11-80 奉還町商店街にて、悲しい時はイモを食べよう
気付けば僕らは雪の降る街の中にたたずんでいた。
生命の息吹の感じられない一面真っ白な世界。地上にいるのにまるで深海かのように音が存在しない。ただ雪が降り積もる音だけが聞こえていた。
「こ、ここは」
「ええと、吉備市に戻ってきた……のかな? 梅雨時なのに雪が降ってるけど」
白の世界は初体験の紗幸とゲスミは得体のしれない場所に怯えていたけど僕はようやく帰ってこれたのだと安心する。普段の白の世界と比べると随分と都会的だけど基本的には同じ場所なのだろう。
「大丈夫、多分駅に行けば戻れるよ。僕も似た様な場所に迷い込んだ事があったから」
「そうなの? わかった」
「ああうん。大丈夫なんだろうな」
ひとまず経験者の僕が先導し雪をギュ、ギュッと踏みしめながら歩いてみた。土地勘は無いけど大体の場所はわかるし何とかなるだろう。
しばらく歩くと少し大きな道に出て、目の前に奉還町商店街と書かれたアーケードのついた商店街を発見した。
「寒い?」
「う、うん。流石にね」
紗幸は寒そうに自分の身体を抱きしめる。既に生命活動を停止しているゾンビは気温の変化には強い印象があるけどやはり寒いものは寒いらしい。
僕らの今の服装は夏服で雪がドカドカ降っているから寒くて仕方がない。なので僕はあっているかどうかはわからないけど屋根があり少しは雪がしのげるその道を選ぶ事にしたんだ。
商店街はレトロな趣がありなかなか雰囲気がある。大都会岡山にもまだこういう情緒あふれる場所は残っているんだね。
「もぐもぐ」
「あ、マタンゴさんだ。白いけど」
「よっす。イモたべる?」
「あ、うん」
商店街を進むと店先でふかし芋を食べている白いマタンゴさんズを発見する。彼らはイモを手に取り食べる用に促したので、紗幸は困惑しつつそれを受け取った。
「あちちっ、食べる?」
紗幸は熱がりながらそれを二つに割り僕とゲスミの前に差し出す。ホクホクとしたイモからは湯気が立ち上り実に美味しそうだ。
「いや渡されても。お前もなに躊躇う事無く受け取ったんだ。知らないキノコからモノを貰っちゃダメって学校で教えてもらわなかったのか?」
「教えてもらってないけど」
「それもそうか。普通そんな状況ないもんな」
ゲスミは苦言を呈したけど紗幸の返しに至極納得する。ただ見た感じこの白いマタンゴさんは悪そうに見えないからイモを食べても問題ないだろう。
「だいぶ前にそんな状況があるにはあったけどねぇ」
「?」
僕は大昔に出会ったマツタケおじさんに想いを馳せる。彼は今どこで何をしているのだろう。叶うのならもう一度会ってみたいよ。
「はむ。うん、ホクホクのイモだね」
「見りゃわかるけど」
紗幸は試しにイモを食べて安全である事を確認する。どうやら見ての通り美味しいふかし芋だった様だ。
「私はいい、そんな気分じゃないし」
「そっかあ」
ただゲスミは親友たちと今生の別れを済ませたばかりなので食べる気分にはならなかったらしい。半分に割れたイモは所在なさげに紗幸の左手にとどまってしまう。
「いい事を教えてあげようか。悲しい時にはイモを食べるといいんだよ」
「なんだそのネットミームになりそうな迷言は」
ただ紗幸はしつこく食い下がりさらに食べる用ゲスミに促した。紗幸ってこんなにイモにこだわりがある子だっけ?
「私はイモを食べて友達が出来たからね。だから私にとってイモ類はラッキーアイテムなんだよ」
「ふぅん。まあそこまで言うなら食べてやるけど」
ゲスミは根負けし仕方なくイモを食べる事にした。そういえば紗幸がまた中学校に行ける様になったのはあのイモ騒動がきっかけだったなあ。
「はふはふ」
そしてゲスミは優しさのこもったふかし芋を切なそうに食べる。しかし虚無の世界で食べる様はなんともシュールだ。
「美味しい?」
「それなりには。そういや私も去年の秋くらいに焚火で焼き芋をしたっけ」
「そっか。いいよね、焚火で焼き芋」
「……ああ。もっと食べておけばよかったな」
彼女は幸せだった過去の記憶を思い出しじんわりと涙を流した。ほんのりと塩味風味にはなったけど、その優しい想い出はきっとこのふかし芋をより美味しくしてくれるはずだろう。




