11-79 山津見村の消滅
そしてこの世界でやり残した全ての事をやりつくし――紅に染まる空とともに世界が終ろうとしていた。
僕と紗幸、そしてゲスミは元の世界に帰るため駅にやって来た。もちろん分校の皆も見送りに来てくれている。
元々外側からやって来た僕と紗幸はそれほどこの世界に未練はない。しかしゲスミは別である。彼女は皆を心配させまいと必死で涙を堪え、正直気持ちはわかるけどかえって見ていられなかった。
「ええと、ごめん。こ、こういう時何を言えばいいのかな」
泣くのを我慢している人物がもう一人。それはつい先日嫌悪する人間から親友へと四段飛ばしくらいで絆レベルが上がったフミだった。彼女は別れの言葉をかけようとするもいい台詞が思いつかず、ただ時間だけが過ぎていく。
「じゃ私から」
見かねたカヤは挙手してトップバッターを務めた。普段の元気いっぱいな笑顔と違いどこか儚げな笑顔はこれが本当に今生の別れである事を示していたんだ。
「カスミちゃんとはいろいろあった。正直最初は面倒くさそうな子が来たなあと思ったよ。でも一緒に過ごすうちに本当は優しい子なんだって事がわかった。今なら言えるよ、カスミちゃんは最高の親友だって」
「そうだな」
続けて発言したのはサクタロウだった。
「カスミ、カヤの友達でいてくれてありがとう。お前がいなければカヤは壊れていた。なんだかんだで俺も結構感謝してるんだぞ」
彼が言っているのはカヤが胸に秘めた想いの事だろう。お互い傷を舐め合う様な少し歪な形でも、その友情は確かに本物だったんだ。
「今だから言えるけどさ、私が分校にやって来たのは都会で挫折したからなんだよね。そりゃもう文庫本一冊分くらいのドラマがあったけど……カスミのおかげでリベンジが出来たよ。ちょっと早いけど卒業おめでとう、カスミ。大丈夫、君はもう一人でも生きて行けるよ」
ミキコ先生もまた自分の過去を述べる。それがどのようなものかはわからなかったけど彼女もまた未練を解消する事が出来た様だ。
そして最後にフミが感極まって、
「カスミちゃん。あなたは私の最高の親友だった。私に人を信じる強さを教えてくれて本当にありがとう!」
「っ」
とてもシンプルに、そしてすべてを内包した感謝の言葉を告げ、ゲスミは我慢出来ずに泣きじゃくってしまったんだ。
「こっちこそ……クソ感謝してるに決まってるだろうがッ!」
ゲスミは昨日の様に号泣するけど泣き崩れる事も抱き合う事もしない。何故なら一人で生きていく事を決意した以上、もうそんな事は出来ないのだから。
ガタンゴトン、ガタンゴトンと電車が近づく音が聞こえる。どうやらその時はもう来てしまったらしい。
「弓削さん」
「……わかってるよ」
短い言葉で紗幸とゲスミは分かり合う。彼女は服の袖で涙を脱ぎ、目を真っ赤にして強く生きる決意をした。
あの山吹色の電車に乗ればこの世界のすべてが終わる。待ち受けているのは過酷な現実だ。
だけど彼女たちは生きていけるはずだ。何故ならもうそれだけの強さを親友たちから受け取ったのだから。
世界は光の粒子に変わり、優しい終焉が訪れる。
ああ、なんて美しい。これが清らかな想いの最期なのか。これが人の命の最期の輝きなのか。
夢心地の気分の中、言葉は消滅し世界には想いだけが唯一残る。
揺れる電車の中、最期に感じた想いはただ一つ。
一切の曇りのない光り輝く宝石の様な『ありがとう』、そんなどこまでも優しく暖かな感情だった。




