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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十二章 失われた理想郷【第二部3】

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12-1 英雄になれないサブロウと、ミヤザワの企み

 ――サブロウの視点から――


 カチカチ、カチカチ。殺風景な部屋でマウスを操作する音だけが聞こえる。


 岩巻市某所にある活動拠点で、アラディア王国の工作員のサブロウはポリポリと神渡ごうど市から送られてきた差し入れの瓦せんべいをかじりながら今日も今日とて工作活動に精を出していた。


 今回の活動場所は現実世界ではなくバーチャルだ。サブロウは金に目がくらんだ中国人相手に詐欺行為を行い、彼らが望むモノを無制限に譲り渡す。


 メインターゲットである中国の人口は十億人を超え、かの国以外の様々な国の人間も『それ』を欲しがっている。『それ』を欲しい人間全員に譲るという簡単だが気の遠くなる作業にサブロウは精神が参り始めていた。


「ぬはああ~。スパイなのに毎日毎日カチカチカチカチカチカチ、一体何をやっているのか馬鹿らしくなってくるわ。お前も働け!」

「だってネルそんな難しいの出来ないぞ。パソコンとかゲームをするくらいしか使った事がないし」


 彼は椅子の背もたれに全体重をかけて屈伸運動をして愚痴をこぼし、お菓子をむしゃむしゃと食べていた直属の部下を叱責する。


「けど何の因果かねぇ。あの時も中国を欧米から助けるために戦うんだって言われたけどさ……」


 だが最もやる気を削ぐのは破壊工作を行う相手が中国であるという事実だ。あの国と浅からぬ因縁があるサブロウは強引に意欲を引き出すため、エナジードリンクを一気に飲み無理やり力を引き出した。


「サブは嫌なのか? いつももっと酷い事たくさんやってるだろ。それにものすごく違法で死刑になるってわかってるのに『それ』を欲しがってるのは向こうの連中だからそんなに気にしなくていいと思うぞ!」

「だといいんだが」


 カンパネラは彼女なりに落ち込んだ相棒を励ます。サブロウはその応援によりようやくやる気を取り戻し工作活動を再開したのだった。


「お」


 しばらく作業を続けているとパソコンの画面に通知が表示される。どうやら定期的に行っている報告会の時間が来た様だ。


 彼は即座に一切の作業をやめ会議に参加する。トップであるミヤザワの言葉を聞く事は全てにおいて優先されるのだ。


『全員揃っているようですね。では会議を始めましょう』


 画面には他の幹部も映っておりその中にはもちろんシオンも含まれていた。一体どうやったら新参者のあいつがここまで重用される立場になったのかサブロウは改めて疑問に思ってしまう。


 ミヤザワの画面には相変わらずボイスオンリーという文字だけが表示されていた。きっとお気に入りのシオンは自分とは違い彼女の素顔も知っているのだろう。


『さて、計画は想定を上回るペースで進んでいるので予定を変更しそろそろ次のステップに移りたいと思います。また諸々の事情を加味し計画に変更点を加えたいと思います』

「……それは一体どういう変更点ですか?」


 サブロウはミヤザワの言葉を遮ったので幹部は一瞬険しい顔をしてしまう。一般的な会議とは異なりこの会議において議論という行為は存在せず、その様な権利など存在しないからだ。


『元々私たちは中国に対しても他国同様平和的な侵略を行う予定でした。しかし正直な所現地での工作は上手くいっていません。かの国の長きに渡る国民に対しての教育は過度な愛国主義を生み出しました。その手口を我々も見習うべき点は多々ありますが、もし今中国に対して従属を要求しようものなら反発は避けられないでしょう。実際もう既に過激なデモも行われている様ですし』


 全ての誇りを捨てて自分の国に対して隷属しろ。中国でなくても普通そんな事を言えば大抵の民衆は激怒するだろう。


 それの一体どこが過度な愛国主義というのか。しかしサブロウは口をつぐんでその不満を飲み込んだ。


『なのでこちらも少し過激な手段を取る事にします。もちろん可能な限り犠牲者が出ないようにはします。アフリカ諸国、中東、欧州各国、南米、日本、アメリカと工作活動は概ね成功していますので多少強引な手段に出ても外交的にも問題ないでしょう』

『……………』


 少し過激な手段とミヤザワは穏やかに言っているがそれは確実に人が死ぬレベルの何かだ。サブロウは最悪の展開を想定しごくりと唾を飲み込んでしまう。


 間違いない。こいつは中国に対して戦争を仕掛けようとしている。大した大義名分もなく支配勢力を広げるためだけに。


『女王陛下の愛すべき臣下である皆さんも協力してくれますね?』

『もちろんでございます』

『御意にございます』


 他の工作員が次々と忠誠を誓う中サブロウだけは即答出来なかった。そんな事をしてしまえば立場が悪くなるのはわかり切っていたのに。


『サブロウさん、返事は?』

『……御意にございます』


 獅子がウサギを威圧する様な圧力に、彼は歯を食いしばりながら服従の言葉を述べる。


 だがこうなっては仕方がない。せめて可能な限り罪のない人々が犠牲にならない様完璧な仕事をこなさなければ。


 英雄になれず、権力に屈し続ける有象無象の民衆になる事しか出来ない弱い自分にはそれしか出来ないのだから。

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