11-87 私と友達になりませんか?
その者は何もない虚無の世界を揺蕩う。
そこは光も命も、宇宙の果ての様に何も存在しない完全なる孤独な世界。
寂しい。
独りは嫌だ。
その者は愛を求めていた。
愛を知りたいと願った。
あの場所に戻りたい。
たとえその先に果てしない困難が待ち受けていたとしても自分はあの場所に行かなければならないのだ。
その清らかな想いは一筋の光となり少女を導く。
そしてその少女は再び世界に生まれ落ちた。
今度は間違えないと、強く願って。
……………。
………。
…。
泥のニオイがする部屋でその少女は目を覚ました。
「……………?」
少女は最初に何をすべきか理解出来ずぼうっと部屋の天井を見上げる。通電していないのか蛍光灯の明かりはついておらず部屋は全体的に薄暗かった。
続けて感じたのは全身を覆う鈍い痛みだ。しかし耐えきれないという程ではなく、その痛みは自分が生きているという事を実感させてくれた。
彼女はとりあえず体を持ち起こし周囲の様子を探るためベッドから這い出る。廊下には負傷した怪我人が多数いたが彼らはなぜこんな状況になっているのだろう?
ここは一応病院の様だが、壁に黄土色の浸水の痕跡があり多くの人間が廊下で寝ているという事はこの場所は医療機関として機能していないのだろうか。
「あ、いたいた! 無事だったんだね!」
「?」
そこに一人の少女が現れた。その人物は自分の顔を見て大層喜んでいるが何故こんなに喜んでいるのだろう。自分は彼女の事を知らないというのに。
「学校があった場所で見つかったって聞いたからもしかしたらと思ってやって来たけど、助かったみたいでよかったよ~」
続けて少し年上の少女がおっとりとした笑みを向ける。けれどどういうわけか目覚めた少女はその笑顔を見て胸がちくりと痛んでしまった。
「まあ無事ってわけでもなさそうだけど」
「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」
続けて成人女性と大人びた少年が彼女を気遣う。だがその少女は何も思い出せない。きっと自分は大切な想い出を持っていたはずなのにそれが悔しかった。
けれどそれ以上に――爆発する程の喜びの感情が全身から湧き出てくる。少女は訳も分からず涙を流してしまった。
途方もない感情の奔流に身を任せていると一人の少女が現れる。そして彼女は優しく微笑んでこう言ったのだ。
「初めまして、私は芳野紗幸です。あの、私と友達になりませんか?」
「っ」
それはまさしく愛。心を持つ存在にだけ許された神を凌駕するほどの全知全能の力。それらの前ではあらゆる矛盾は受け入れられ、どのような罪も絶望も瞬く間に消え去るのだ。
少女は人目を気にせず嗚咽を漏らして泣き叫ぶ。友はそんな彼女を果てしない愛と共に抱擁して受け入れる。
ああ、成程。これが自分の希ったものだったのか――この愛を知るために自分はこの世界に生まれ落ちたのか。
「じー」
ミヤタはその暖かな光景を遠目で見てニコニコとしながら接近し、彼女は紗幸と目を見合わせ何をすべきか瞬時に判断した。
「うぇい」
もちろんここは病院なので声は控えめにしなければいけない。けれどこの誓いの儀式をしないわけにはいかないだろう。
「うぇい」
弓削華澄や他の分校メンバーもよく理解出来てはないかった様だがハイタッチをする。手と手が重なり合い、軽快な音は心臓を刺激し生きる活力を与えてくれた。
そして全てを失った弓削華澄は新たな人生を歩む事になる。その道には想像を絶する過酷が待ち受けている事だろう。
けれど何も恐れる事はない。自分は真の愛を知る事が出来たのだ。今さら何を恐れる事があるだろうか。
その日、この残酷な世界にまた一つ愛が生まれ、世界は少しだけ優しくなった。




