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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第十一章 永遠の村と『あの日』の償い【第二部2】

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11-61 岡山に潜入していたフェイスレス

 個展会場を後にし、私は手に入れた情報をスマホに打ち込みセラエノさんの能力を使って異界にいるヨシノさんのスマホへ送信する。こちらからでは向こうの様子がわからないので出来るだけ先入観が生まれないよう事実だけをありのままに伝えて。


「これからどうします?」

「私たちは正史で何が起きたのかは知っているけどヨシノたちは弓削華澄を救済しようとしている。下手なアドバイスはかえって邪魔になるでしょうね」

「ですよね……正史ではゲスミさんは白き帝サイドで敵だったはずですし」


 私とセラエノさんは正史において岡山編の中ボスを担当したゲスミさんについて思いを巡らせる。


 正史では性根が腐ったまま更生する事無く私たちの前に敵として立ちはだかったけど、この世界ではそうじゃない。


 原因はわからないけどおそらく巡りあわせによって改心した結果違う展開になったんだろう。無論やり直そうとしている人の邪魔をするほど私は性悪じゃないよ。


「つまりもうする事がないって事ですよね」

「そうなるわね」

「うーん、どうします? ミヤタさんと合流して当初の目的通り復興ボランティアでもしますか?」


 今出来る事を考えたけど異界に向かえない以上外側の私たちに出来る事は何もない。毎回毎回私たちは旅先でトラブルに見舞われがちだけどなかったらなかったで物足りないものがあるなあ。


「まあそれが妥当な所でしょうね」

「ですよねー……ん?」


 ただ方針がまとまりかけたところで私はふと道路の反対側に原宿系ファッションの女の子がいる事に気が付いた。彼女は学校の避難所で働いているはずなのにどうしてここにいるのだろう。


 まあ私の知った事じゃないか――そう考えて気にも止めず活動拠点にいったん戻ろうとしたけど、


「?」


 その少女はいかにも怪しい人に話しかけられて二つ返事でついて行ってしまった。人を見かけで判断するものじゃないけどどう見てもその筋の道を極めた人だ。


「セラエノさんは先に戻っててください!」

「え? ちょっと!」


 私は不安になってしまい原宿系ファッションの女の子を追いかける事にした。私の杞憂で済むだろうけどどうしても不安になってしまったから。



 原宿系ファッションの女の子と怖いお兄さんを尾行する事数分、女の子は怖いお兄さんと一緒に県庁の近くにあった喫茶店に入店する。


 その緑のドアと蔦で覆われた外観の喫茶店はいかにも怪しい雰囲気が漂っていた。いや、それは私の主観であってフラットな目で見れば趣があるお店なんだけど。


「むう」


 一応窓はあるけど蔦のせいで中の様子はよくわからない。店主も一体何でここまで営業に支障が出るレベルまで蔦を生やしたのかなあ。


 でももし女の子が悪い事に巻き込まれているなら大変だ。ここは世間体を気にせず隙間からこっそりと見てみよう。


「ッ!?」


 街行く人は奇異の眼差しで覗き行為をする不審者を見ていたけど私はそれに関してどうとも思わなかった。何故ならそれ以上に店内にいた人物に驚愕してしまったからだ。


 私は剣を構えながら急いでドアを開けて内部に突入する。室内にはほかに彼女の仲間がいたらしくすぐさま奥から飛び出てシャアア、と激しく威嚇した。


「最近の若者は礼儀がなっていませんね」

「何であんたがここにいるの、フェイスレス!」


 店内のテーブル席には何故か白き帝の軍勢のナンバー2であるフェイスレスがコーヒーを飲んでいたので、私はたまらず声を荒げてしまった。


 向かいの席にはいかついディーパが座っていたけどきっとこの人物には先ほどの怖いお兄さんなのだろう。しかし変身を解除しているという事はここはそうしても問題ない場所という事だ。


「とりあえず武器をしまったほうがいいですよ。彼らに食いちぎられたくなければ」


 店には彼以外にもディーパが――いや、その場にいる全員がディーパで殺意をこちらに向けてくる。つまりこの店は白き帝の軍勢の勢力下にあるのだろう。


「こちらに戦う意思はありません。一杯奢るのでヒューマンもどうですか?」

「その言葉が信じられるとでも?」

「僕はその気になればいつだって君を殺せます。無論信じる信じないは勝手ですがボランティア活動やらなんやらで忙しい中僕と遊んでいる暇もないでしょう? こっちとしても余計な面倒ごとを背負いたくないので大人しくコーヒーを飲んでくれると嬉しいのです」

「くっ」


 フェイスレスの言う通りここは敵陣の真っただ中で私は絶体絶命のピンチだ。悔しかったけどここは彼の言いなりになる以外選択肢はなかった。


「……コーヒーは飲まないよ。何が入っているか分かったものじゃないし」

「高位存在の邪神ともあろう僕が毒殺なんて弱者しかしない殺し方はしないのです。美味しいのに残念なのです」


 私は仕方なくその場から動かずフェイスレスの様子を探る。余裕ぶってコーヒーを飲んでいるあたり私の事は敵として認識していないんだろうな。


「それともこっちの姿のほうが話しやすいかな~?」


 フェイスレスは指をパチンと鳴らすと原宿系ファッションの女の子に変身した。わかっていたけどやっぱり彼女はフェイスレスが変身した姿の様だ。しかし見た目が変わってももちろん戦闘力はそのままなので危険性が変わるわけじゃない。


「このお店は確かに九頭龍海運の系列の組織が経営しているけどここにいるのは実質ヤクザを引退した平和主義者のディーパしかいないから安心して? それにさっきも言ったけど今回は本当に悪さをしに来たわけじゃないの」

「じゃあ何しに来たの」

「ハナコちゃんにそれを教える筋合いはないけど~そっちの邪魔はしないっていう事と悪事じゃないって事は約束するよ。今回は一時休戦、お互い干渉しないって事で」

「むう」


 フェイスレスは不思議ちゃんな声で述べたので変な気分になってしまったけどその言葉を信じるなら岡山に住む人にとって脅威となる事はしないらしい。もちろん相手は悪役だからその言葉を鵜吞みには出来ないけど。


「……わかったよ。正直こっちもそれどころじゃないし、今はヨシノさんたちを助けて復興のボランティアをする事のほうが大切だからね」

「うんうん、素直でよろしい。じゃあコーヒー飲む?」

「いらないって!」

「あら残念。美味しいのに」


 休戦の密約を交わした私は苛立ちながらドアを閉めてその場から去っていく。正直目の前に不俱戴天の仇がいるのに何も出来なかったのは歯がゆかったけど、今戦っても絶対に勝てない事はわかっていたから。


 だけど次に会った時はこうはいくものか。今度はちゃんとやっつけてやる。まったくフェイスレスの奴、覚えておいてよ!

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