11-77 山津見村の惨劇の終焉
そして僕らを助けてくれたフェイスレスも去っていき、戦いはようやく本当の意味で終結する。
「よよ、よくわからんが勝ったって事でいいんだな? 今度こそ喜んでいいんだな!?」
「やった、やったよカスミちゃんっ!」
「やりぃ、我が兄よ!」
「うむ、妹よ!」
分校チームは勝どきを上げ喚起する。なんだか喜ばないといけない雰囲気だったので僕もとりあえず紗幸のもとに近づきやや軽めにハイタッチをした。
「うぇーい」
「う、うぇい。喜んでいいんだよね、これ!」
紗幸は困惑が半分、喜びが半分と言った様子だけどとりあえず喜んでいる。まずは深く考えず盛り上がらないとね。
仲違いしていたゲスミとフミはともに困難を乗り越えた事で前以上に絆が深まる。雨降って地固まるとは言うけれど……おっといけない、今回はこの表現はちょっと地雷っぽいね。仮にも豪雨災害が発端になってこうなったわけだし。
「明日になれば校舎も元に戻っているだろう。ミキコ先生も無職にならなくて済みそうだ」
「うん、だろうね。ただそれはいいんだけど」
「わかってる」
最初に素面に戻ったのはサクタロウだった。何故なら彼もまたこの勝利が大して意味を持たない事を自覚していたからだ。
僕たちは確かに殺人鬼であるユキシモを永久追放する事は出来たけど、残念ながらそれではこの物語をハッピーエンドにする事は出来ない。
いや、そもそもハッピーエンドなんて最初から存在していないのだ。ここにいる分校チームはゲスミを除けば全員既に死んでしまっているのだから。
「なんだよ、喜べよ。これからはずっとこの世界で平和に暮らせるんだぞ!」
ゲスミもその事を理解していたけど現実から目を背けて無理やり喜んでしまう。本当はこの世界に未来が存在しない事など最初から知っていたはずなのに。
激しい運動をしたせいで傷口は完全に開きゲスミの腹部は血まみれになっていた。その姿はあまりにも見ていられず痛々しくて仕方がない。せめてもの救いは現実世界なら死んでもこの世界なら問題ないという事くらいだろうか。
もう少し早くユキシモを倒す事が出来ればこの勝利にも意味はあったかもしれない。だけど彼女たちはあまりにも時間をかけすぎたんだ。
「カスミちゃん……カスミちゃんもわかってるんでしょ」
「わからない! わかりたくなんてないッ!」
カヤが寂しげにそう告げるもゲスミはその先の議論を断固拒否した。僕が何か説得をするよりもここは親しい友人たちに任せたほうがいいか。
「今ならわかるよ。この世界を作り出した原因は、私たちの未練はカスミちゃんの事だったんだって。カスミちゃんは悪ぶっているけど本当はすっごく繊細で優しい子だからね」
「言わなくていいから! それ以上言わなくていいからッ!」
「弓削さん……」
ゲスミは泣きじゃくり紗幸は憐憫の眼差しを向けてしまう。結局のところ彼女が苦しみぬいて勝ち取った勝利は何ら意味のないものだったんだ。その絶望は果たして如何ほどのものなのだろうか。
「もういいよ!」
「っ」
しかしフミは会話を遮りゲスミを後ろから強く抱きしめる。万の言葉よりも直接身体でその尊い想いを伝えるために。
「もう苦しまなくていいから……もういいからぁ……!」
「フミちゃん……」
ゲスミはずっと耐えていたのだろう。その愛によって堰を切った様に様々な想いがあふれ出てしまう。
喜び、悔しさ、悲しみ、救い、絶望、希望――それらの想いは到底言葉によって語りつくす事は出来ない。ましてや部外者の僕なんかじゃ。
言葉というツールを失ったゲスミは駄々っ子の様に剥き出しの感情を親友たちにぶつける。彼女たちはそんな誰よりも自分たちの事を想ってくれる親友を全員で優しく抱きしめていたんだ。
「帰ろっか」
「だね」
紗幸はその暖かな光景に優しい気持ちになり、邪魔をしないために僕と一緒にその場を立ち去る事を選んだ。
さあて、まずは今日の寝床である宿直室を使える様に戻しておかないとね。




