11-64 ゲスミにとっての『あの日』と、タイムリープの始まり
ゲスミの居場所はノーヒントだったけどサードマンモードを使えば問題ない。僕は幻影の後をついて行きゲスミのもとへと向かった。
それにしても彼女はどこに向かっているのだろう。初めて歩く道だけどこの先には何があったんだっけ。
ブゥウウン。
「お」
「え!?」
しばらく歩いていると周囲の風景が突如として都会的なものに変わった。いや、あくまでも今までの田んぼしかないエリアと比べてというだけであり、高い建物はなかったので村から町程度だけれど。
「これって一体」
「異界だからじゃない?」
突然瞬間移動した理由はわからないけど試しに戻ってみると再び周囲の風景が農村に変化した。どうやら時空が歪んで変な場所と連結してしまったらしい。これは仮説だけれど概ねその理解であっているはずだ。
「わっ、すごい。ほへー」
「これはこれで気になるけど今はゲスミの後を追おうか」
「うん」
紗幸は瞬間移動を少し面白がっていたけど急がないとゲスミが別の場所に行ってしまう。セラエノならまだしも専門家じゃない僕には検証しようがないしここはスルーしておくか。
周囲の情報を脳内マップに記載しながら歩くと僕は『ジーニー』という小さなスーパーらしき建物にたどり着いた。
クソ田舎な山津見村では今まで見た中で一番と言ってもいいくらい大きなお店だったけどここで買い物でもしているのかな。
幻影は店内に入っていったので僕と紗幸もその後を追い中に入る。
内部はやはりスーパーっぽかったたけど比較的おもちゃとか駄菓子が多かった。後はお酒くらいだけどもしかしてここがサクタロウが言っていた駄菓子屋なのかな? ならついでに必要なものを補充するのもいいかも。
しかし店の中にはお客さんどころか店員さんすらいない。田舎だから……というわけではないだろう。
店内にいた唯一の人物であるゲスミは持参したリュックサックに品物を入れて堂々と万引きをしていた。背中にはボウガンも背負っているし傍から見れば強盗している様にしか見えない。
盗んでいる商品の中にはかなりお酒も含まれていた。不良なら酒くらい飲むだろうけどあんなに度数が強そうな奴を選ぶなんて酒豪なのかな。
「っ! なんだお前らか」
ゲスミは僕たちの存在に気が付き慌ててボウガンを構えようとしたけど、殺人鬼ではない事をすぐに理解して動作を中断する。とりあえず敵と認識されていなくて良かったよ。
「ここで何してるの? 万引き?」
「万引きか。そうだけど店員はいないし次の日には品物は復活している。お前らも欲しいものがあれば回収しとけ」
彼女がここで物資を回収したのは初めてではないのか罪悪感を抱いている様子はなく随分と手馴れている様に見えた。
現実世界ではもちろんアウトだけどここは異界なのでセーフだろう。もっともこいつの場合現実世界でも罪の意識を抱くかどうかは怪しいけど。
「元々この店にもちゃんと店員や客もいた。だけどタイムリープを重ねる毎にどんどん減っていってな。今じゃこんな風に閑古鳥が鳴いている。村人も最近じゃほとんど見かけなくなったしこの世界ももうじき壊れるのかもな」
「ふーむ。それは困ったねえ」
「他人事みたいに、お前も当事者なんだぞ? この世界が壊れたらどうなる事やら」
僕が適当に返事をするとゲスミは苛立ってしまう。元々さっさと脱出するつもりだったけどそうか、この世界にもタイムリミットは存在するのか。
「ねえ、弓削さんは要石を壊してこの世界から脱出しないの? あなたは生きているんだよね」
「あん?」
紗幸は勇気を出して彼女に質問をする。ゲスミは少し驚いていたようにも見えたけど、しばし悩む仕草をしてからその理由を教えてくれた。
「……私たちは『あの日』学校に避難してたんだ。まあ正直所詮雨だしどこかしらが土砂崩れしたとしても何とかなるだろうと思ってた」
そしてゲスミは語りだす。彼女にとっての『あの日』の出来事を。
「だけど皆の様子を見に行ったらフミちゃんが殺されていた。縁日で売ってるようなヒーローのお面で顔を隠した殺人鬼は包丁を持ってカヤちゃんを、サクを、ミキコ先生を殺した。そして最後に私を押し倒して、死にたくないって歯をガチガチ振るわせて、殺される直前に土砂崩れで学校が飲み込まれて、意識が飛んで――気付いたら異界に閉じ込められてタイムリープしていたってわけだ」
「つまり弓削さんにもタイムリープの理屈はわからないって事?」
「ああ。ただ全員が死にたくないって、変わらない永遠を望んだのは間違いない。そういう事なんじゃねぇの」
つまりはそういう事、と言われても正直どういう事かはわからなかったけど言わんとする事はわかる。きっとこの世界はもっと生きたいという彼女たちの純粋で切なる願いによって生み出されたものなんだろう。
「そりゃ要石を壊せば私は助かるかもしれない。けど正直私はとっくに自分の事なんてどうでもいいんだ。あんなクソみたいな現実世界に戻るのなら私はこの世界で終わりたいんだよ。こんな私を受け入れてくれた皆がいるこの場所で……」
「弓削さん……」
ゲスミがどのような重荷を背負っているのか僕らにはわからない。だけど僕には何故かその時の彼女の瞳が紗幸と同じに見えてしまったのだ。
そんなはずがない。ゲスミと紗幸が同じはずが。だけどそれじゃ今感じた感覚は一体何なんだ。
「もういいか。そろそろ殺人鬼が現れる時間だ。じゃあな」
「あっ」
僕らが理解する前にゲスミは話題を切り上げ強引に店の外に出てしまう。紗幸はどうしようか迷っていたけど、僕はあいつのアドバイス通り適当に食料となる駄菓子や飲み物を回収した。
「えと、お兄ちゃんは追いかけないの?」
「慌てなくてもしばらく時間をおいてから尾行するよ。そっちのほうがやりやすいし。せっかくだし紗幸もなんか食べてく?」
「そっか。でもお菓子は……うーん」
僕の説明を聞いた紗幸は尾行については納得したものの、万引きには抵抗があったらしく千円札をレジカウンターに置いてから代金以内の食糧を調達する事にした様だ。
「別に気しなくてもいいのに。でも紗幸のそういう所はとても好きだよ」
「そ、そう。でもあんまり気軽に好きとかそういうのは言っちゃだめだよ」
「ふふ」
紗幸は僕の発言に少し照れつつ駄菓子の王様とも呼べる美味い棒状の駄菓子(明太子味)をもしゃもしゃと食べた。
折角だし僕も彼女に倣ってお金を置いておこう。この行為に意味はないけど徳が積めそうだし。




