12-5 ヤオの陽キャの仮面
「いろいろあるけどどれにする? あっ」
良さげな台がないか物色していたヤオは何かに気が付きその視線の先を追うとそこにはイノシシ、というかうりぼうのぬいぐるみがあった。どうやらあれが欲しいらしい。
よし、ここは先ほどの汚名を返上するために一肌脱ごう。僕はサードマンモードを発動しその筐体に向かった。
「じゃこれにしようか」
「う、うん」
これがギャルゲーならここで好感度がちょろっと上がった事だろう。さらにぬいぐるみをゲットすれば追加で好感度が上がるはずだ。よーし、張り切っちゃうよ。
うりぼうのクレーンゲームは二百円で一回、五百円なら三回というタイプの少し高価なタイプだった。ただ抱き枕に出来るくらいのなかなかのサイズ感だし妥当な所だろう。
まずはチャリンチャリンと百円玉を五枚投入し三回分の権利を得る。穴と景品が置かれている場所を隔てるアクリル板の高さは低いのでこれはずらしてとるタイプのプライズなのだろう。
方法はいろいろあるけど僕はアームをずらし後ろのほうを掴んでみる。うん、アームの強さも想定通り。これなら後二回もあれば十分だね。
「ヤオってイノシシが好きなの?」
「うん、昔田舎で暮らしていた頃罠にかかったうりぼうのお世話をした事があって。本当は良くないんだろうけど」
「昔話ならお礼をしに戻ってきそうな話だね。ミヤタもブタが好きだけど女の子って皆こういう系統の生き物が好きなのかな」
「現実のイノシシは畑を荒らすしド突かれたら怪我するしそんなに可愛いものじゃないけどね。美味しいけど」
続けて二回目。今度はさらに引っ張ってアクリルの仕切りの上に載せるよう移動させる。うん、サードマンモードのガイドがあれば余裕余裕。
「ヤオってさ。わかりやすいようでわかりにくいよね」
「うん? どういう意味?」
「僕はそれなりに洞察力があるほうで君との付き合いもそれなりに長いけど……よくわかんないんだよね、君の事が。誰とでも仲良く出来るけど広く浅くっていうか、社交的なのも演技くさいっていうか」
「現代人は大体そういうものじゃない?」
「かもねー。おっ、獲れた」
雑談を交わしながら三回目、僕は頭の部分を持ち上げて傾けお尻のほうから落下させ見事に三手でうりぼうのぬいぐるみをゲットする事に成功、ヤオに渡してあげた。
「それで? その笑顔は本物の笑顔なのかな」
「あはは、どうなんだろうね」
その問いかけに彼女は思わせぶりに爽やかな笑みをした。少なくとも僕はそれが本心から来る笑顔だって信じたかったよ。
まあヤオも人間だからいろんな悩みや事情を抱えている事だろう。僕はそんなに仲良くないからそのあたりの事は仲のいい子に任せておくか。
うん、最低なデートをするという第一目標は完了だ。心の中で呟いたこの選択肢は間違いなく恋愛ゲームなら一発でヤオルートに分岐出来なくなる選択だな、と僕はどうでもいい事を考えていた。
「ちょっとお花摘みに行ってくるねー」
「あ、うん」
彼女も気まずかったのか一旦その場を離れ僕はその場に一人ぽつんと残されてしまう。
ううむ、どうしよう。待ってる間お土産に出来そうなプライズでも見繕おうかな。いや、転売出来そうなものでもいいか。本当に欲しい人からは怒られちゃうかもしれないけど。
よおし、じゃあ早速あの妖怪のベルトみたいな奴を狙ってみよう。お店の人が厳しい設定にしてもサードマンモードがあれば余裕余裕。うっしっし、転売ヤーデビューだーい。
「あれ? お兄ちゃんだ」
「なんか悪そうな顔をしてますね」
「キョエン!? ごめんなさい悪気はなかったんです家族には連絡しないでください!」
「いや家族だけど。キョエン?」
しかしニヤけながらお金を入れようとしたところで僕はその気色悪い顔をガッツリ紗幸とその友人に見られてしまった。なんというか家族には一番見られたくない光景である。
「つーか転売ヤーは合法だし!? 違法じゃないし!?」
「ああはい、何となく何を企んでいたのかわかりました。まあ普通にルールに沿って手に入れる分にはいいんじゃないんですか。私はそういう事をする人は嫌いですけど」
必死に弁明をする僕をカレンは苦笑しながら見下した眼差しを向けたので僕は惨めな気持ちになりつつもとても気持ちがよくなってしまった。うぉほう!
ただ市場を混乱させる転売ヤーはたとえ法的に問題はないとはいえ言うなれば経済テロである。第一上手くいけば儲かるけどそれは知識や販路があって初めて成り立つものでありゼロから出来るものではない。それらに労力をかけるくらいなら真面目に働くかその能力を生かして普通に商売したほうがいいから皆は転売ヤーなんて愚行はやめておこうね。
それはさておき僕は彼女たちの数メートル後方で手を合わせお詫びする仕草をしたハナコを発見した。どうやら打ち合わせ通り紗幸たちを誘導する事に成功したけどタイミングが合わなかった様だ。
「そうだ紗幸。ちょっぴり変な僕に惚れたかい? ニコッ!」
ただクズ男の僕とヤオとの最悪なデートを見せる、という当初の予定とは違うけどみっともない姿を見せ幻滅させるという目的は果たした。これで好感度が下がるといいんだけどな。
「え、お兄ちゃんが変なのは今更じゃん。今更どうとも思わないよ。私はそんな変なお兄ちゃんが好きになったんだよ、ニコッ!」
「読者から批判が来る作者の願望丸出しの漫画に出てくる妹かーい! 可愛い過ぎるぜこの野郎ッ!」
けれど僕は紗幸の笑顔に一発KOされてゲームセンターの床をゴロンゴロンと転がってしまった。僕は変人だから人目なんて気にしないよ!
「あはは、相変わらずに仲良しですね」
「さっちゃん、あまりこの社会不適合者を甘やかしたら駄目だよ。ヒキニートのまま三十歳くらいになって養う羽目になるのは嫌でしょ?」
「うーん、でも最近は専業主夫って言葉もあるし。えへへ」
サトダとカレンはいつも通り仲がいいだけだと考え特にこれといったリアクションはしなかった。
だけど僕にはわかる、紗幸の好感度はもうカンストしつつある事に。ううむ、これじゃあ駄目だ、どうにかして好感度を下げないと。




