11-55 生きる事に疲れ果てたプラモデル屋のおじいさん
被災したおもちゃ屋さんにやって来たわたしたちは早速商品にならないプラモデルの仕分け作業をする。力仕事じゃないけどお店の中にはたくさんプラモデルがあったから忙しかったの。
わたしは最初お店に入った時ここがおもちゃ屋さんだと思っていたけど、よくよく見れば商品はプラモデルばかりだったからきっとプラモデルの専門店なんだろう。ぱっと見最近のものよりも昔のもののほうが多い気もするの。
「うお、滅茶苦茶レアものじゃん。捨てるなんてもったいない」
「珍しいものなの?」
「そりゃもう。マニアにはたまらないものばかりだよ」
残念そうに濡れた箱を回収していたひかげちゃんは鼻息を荒くしてそう言った。わたしにはよくわかんないけど確かにレトロっぽいから好きそうな人は好きそうだね。
「そういえば岡山に全国からモデラーが集まるビンテージものに特化した有名な店があるって聞いた事があるけど」
「ああ、多分うちの事だね。特化というか昔からやってたから自然と売れ残りが溜まっちゃっただけなんだけど」
おじいちゃんは照れくさそうに笑いながら寂しそうに汚れたプラモデルの箱を回収する。思い入れのあるものが誰かの手に渡る事なく捨てられてしまうのはやっぱり悲しいよね……。
「おお!? だが本当に捨てるのか!? 店主よ、お前はこれの価値がわかっているのか!?」
「確かに需要はあるにはあるけどこんなに汚れたらねぇ」
とりわけこういうのが好きなチェルノちゃんはかなり捨てるのを躊躇っていた。だけどおじいちゃんは元気がなさそうにそう言って背中を丸めながら回収作業を続けていたの。
「ふにぃ……あれ、これもかな」
悲しくなりながら作業を続けているとわたしは緑のリボンでラッピングされたプラモデルの箱を見つけた。普通の売り物とは違うみたいだけどプレゼント用かな。
「ああ、そこにあったのか」
「おじいちゃん、これは?」
「孫に用意したプレゼントだよ。誕生日を迎える前に亡くなって渡せないままカウンターの奥にしまっていたけどここに流されていたのか」
「ふに」
寂しい瞳をしたおじいちゃんはわたしからプレゼントのプラモデルを受け取り手で泥を払った。一昔前のカッコいいロボットのプラモデルみたいだけど男の子に渡すつもりだったのかな。
「まあ好みなんてわからないからそれっぽいものを選んだだけなんだけどね。今回の大水でもう一人の孫も行方不明になったし、本当は年寄りが先に行かなくちゃいけないのにどんどん独りぼっちになっていくねぇ」
やっぱりおじいちゃんも今回の災害で大切な人を亡くしていたらしく、その生きる気力は消えかけのろうそくの様に弱々しいものだったの。
「ねえ、それも捨てるの?」
「ちょうどいい機会だ、他の品物と一緒に捨てるさ。元々僕も年で体のあちこちにガタが来ていたし店を畳むつもりだったからね」
「ふに……」
わたしは悲しい境遇に何も言えなかった。年齢どうのこうの以前に確かにこんな悲しい事があったら頑張れないと思うの。本当に悲しい事のあった人に気休めで励ましの言葉をかける事なんて出来るわけなんてなかったんだ。
「君は優しい子だね、僕よりも悲しい顔が出来るなんて。なあに、そんな顔をしなくていい。元々田舎で細々とやってきた小さなプラモデル屋だ。こんな形で店を終わらせるのは残念だけどそれなりに幸せだったし何も後悔はないよ」
おじいちゃんはわたしの頭をなでて優しくそう言ってくれた。でもやっぱり悲しいのは嫌なの……。
「……よし、決めた! お店をやめるのは仕方ないにしてもプラモデルはちゃんと欲しい人の所に届けてあげるの!」
「ええ?」
「シャ?」
わたしは一念発起して勢いで提案したけどその場にいる誰もが困惑した表情を浮かべてしまう。わたしも具体的にどうすればいいのかわかんなかったけどこういうのは勢いが肝心だからね!
「その通りだ! こんなお宝を捨てるなんてとんでもない! 店主よ、お前にはこれを持つべき人間に渡す義務があるのだ!」
「あ、ああうん」
ずっとお宝プラモデルを捨てる事を躊躇っていたチェルノちゃんはその提案にすぐに乗ってくれた。うんうん、チェルノちゃんなら賛成してくれると思っていたよ!
「まあ確かにここにあるものはプレミアものばかりなので、現実的な話をしたらお金になるのでやり直すにしても店を畳んで余生を過ごすにしてもどのみち売りさばいたほうがいいと思いますよ」
同じくここにあるものの価値がわかるひかげちゃんはおじいちゃんに現実的な視点からアドバイスをした。もし売りさばけば気持ちの整理もつくしこれからの生活に必要なお金も手に入るし一石二鳥だろうね。
「ふむ、そうかもしれないけど……でもこんなに泥だらけじゃ売れないんじゃないかな」
「何を言う! これほどのプレミア品は箱なしでも売れるしこういうのを欲しがる奴はどの道洗浄してから組み立てる中級者以上のモデラーしかいない! 本職の店主には説明するまでもないかもしれんがな」
「うーん」
チェルノちゃんも続けてどうにかこうにかして説得しわたしの思いつきの発言を実現出来る様に知恵を出してくれた。わたしもなんか話を聞いていたら行けそうな気がしたの!
「店主さん。この話にデメリットはさほどないと思いますが何を躊躇っているのですか?」
ただそれでも店主さんは悩んでいたからフィリアがもっと詳しく聞いてみる事にした。もしかしたら何か理由があって売りたくない、あるいは売れないと思っているのかもしれないし。
「確かにいいアイデアだとは思うよ。ただその……自分は恥ずかしながらパソコンを触った事もほとんどなくてね。帳簿とかは全部紙だし。よくわからないけどそういうのはネットとかで売るんだろう? その辺の知識が全然ないんだよ」
どうやら店主さんはネット通販のやり方がわからないから渋っているだけだったみたいなの。でも確かに言われてみればわたしもどんな感じにするのかよくわかんないのー。
「なんだ、そんな事か。それなら吾輩に任せておけ! ひかげ、お前も確かチーム明日花のホームページを作った事があるよな」
「懐かしい設定を引っ張り出すね。よし、ではここはチーム明日花の宣伝部長の私が一肌脱ぎますか」
「よくわかんないけど頑張るだぁよ、それじゃあぬるぽ、一緒に泥を落としてきれいにするべ~」
「うぱ!」
けれどみんなで知恵を出し合ったおかげで妙案が次々と湧いてくる。やっぱり力を合わせたらどうにかなるものなんだね。
「ねね、どう、おじいちゃん?」
これで残るはおじいちゃんが一歩を踏み出すだけだ。わたしはおじいちゃんが立ち直るためにほんの少しでいいから勇気を振り絞ってくれるように必死で祈っていたの。
そしておじいちゃんは、
「はは、ここまでされたらかなわないなあ。それじゃあよろしくお願いするよ」
「うん、わかったの!」
と、わたしたちの願いに根負けして穏やかにほほ笑みそう言ってくれたんだ。
「よーし、それじゃあ気合を入れてホームページを作って仕分け作業をするの! とにかくひとつでも多くのプラモデル売って売って売りまくるのー!」
「「おー!」」
わたしたちは掛け声とともに拳を突き上げてミッションを開始する。おじいちゃんの大切なプラモデルは全部売り切るんだから!




