12-27 バンドやろうぜ!
歌を教えてほしい――空気が一瞬妙な感じになる中、ミヤタはいきなりそんな事を申し出たイナデラに尋ねた。
「えーと、どういう事なのイナデラちゃん?」
「イベントと言えばバンドだよ! あたしの家はライブハウスをやってて正直あんまり演者もお客さんもいなくて繫盛はしてないんだけど……演者がいなければあたしたちがなればよかったんだ、うんそうだ! 何でこんな簡単な事に気付かなかったんだろう!」
「おお、それはナイスアイデアなの! 発想の転換なの!」
「ふふん、もっと褒めて~」
「ふむ、ライブかあ。音楽で地域振興っていうのは杜宮も含めていろんな所も似たような事をしているしある程度先駆者がいるからやりやすいだろうね」
ミヤタが褒め称えるとイナデラは調子に乗ってどや顔をする。正直そんなに妙案って程妙案でもないけども。
「えーと、話が見えないんだけど。あ、ミヤタちゃんたち久しぶり」
「久しぶりなの、A子ちゃん!」
A子は戸惑いつつも取りあえず挨拶をした。久我と同じくアラディア王国側とはいえこちらはかなり人当たりもよく気さくで個人的には好印象だった。同盟を結べなくても取っ掛かりとなるイベントは起こしておきたいしもうちょっと会話を続けてみよう。
「ごめんね、いきなり話しかけて。実はこの子が商店街振興のイベントを企画していてアイデアを探していたんだけど、」
「そこに素敵な演奏をしていたあなたを見つけてこれだって思ったんです! お金は出せませんけど親戚から送られた野菜くらいはお裾分け出来るので協力してくれませんか!?」
「ははあ、なるほど。事情は分かったよ」
僕の説明中イナデラは食い気味に話に割り込む。随分と厚かましいというか失礼な気もするけどA子は嫌な顔一つせず話を聞いてくれたんだ。
「ミヤタちゃんもいるって事はチーム明日花の仕事か何か?」
「うん、商店街を盛り上げるお手伝いをしてほしいって黒鬼さんからお願いされたの!」
「ふむふむ、そっかそっか」
なお黒鬼からの依頼云々はあくまでも建前の目的であり、実際はいつも通り荒事(の保険)だけどミヤタは馬鹿正直に伝える事はなかった。
そりゃA子が属しているアラディア王国が面倒事を起こさないか警戒しているとは言えないよね。もっともミヤタにそんな複雑な考えはなくただ単にその事に思い至らずそのまま説明したんだろうけど。
「黒鬼君とは知らない仲じゃないしそういう事ならいいよ。ミヤタちゃんとも仲良くしたいし。私の演奏が素敵だって言ってくれたこの子も応援してあげたいしね」
「わあ! ありがとうなの!」
「おお! ありがとうございます!」
「わほっ!」
そしてA子は二つ返事で申し出を快諾してくれた。やっぱり第一印象通り人を苛立たせるウザキャラの久我とはまるで違う人格者の様だ。
「自由気ままな私は基本的にいつでも都合がつくし他の楽器もある程度は出来るけど他のバンドメンバーは? そっちの予定はどうなのかな」
「あ、えーと、あてはあります!」
「つまりまだ揃ってないんだね」
けれどイナデラのほうは包み隠さず正直に伝えたのでA子は苦笑いをしてしまった。候補となるのはおそらく先ほどの商工会のメンバーだろうけど……上手くいくかなあ?
技術どうのこうの以前の話ではない。ケマは参加するとしてスイメイとヘイザエモンはやる気がなさそうだったし。サクラギはわかんないけど。
「とりあえず連絡先を交換しようか。基本的にこの時間は駅のあたりで演奏してるからメンバーが揃ったら連絡してね。まずは会場を抑える事から始めるといいよ」
「はい! ありがとうございます!」
「よーし、これで一歩前進だね! やったね!」
まるで計画性がなく正直聞くに値しない様な話だったけど、A子は世間一般で言う所の神対応と呼ばれる振る舞いをし僕らと連絡先を交換した。
「むふふ、むふふ。また一つ想い出が増えましたねぇ」
それにここに来るように促したハナコがにやけているからこれは正史通りで正解の行動なのだろう。つまり特に問題なくバンドが結成しライブは開催出来るというわけである。なら少なくともこちらに関してはあまり気にする必要は無いだろう。
僕らが憂慮すべきは不可抗力となるうるそれ以外の揉め事だ。正史ではネオユートピアでトラブルが起きるそうだし怪しまれない程度にそっちも同時進行で気を付けておこう。彼女たちが無事にバンドを結成し、商店街を盛り上げるためのライブを成功させるためにもね。




