12-12 紗幸のフラグをへし折る大作戦第二弾
というわけで始まりました、街ブラ散歩in神京町。本日のゲストは未来からやって来たハナコさんでございます。
「さてハナコ。これから何をすべきかいいかわかってるね」
「はい。フラグへし折り大作戦第二弾ですよね!」
「大作戦って」
「ええ、作戦にはまず大をつける所から始めないといけませんから!」
「何でもかんでも大をつければいいってものじゃないけど。まあいいや」
第一弾のヤオとのデートはいまいちな結果で終わってしまった。そもそもこの馬鹿馬鹿しい作戦に正解があるのかどうかはわからなかったけど、僕らは懲りずに兵庫県まで来て第二弾の作戦を決行したわけである。
「で、どうします? ヤオさんの時みたいに女性が幻滅する事をしますか?」
「それもそうだけど今回はあえて逆を行こうかなと」
「逆、ですか」
「うん。僕とハナコがイチャコラする姿を見せつけようかなと。そうすればきっと紗幸は『私という妹がいながら! ムキー! 悔しい!』ってなるはずだよ」
「いやそうはならないと思いますよ?」
僕は頭の中で悔しがる紗幸の姿をイメージしたけどどうしても子供が描いた落書きみたいなへたくそなイラストになってしまう。
提案はしたけどきっとそんな事をしたところで彼女は特にどうとも思わないだろうな。紗幸は僕が本気じゃない事をすぐに見抜くだろうし。サイコパスな僕は生まれてこの方恋愛とは縁遠い人生を送って来たからなあ。
「でもまあやってみましょうか。チャラ男に思われて好感度が下がりそうですし物は試しで」
「だねー。雑貨屋とかテイクアウトの店とかがあるけどどれにする?」
「そりゃもちろんまずは食べ物からです!」
「そう言うと思ったよ」
そしてそれはハナコにも言える。色気より食い気を是とする彼女はまず真っ先に食欲を剥き出しにしてよだれを垂らしだらしない顔になった。
ハナコは恋愛とかした事があるのかな? いや、こんな提案を受け入れるくらいだし未来の世界にも想い人はいないんだろうな。
そして始まった食べ歩きツアー、もといハナコとのデート。中華街には美味しそうなものがたくさんあってどれを食べようか悩んでしまうけどハナコがまず選んだのはこの炎天下の中小籠包というなかなか尖がった選択だった。
「このクソ暑い中小籠包か。君はドMなのかい?」
「だって美味しいじゃないですか」
「美味しいけども」
デートにはそぐわない暴言にハナコはキョトンとした顔になってしまう。店先に置かれた蒸籠からは湯気が立ち上り、出来立てほやほやで確かに美味しそうだけどもう少し寒い時期に食べたかったなあ。
ただ言うてもここは人気店なんだろう。まだ昼前なのに店の前には行列が出来ており夏の日差しをものともせず玉の様な汗を流しながら列を作ってお客さんが並んでいた。どいつもこいつもマゾしかいないのかねぇ。
「(じゃお支払いはこれで)」
「ん」
ピッ、と音がしレジのほうを見るとそこには中国語を話している若い女性がスマホを使って支払い、普通はお金の受け渡しなどで一分弱かかるやり取りがわずか数秒で終わった。最近何かと話題の電子マネーって奴だね。
「ここ電子マネー使えるんだ。最近普及してきたよね」
「ええ。これからどんどん普及しますよ。それこそ現金を持ち歩かない人も出てくるくらいに」
「ふーん。よく見ればどこもかしこも電子マネーに対応してるね。でも電子マネー先進国の中国となじみ深い場所だからそれも当然か」
僕は前にニュースでやっていた電子マネーについての解説を思い出す。日本じゃまだ普及率はいまいちだけど諸外国では急速に広まっており特に中国ではかなり普及しているそうだ。海外からの観光客の多い場所では電子マネーへの対応が売り上げに直結するのでこうなるのも必然ともいえる。
ただもちろん僕は他の多くの時代に取り残された日本人同様電子マネーなんて便利なものは持っていないので普通に現金でのお支払いだ。
何となく詐欺とか不正利用とかが怖いしやっぱ現金のほうが安心するよね。もっともハナコいわく日本でももう少しすれば電子マネーが普及するらしいからこの考えも古い考えになるんだろうけどさ。
レジと小銭はガシャン、チャリンという軽快な音色を奏で僕はお釣りの硬貨を握りしめた。この音ももう少しすれば聞けなくなってくるのかな。
小籠包を買ってもすぐには食べず、少し冷めるのを待ちつつ人が増える前にもう一軒。続いてやってきたのは北京ダックのお店だ。
「おおー。パシャっと」
ハナコは店に近付いてすぐにマスコットキャラクターのアヒルの置物を撮影する。絶妙に間抜け面で随分と可愛らしいね。
北京ダックは日本では高級食材と言う認識なので当然ほかのメニューもお高めでものによっては一万円を超えるものもある。もちろん僕らは学生だからそんなセレブリティなものは注文しないけど。経費で落ちるとはいえ流石に遠慮はするよ。
うん、値段的にもやはりこのなんかの皮でキャベツと北京ダックを包んだ奴しか買えないね。よし、これにするか。
しかし注文しようと思った矢先店員さんは一時的に離れていなくなってしまった。呼んでもいいけど時々こういうのはあるしここは我慢しがちな日本人的思考に沿って焦らず我慢しよう。
「いらっしゃいませ~」
「グワァ」
だけどしばらくしてやってきた店員さんに僕はアヒルが首を絞められた様な声を出してしまう。
「あれ? 幸子さんじゃないですか」
「オカン何してんねん」
そこにいたのは何と僕の母親だった。母さんは年甲斐もなくスリットが入ったチャイナドレスに身を包み、正直見ていて非常に痛々しく僕は彼女を直視する事が出来なかったんだ。
「いろいろあってここでアルバイトをしているのよ。詳しくは聞かないでね」
「ああうん、そういう事ね」
そういえば黒鬼さんもマフィアの揉め事とかで今この辺がピリピリしてるって言ってたっけ。公安警察である母さんも何かしらの密命を帯びて潜入しているのだろう。だとしてもこんな服を着る必要は無いとは思うけども。
「けど私は大変な現場を目撃してしまったわ。ゆう君、浮気は良くないわよ!」
「いやそういうのじゃ」
「そ、そうです! デート……じゃなくはないですけど」
さらに母さんは仲良くしている僕らを見て妙な誤解をしてしまった。ただ確かに振りとはいえ僕らは今デートをしているわけなので強くは否定出来ないんだよなあ。
「ゆう君はロリコンなんでしょう!? 駄目よ、女子高生くらいの女の子に手を出したら! 親の顔が見て見たいわ!」
「その叱り方もどうかと。親の顔が見たければ鏡を見るといいよ。とにかく母さんも目立つ行動はしたくないよね。ここは普通に接客してよ」
デート中にオカンと遭遇とかマジでしんどいわあ……本番でなくて良かったよ。公安のエリート捜査官の母さんの事だから大体の事情は把握しているんだろうけどさ。
「もう、ゆう君ったら。ぷんぷん! 浮気をするならせめて妹に手を出しなさい! お母さん的にはさっちゃんと引っ付いても全然いいわよ!」
母さんは続けてなかなかぶっ飛んだ発言をした。この人は一応警察官だけど倫理の概念は存在するのだろうか。
「母親のセリフとは思えな、」
「っていうか言うタイミング逃したけどぶっちゃけ血の繋が、」
理不尽に怒られた僕は出来るだけ速やかに商品を受け取りその場から逃げ出そうとしたけど同時に母さんはどさくさに紛れてとんでもない事を言いそうになったので、
「ハイストーップ! それよりもタ〇チさんについての話をしましょう! ほらこれネットに流出した不倫のメッセージです! あからさますぎて気色悪いですよね!」
ハナコは慌てて会話に割り込んで母さんの言葉を遮った後スマホを取り出しネットで拾ったあいつの流出メッセージの画面を見せる。そういえばミヤタもちょっと前にボヤいていたっけ。
「上半身も下半身もだらしないあいつが不倫をしても特に驚きはしないけど……あとでアマミにも送っておこうっと。ファンらしいし。でもこれセクハラになるかな? それより母さん今なんかものすごく家族関係の根幹にかかわるようなとてつもなく重大な事実を言おうとしていた気がしたんだけど」
「そんな事より北京ダックは美味しーアルよー! イラハイイラハイ!」
「急に真面目に仕事をしないでよ」
空気を呼んだ母さんはすかさずニコニコとエセ中国人風に呼び込みをしたので僕はそれ以上の追及をやめた。ってか確実に地雷だから滅茶苦茶知りたくなかったし。うん、さっきの話は聞かなかった事にしておこう。
とにかく小籠包と北京ダックは手に入れたし広場に戻ってさっさと食べようか。個人的にメンタルはそれどころじゃなかったけども。




