12-7 怪しいバッタ屋、クロオニジャンク堂へ
ヤオとのクソゲーとバカゲーを求めるデートは続き、僕は何故か杜宮まで来てしまった。
「う~ん、杜宮は良いね、流石は大都会だ」
駅前に降り立った彼女は都会の空気を深呼吸しながら吸って堪能する。杜宮は他の大都市と比べれば比較的木々が多いとはいえ、正直緑豊かな農村じゃあるまいしそんな美味しいものじゃないとは思うけどな。特に僕はこの間クソ田舎にいたからそれがよくわかるよ。
「それでどこに行くんだい? 杜宮ならゲームを売っている店はそこら中にあるだろうけど」
「ノンノンノン。私が求めているのは需要のないクソゲーとバカゲーさ。そんなものがゲ〇やソ〇マップにあると思うかい?」
「わかった、イマイチパッとしないシー〇ルか」
「東北在住の人間にしかわからないローカルネタをありがとう。もちろんあそこもいいけどそこじゃないんだよ。まあついてきて」
「うぃー」
ゲームには普通程度以下の興味しかなく知識のない僕はヤオに全ての決定権を委ねて彼女の後をついて行く事にした。個人的には古本も売っている店ならいいけど流石にないか、せいぜいあっても漫画本だろうな。
そしてずんずかずんずかと元気よく進みやって来たのは魑魅魍魎が跋扈する眠らない街五城楼の繁華街エリア。僕らは仕事で何度も訪れているけど正直品行方正な人間はあまり訪れない場所だ。
「ええと、どこまで歩くの?」
「もうすぐだよー」
僕はヤオに尋ねるけど彼女は秘密基地をもったいぶって教えない子供の様な笑みをした。少し不安ではあるけどまあ変な場所には連れていかれないだろう。
けれどそう思った矢先僕らは人気のない路地裏に移動しさらにそこからまず人が寄り付かない細い路地に入っていった。普通に考えてゲーム屋どころか店すらない様な場所である。
もしこんな場所で商売をしている人がいるとすればそれはきっと表立って販売出来ない様なものを取り扱っているのだろう。大きな麻にとても興奮する無認可ビデオとかね。
「ねえヤオ、本当にこんな場所に、」
「こっちこっち!」
けれど彼女は一切躊躇う事無く先に進んで裏口から雑居ビルに入った。うーん、怪しさしかないけど行けばわかるか。
建付けの悪いドアを開け、かび臭い空気が充満する中階段を上り二階、三階へと上っていく。
「こっちだよー」
そして四階までたどり着いた時、僕はクロオニジャンク堂という店名が書かれた壊れた看板を発見した。どうやら彼女はここを目指していた様だ。
僕も胡散臭さしかないけどしぶしぶ店内に入ったけど、意外な事に店内はいたって普通の中古屋だった。彼女が欲しがるゲームだけでなく古本やフィギュアにDVD、楽器や家具など様々なものが雑多に置かれていたのだ。
「うぉっほ! こいつは掘り出し物だ! しかもお手頃価格! やっぱりこの店が一番だね!」
またマニアックなゲームもたくさんある様で、ヤオは実にホクホクとした笑顔でビニール袋に入れられ安売りされたレトロゲームを物色していた。
よくよく見れば商品の中には僕でも知っているプレミア価格が付いたゲームも売られていた。ふむ、確かに品ぞろえは悪くないらしい。
「中は普通のお店なんだ」
「普通というべきかどうかは怪しいけどね」
「ん?」
商品を眺めていると店のレジのほうからツン、とした声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けるとそこには見覚えのある人物がいたので僕は少し驚いてしまった。
「君は黒鬼さんの所の荒木律子さん……だっけ」
「律子でいいわ。冷やかしならさっさと帰って。欲しいものがあるなら商品を買ってさっさと帰って」
彼女は椅子に座りながらコーヒー片手に読書をしていた。『暗夜行路』とはいい趣味をしてるね。
「まさかここって黒鬼さんの経営するお店だったり?」
「一応ね。まったく今日は客が多くてかなわないわ」
律子は本に視線を落としたまま僕の質問に適当に返す。うーむ、実にそっけない。接客業にはあるまじき対応だけど黒鬼さんにはクーデレな一面でも見せたりするのだろうか。
「ええ。普段は暇で暇で仕方がないのですがねぇ」
「黒鬼さん」
どう会話を繋げようか迷っていると店の奥からオーナーと思われる黒鬼さんが現れた。だけど彼の本業は麻薬取締官、なぜこんな事をしているのだろう?
そんな僕の疑問を見透かしてか彼はああ、と呟き教えてくれた。
「元々薬物に関わる捜査で暴力団に潜入した時シノギでバッタ屋ビジネスをしたのですが思いのほか儲かりまして。現在は更生しようとしている元ヤクザを働かせつつ活動拠点として各地に残しているわけです」
「なるほど。つまりここにあるものは……」
「安心してください。合法か違法かと言われれば合法ですよ」
黒鬼さんはやや含みのある言い方でそう告げる。バッタ屋というものは闇金が差し押さえたり盗品だったり訳アリ品が多いけどここは彼の言葉を信じる事にしよう。この凶悪な顔からは一切そんな安心する要素は感じられないけど。
「ところでヨシノさんはなぜうちの店に」
「あ、はい、実は、」
「いえいえわかってますとも。ささ、こちらへ」
「?」
隠すような事情もなかったので僕は正直に話そうとしたけど彼は何故か苦笑して店の奥に通してくれた。何だろうこれ、勝手に誤解されているような気がするんだけど。
「もしゃもしゃ。あ、ヨシノくん! ヨシノくんも呼ばれたんだ!」
「ありゃ、ミヤタ。それにフィリアさん」
スタッフルームには座布団とちゃぶ台が置かれそこにはどういうわけかミヤタとフィリアさんがいた。発言から察するにミヤタは黒鬼さんに招かれてここに来たようだけど……?




