11-78 山津見村で最後で最高な一日
翌朝、黄金の朝日を浴びニワトリの鳴き声と共に目を覚ました僕と紗幸は清々しい気持ちになり学校のグラウンドに出る。
「コケー!」
僕らが最初に出会ったのは広々としたグラウンドを駆け回る脱走したニワトリだった。狭い小屋から逃げ出したニワトリはどこまでも自由な広い世界を知りその目は生き生きと光り輝いていたんだ。
「おーす」
「あ、ども」
しばらくニワトリを観察していると分校チームがミキコ先生と一緒に登校してきた。僕はとりあえず彼らに挨拶をするため近づいてみる。
「学校に来たんだ。もう少し自由に過ごせばいいのに」
「いろいろ考えて最後の一日は普通に過ごそうかなって。よく人生最期の日はどう過ごすか、なんて問いかけがあるけど特に思いつかなかったからな」
この世界はもうすぐ消滅する――僕はそれを直接的な表現を用いずやんわりと尋ねるけどサクタロウは気さくに笑ってそう答えてくれた。
なお異界の消滅は今すぐではないので厳密には最期の一日というわけではない。ただもう未練が無くなったのでいつでも終わらせる事が出来るというだけだ。
けれど長居をしたらしたでまた未練になるのは間違いない。きっとあれやこれやと皆で話し合ったんだろうし、スパッと今日を最期の一日にするという選択をしたのなら僕は何も言うつもりはないよ。
「君も小悪党らしからぬいい笑顔になりやがって。もう心残りはないんだね」
昨日涙が枯れるまで泣きつくしたゲスミは腹部の怪我も治りすっかりさっぱりとした顔になっている。その顔を見て僕は安心してしまったけど、
「あるに決まってるじゃねぇか、馬鹿かお前は」
「それもそっか」
彼女は呆れた様に笑ってそう反論したんだ。うむむ、今のは流石に空気が読めなかったか、反省反省。
「そういえば昨日学校でボス戦をした時ミキコ先生の姿を見なかったですけどどこにいたんですか?」
「あれ、気付かなかった? 背景でぺちゃんこになってたけど。のんびりお茶を飲んでたらなんか校舎が壊れて死んじゃったんだよねー」
「まじっすか」
「そうだったんですか、なんかすみません」
またミキコ先生はキガンドウジ戦での小ネタを解説してくれた。そういえばなんか背景に伸びていた先生がいたような、いなかったような……。
「いーよいーよ。あの化け物を倒して私の願いを、私たちの願いを叶えてくれた君たちには感謝しかない。心の底からお礼を言わせてほしい。本当にありがとう」
「どもですー」
「ど、どういたしましてです」
紗幸はミキコ先生に感謝されてえへへ、と照れてしまう。助けたのは異界脱出のついでとはいえやっぱり人から感謝されるのは気持ちがいいものだね。
「そうだ、私たちはこれから学校で勉強して適当に過ごしてから駅でカスミちゃんを見送るけど二人はどうする?」
「僕はどっちでもいいけど。紗幸は?」
またカヤはそう提案し僕は少し考えてそう答えた。異界の消滅まで時間があまりないとはいえそこまでいたずらに急ぐ必要もない。少なくとも今日一日くらいは大丈夫なはずだったから。
「そうだね、うん、私もそうするよ」
「うぃー。じゃ僕も」
「決まりだな」
そして成り行きで僕らは山津見分校に体験入学する事になる。そもそもここは小中学校であって高校生の僕は場違いな気もするけど、まいっか。
それから僕たちは同じ教室で授業を受ける事になった。
しかしここはクソ田舎の学校、授業は基本的にドリルによる自習である。宮城県内上位十位以内の進学校の僕からすればとても斬新な授業だったけど、する事もなかったしとりあえず勉強をしておいた。
黒板の前に置かれた椅子にはミキコ先生が座り、膝の上では先ほどのニワトリがお昼寝をして彼女自身も眠たそうにしている。めちゃクソ暇だし僕もニワトリさんをなでなでしたいな。
自習とはいえ紗幸が学校で過ごしている姿を見るのはなんかいいな。ついでに言えば嫌っていたはずのゲスミとも机を並べて一緒に勉強しているわけだし……いや、人数が人数だから机の隙間はかなり空いていたけども。
する事もほとんどないまま体育の授業を行う事になったけど、授業内容は何と缶蹴りだった。
普通学校の授業であまりしないし僕もそんな昭和の遊びはした事がないので正直ルールはうろ覚えだ。いろいろ種類はあるけど確かかくれんぼの一種で、鬼が隠れている人を探し全員を見つける前に隠れている人が缶を蹴り飛ばす遊びだっけ。
「そーれ!」
「うみゃ~!?」
紗幸は勢いよくフィニッシュブロウを決め、蹴り上げられた空き缶は太陽の光を反射して輝き落下してカンカンと音を奏でる。
まあ慣れていないというハンデはあっても僕と紗幸はサイコパスと赤ゾンビ、気付けばヨシノ兄妹はその圧倒的なチートで無双してしまったんだ。
「そんなァ! これが都会モンの力なのかッ! 娯楽のない田舎でずっとこれしかやってこなかったのに!」
「そのネタ飽きたよ。うん? この程度なの?」
カヤはまたしても絶望し僕は調子に乗って煽ってみる。けれど今日は皆にとって最後の一日だし接待プレイをしてあげたほうがいいかなあ。
よし、次にまた勝ってしまったらバレない様に手加減してあげよう。部外者の僕は空気を読まないとね。
「どこにいるのかな~!? 紗幸ちゃんの匂いがするよ~!」
「ひー!」
鬼になった僕はどこぞの村の校長の人っぽく校舎の陰に隠れていた紗幸を発見、する必要は無いけどタッチをした。しかし足にムカデが這っているかのような悲鳴を上げていたけどさすがに僕も傷つくよ。
「ハッハッハ、馬鹿めが~!」
「あら」
けれど僕は狡猾な笑い声と空き缶を蹴る音で我に返る。どこに潜んでいたのかわからないけどいつの間にか接近したゲスミが缶を蹴り捕まった人間を全員解放してしまったのだ。
「ふっふっふ、作戦通りだね、お兄ちゃん」
「なるほどねぇ。今の悲鳴も演技だったのか」
「いやあれは素のリアクションだから」
紗幸は満足げに笑みを浮かべてその場から移動する。どうやら彼女はゲスミたちと事前に話し合ってどういう作戦で行くか決めていた様だ。
全くもう、こんなに仲良くなっちゃって。でもこれで何も心配ないね。
僕らはその後も延々と遊び続けた。何も考えずに友と無邪気に遊ぶ。それは人生の最期には相応しすぎるくらい光り輝いた最高の一日だったんだ。




