたからね。こっちもなんだか嬉しくなってくるの!」
「いや確かにありがたいんだけど君のおじいちゃんのほうがもっとすごいよ?」
チーム明日花が遠く離れた場所で住んでいた少女に希望を与えたと知りミヤタはニコニコしていたけど、やっぱりアストロじいのインパクトにはかなわずその功績は霞んでしまう。きっと本来なら感動的なシーンになるはずだったんだろうけどなあ。
「ぽてちてぽてちてっ。あ、ここにいたんだー」
ほんのりグダグダな空気になっていると口元を豚キムチで赤く汚したケマが遅れてやってくる。すぐには追いかけなかったけどどうやら彼女は食事を堪能していた様だ。
「もう、遅いよケマちゃん。どうせならすぐに来てほしかったかな」
「ごめんごめーん、ごはんが美味しくて~」
「まったく、相変わらずだね。よし、落ち込むのは終わり! それじゃあバンドのメンバーを集めに行くよ!」
「うん、ファイオーなの!」
「ファイオーですよ!」
「おー!」
「おー」
ともかく僕たちはバンドのメンバーを集めるため賛同する人間に会いに行く事にした。少なくともジジイが宇宙飛行士になるよりは簡単だし気楽にやるとしようかな。




