フィオナ・ブラックウォーターは告げる
一ヶ月以上、放置して申し訳ありませんでした。
落ち着きなんとか更新を続けられそうです。
引き続き、よろしくお願いします。
「フィオナ!」
吐き出した言葉は吹き荒れる暴風のような炎の前では虚しく掻き消えていく。
しかし、それでも彼女を呼ぶのを止めない。
吸いこんだ熱を帯びた空気に喉が焼かれても、一歩踏み込むたびの身体を炙る痛みが増えても、繰り返し繰り返し、彼女の名を呼んだ。
繰り返した言葉は、熱を躱し、炎を躱し、掻き消えながらも、その言の葉の一遍は、渇きひび割れた大地に僅かに落ちた雨の一雫のようなものだ
「せん・・・せぇ・・・?」
全身を真っ黒に焼き焦がしたような人の形となり果てたフィオナは、先ほどこの周囲で輝いて新緑の若葉のような瞳をうっすらと開き、声のする方、私をしっかりと見ていた。
「フィオナーー!!」
喉が灼けるのにも構わず、今一番の声を張り上げる。
「せん、せい・・・たす、ケテ・・・・」
「!? フィオナ待っていろ!すぐにそっちに行くぞ」
吹き荒れる炎をわずかでも交わすように低く、這いつくばるように進んでいく。
熱が、炎が、命と気力を濯いでいく、一歩這いずる度、命が溢れていく。
しかし、フィオナはさらに消耗しており満身創痍、焼けた身体は彼女の精神を削り、その命は風前の灯火のように見えた。
私が一歩進むうちに、それより早く彼女の命が尽きてしまう。
神よ・・・この際、悪魔でもいい、彼女をどうか、どうか・・・
「助けて、くれ」
「ウィザー殿、お待たせして申し訳ありません」
上から降りてきた言葉は、この熱量を感じさせないように響く。
「後は、わたしに任せてください」
そういうと、ジュードは懐から透明なガラス細工、まるで火が燻るような精緻な加工が施された細工物を掲げるようにを取り出すと、
その頭上に突如の何かの古くから紋章のようでいて、幾何学な模様が空を覆う様に現れた。
「いったい、何が起きているのだ」
それは感覚的に魔法であることだけは認識できた。
しかし、過去に見た如何なる魔法にも当てはまらない得体の知れないもののはずなのに、どこかその形が本来の姿のように思えた。
空中に現れた紋様は、周囲の炎や吹き荒れる風を吸い上げていくと、同時にジュードの手にした細工に火が灯るよう淡く光っていた
。
気付いた時には、山火事の後のような痕跡とその中心に辛うじて人の形を保った変わり果てたフィオナの姿だけが残されていた。
◇◇◇◇
先ほどまでの体の痛みは、限界を迎え、ついに何も感じなくなっていた。
体はふわふわと揺蕩うような感覚に身を任せながら、私は子供の頃の一番古い記憶を思い出していた。
それは幼い頃に見た鏡と額から肩に掛けて、付いたひどい火傷の跡を愛おしそうに撫でる母親の姿だった。
「この傷が貴方を守るわ」
とても嬉しそうな顔でそう呟いていた。
母はとても美しいひとだった。秋の小麦畑のような鮮やかな金色の髪とエメラルドような深い翠色の瞳、世の全ての男性が渇望するような魅惑的な容姿。
でも与えられた本人にとっては、苦痛でしかなかったのだろう。
愛する人と結ばれることも許されず、地方領主の側室に無理やり押し込められた挙句、最後は町の娼館に売られ、わたしを産んだ母。
母譲りの髪色と少しだけ淡い瞳の色を受け継いだ私の顔を母は、灼いたナイフで焼き潰したそうだ。
だから、この傷は母の愛だ。
事実、この傷があるから、男の劣情を殺すこの傷が、母の愛が、私をここまで守ってきてくれた。
だけど、最近の私は少しこの傷が恨めしくなった。
せめて傷が、首のところで終わっていてくれていれば、目の周りで終わっていてくれたら、この傷が無かったら。
私は、先生に「好き」だと伝えられたのだろうか。
いや、どちらにしても伝えるべきではないだろう、私は彼に矢を向け、彼の命を奪ってしまったのだから。
だから、最後にあの夢に見たように、強く私の名を呼んでほしい。
「フィオナ!!」
そうだから、せめて夢の中だけでは、素直にこういうのだ。
「先生を・・・ウィザーを愛しているの」
毎週日曜日更新を目標にします。




