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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-9 麻薬取締官の黒鬼からの依頼

 黒鬼さんとのコンタクトを済ませ、後日予想通り彼は部下の律子、ギバさんとともにチーム明日花の事務所を訪れた。


「すみませんね、お忙しい中無理を言って」

「いえいえ、黒鬼さんには常日頃から大変お世話になっていますから」


 アキヅキさんはどこか威圧感を感じる笑みで桃生茶を淹れたカップをトン、と置く。マトリとエージェント、立場は似ているけどこのほんのり穏やかじゃない空気は何なんだろうね。


「そわそわ」


 僕も含めた主要幹部も会議室に集まって同席はしているけどそのピリピリしたムードにミヤタは不安げにアホ毛を揺らしキョロキョロと両者の様子をうかがう。なんていうかこれはねえ、肉食獣同士の睨み合いっていうか間に入ったら食われそうだし話に割り込めないよ。


「ふふ、やっぱり宮城県警の幹部をしょっ引いた事を根に持っていますか?」

「はて、何の事でしょう。私はただのボランティア団体の職員ですので。ただまあもし私が警察官だとしても膿を出していただいた事に感謝こそすれその事を恨む事はないでしょうね」


 二人はお互い腹の内を探り合うも僕らにはその真意はわからなかった。しかしお互い恨んでいる動機はないのにこの嫌な雰囲気は何なんだろう。


「むしろ警察を恨んでいるのはそちらではないでしょうか。東北の麻薬汚染は警察と反社会勢力との癒着が原因でしたから。捜査をしていた麻薬取締官の不審死も自殺と処理されましたし……不満があるのならもっとはっきり言ってくれても構いませんよ?」


 けれどアキヅキさんのまあまあな爆弾発言に僕は腑に落ちてしまう。ああなるほど、そういう事か。僕はあの事件の裏で何があったのか全てを把握していないけれど彼の仲間が謀殺された疑惑があったのか。そりゃ腹に一物あっても仕方がないだろうね。


「はは、それは筋違いでしょう。あなたが今言ったじゃないですか、自分はただのボランティア団体職員だと」

「それもそうですね」

「まあ亡くなった職員とはそこそこ仲が良かったのは事実ですけどねぇ。県警の幹部は軒並み飛ばされたか馘首かくしゅされましたしもう済んだ事です」

「そう言っていただけるとありがたいです」


 最終的にアキヅキさんは謝罪する事も許されないまま会話を打ち切られた。ただこれに関してはヤクザとグルになっていた警察が全面的に悪いし、親しい人間を殺された黒鬼さんの恨みは至極当然のものだから非難は出来ないよ。


「こんなつまんない話はやめましょう。今回は仕事の依頼に来たんですよ」

「仕事、ですか?」


 黒鬼さんは自ら作った悪い空気を換えるためニヤニヤと笑いながら明るくそう告げたけどやっぱり悪役にしか見えない凶悪な人相の彼が笑うと結構怖い。本人としてはそんなつもりはないんだろうけどさ。


「麻薬取締官の貴方からの依頼ですか。やはり麻薬絡みですか?」


 その笑みによからぬものを察知したフィリアさんはすかさずそう尋ねる。別に僕はそれでもいいけどやはりまたミヤタが危険な目に遭うのは護衛として見過ごせないのだろう。


「いえいえ、私は今週で出向を終えて関西に戻るわけですがちょっと兵庫の海崎うみがさきという場所にある商店街に行って地域振興のお手伝いをしてほしいのですよ。荒事は一切ないとても平和な依頼です」


 その質問に黒鬼さんは闇バイトの仲介をする反社の様に素敵な笑顔をしてそう答えた。だからいちいち笑顔が怪しいんだって。


「表向きは、な」

「シー。余計な事は言わなくていいんです」


 ただギバさんがボソッと聞き捨てのならない発言をしたのが非常に気になった。その言葉を信じるのならこの依頼には何か裏があるという事か。


「うーん、別に困ってる事があるのなら普通に手伝うよ? 黒鬼さんにはお世話になったし」

「おや」


 だけど人を疑う事を知らない聖人君子なミヤタはそう告げたので腹黒い黒鬼さんは驚いてしまった。そして彼はククッと笑い、


「いえ、そうですね……ええ。基本的には商店街の振興のお手伝いをしていただければ。ただ別件で揉め事が起こる可能性があるので保険に待機してほしいのです。可能な限り我々や警察で対処しますけどね」


 と、本当の目的を教えてくれた。やはり予想通り良からぬ何かはあった様だ。


「ちなみにその揉め事っていうのは? 兵庫と言えばヤクザの本場だからやっぱそれ?」


 喧嘩が好きなレイカは続けざまにワクワクしながら質問する。彼女もいろいろ人として間違っている気はするけどもう慣れたよ。


「都会ですのでもちろん麻薬関係のトラブルはありますし、中国系マフィアもいるっちゃいますが直接そちらとかち合う事は……なくはないですがその辺がややこしいと言いますか」

「歯切れが悪いのう。結局どういう事なんや」


 しどろもどろに受け答えする彼にドーラは少しムッとしながら質問する。それが僕らにとって都合が悪い事だという事は何となく推察出来たからだ。


「海崎もですが県庁所在地の神渡ごうど市には白き帝の軍勢の下部組織と中国系マフィアの赤月会がいます。両者は仲が良かったり悪かったりしますが最近はピリついてますね。それだけならいつも通りなのですがどうやら傭兵組織のアロウレスが集まっているようなんです」

「アロウレスって確か久我の……アラディア王国お抱えの傭兵組織ですっけ」

「ええ、国によってはテロリスト扱いですがね。つまり今どーにもこーにもきな臭い香りがプンプンするんですよ。ソウゲツの失脚によりパワーバランスは大きく変化しましたしもしかしたら近々大規模な抗争が起こるかもしれませんね」

「ふーむ」


 黒鬼さんの話は不明瞭な部分も多く全てを把握する事は出来なかったけどあまり穏やかな状況ではない事は理解出来た。つまり三つの勢力が集結し今兵庫はとってもピリピリしているという事なのだ。


「またヤクザ絡みかあ。白き帝の軍勢と赤月会? は悪い奴同士で潰しあってくれれば別にそれでもいいけどアロウレスはなんで? 漁夫の利をかっさらうつもりなのかな」

「そのあたりの情報は警察の組暴の方が調べております。揉めているのはあくまでも裏の住人で杜宮の五城楼での騒動の様に民間人が犠牲になる事はないでしょうが……流れ弾やマトと間違えられて被害に遭う可能性はありますね」

「うげー」


 再び舞い込んできた暴力団絡みの厄介ごとにひかげはかなり嫌そうな顔をした。別に倒す事は簡単だけどああいう連中は倒しきらないと後々面倒だからなあ。


「ただ基本的にそれらの問題は警察や我々マトリが対処します。皆さんはあくまでも保険の予備戦力ですから。我々は問題が起きる前に全力で対処します。なので気にせず建前の目的を果たしてください。危険な場所に近寄らなければ観光を楽しんでも構いませんよ」

「ふむふむ、わかったの! 一生懸命頑張りつつ楽しむの!」

「うーん、少し不安だけど別にいっか」

「だね」


 全ての事情を把握したミヤタは皆から意見を聞く前に依頼を受注する。同じ暴力団絡みでも今回はそこまで危険じゃないからそんなに気にしなくていいのかな。


 だけどそれよりも憂慮すべきはやはり久我のアロウレスだろう。連中は何の目的で神渡市に集結したのだろうか。


 まあいいや、それじゃあ早速旅支度をしながらお土産や観光地のリサーチをしよう。神渡市に行くならぜひとも中華街には行っておきたいね。

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