12-26 芸能の街大阪(+海崎)
消化不良のままネタバレされずに未来の僕についての話が終わってしまい、僕はしぶしぶハナコに言われるがまま海崎駅周辺エリアに移動した。
「ふーん、大阪にはそういうイメージはあったけどこっちにも路上アーティストとかがいるんだ」
「海崎はほぼ大阪ですからね。大阪とは隣接していて五分で行けますし。ついでに言うと市外局番も大阪と同じだったりしますよ。ギャンブルに負けて荒ぶっているおじさんとか、このいかにも治安の悪そうな風景ってなんかいいですよね!」
「いいのかなあ」
文明崩壊後のスラム出身のハナコにとっては治安の悪さがワーストクラスの海崎は原風景ともいえる素敵な景色だったようだ。けど最近は行政の努力で住みたい街の上位に食い込んでいるし……うん。とにかく怒らないでください。親戚がこの辺に住んでいるとあるなろう小説作家の愛ゆえのイジリなんです。
それはさておき大阪は芸能活動が盛んでストリートパフォーマーの聖地とされる。芸能事務所も多く目が肥えている観客も多いのでチャンスも鍛える場所も豊富にあるからだ。
無論ここ海崎もほぼ大阪なのでそのあたりの事情は似た様なものであり、あちこちで路上アーティストやパフォーマーを見る事が出来る。
歌を歌う人にジャグリングをする人、石像の様に微動だにしない人と言い感じにカオスな光景が広がっており、ハナコはあんな事を言ったけどこういう賑やかなお祭りみたいな景色は普通に見ていてワクワクした。なるほど、確かにこんなのが日常に溶け込んでいれば地元に愛着も沸くだろうな。
「おー」
「あら」
いろんな演者の人を見ていると僕は別行動をしていたミヤタを発見した。彼女はブレイクダンスを踊る人を小刻みに体を揺らしながら楽しそうに眺めており自身も踊りたそうにうずうずしていた。
「ふーむ」
いつもの様にフィリアさんもいたけど今回はゲストのイナデラも一緒にいる。どうやら彼女は演者からいいアイデアを拝借出来ないか考え込んでいる様だ。
いっその事ここにいる人をイベントに招待してもいいけど集客が望めない場所に知名度のない人を呼ぶ利点も呼ばれる利点もあるのだろうか。大体支払う程のギャラもないしなあ。
結局いいアイデアは思い浮かばず無駄な時間だけが過ぎてしまう。そもそもパフォーマンス系のイベントから離れたほうがいいのかな。
「どう、イナデラ。何か掴めた?」
「まだ。だけどもう少しで掴めそうなんだけど……あうー」
イナデラは考え事をし過ぎた結果頭から煙を出してしまう。手助けをしてもいいけどここはもうちょっと様子を見てみようか。
ポロロロン……。
「?」
そんな僕らを応援するかのようにアコースティックギターの音色が聞こえる。それはこの場所ではありふれた音のはずなのに、僕らは何故かその音に引き付けられてしまったんだ。
「あれ、もしかしてA子さんじゃないですか?」
「本当だ」
ストリートで演奏をしていたのは後に七大派閥に名を連ねる英雄、少女Aだった。どうしてここに、と思ったけど彼女はアラディア王国の関係者だしそこまで意外でもないかとワンテンポ遅れて理解してしまう。
それにしてもなんて優しくて素敵な歌声だ。失礼な表現になってしまうけど他の演者とはレベルが違い過ぎる。だというのに人がほとんど足を止めないのが不思議でならない。
けれどその想いは確かに伝わってくる。彼女の応援歌は暗闇でほのかに揺れる篝火の様に生き辛い現代社会で迷える人を導いてくれたんだ。
歌が終わり、余韻と言うにはあまりにも密度の濃い何かが心の中に広がる。満足するまで歌い切ったA子はギターをケースにしまい撤収作業を始めた。
「あ、あの!」
「はい?」
その歌に何かを感じたイナデラはたまらず彼女に駆け寄った。そりゃこんな素敵な歌ならおひねりに一枚出したくもなるだろうな。
だけど、
「あたしに歌を教えてくれませんか!?」
「はい?」
「はい?」
彼女が告げたのはそんな突拍子のない言葉だったのでA子はもちろん僕らもただただ戸惑う事しか出来なかったんだ。




