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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第六章 ユーフォリア前編~暗殺教育学校~

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修学旅行

 現在。3年次に進級した彼らは無いと考えていた修学旅行の話が教師たちからされたとき、全員が口を開けて唖然としていた。


 「しゅ...修学旅行...? あるんですか? この学校に...?」


 「うん。」


 「一応確認なんですが...ここ...暗殺教育学校ですよね? いや2年半くらいいて言うのも何なんですけど...暗殺者を育てる学校ですよね...?」


 「そうだよ。」


 「暗殺者に...旅行なんて言う息抜き...ある...」


 「ある!」


 困惑しつつも質問をする青葉に林明は元気よく答えて修学旅行の日程を話した。


 「今回の修学旅行で行くのはローザオルナータ。雪の民・フェリスタ族が暮らす極寒の国ローザ、火の民・オーガ族が暮らす灼熱の国ナータ、森の民・ハイエルフと人間の暮らす森林の国オルの同盟国。3泊4日の旅行さ。1日目はローザ、2日目はナータ、3日目はオル、4日目はローザオルナータの3国を繋ぐ中央区で過ごした後に帰宅だ。この旅行の意味は後押しさ。あと半年もすれば君らは晴れて卒業。残り半年間を乗り切る為のラストスパートの後押しとして息抜きに修学旅行をするのさ。修学旅行ってのはあくまでも学校で行くからってだけで基本的にはただの大勢で行く旅行と思ってもらっていい。今回はちなみに2、3年次合同の修学旅行だから大分な人数で行くよ。来週に行くからそれまでに各自で準備をしておいてね。旅行を楽しむために来週まで学校は休校。体力温存させてね。」


 その勢いのまま来週まで学校が休校することになり、教師たちはある程度の質問に答えた後、教室を出て行ってしまった。


 「もう...今日は帰っていい...ってことか?」


 「...まさかこの学校に修学旅行の概念があるとは...。」


 未だに困惑する生徒たちはとりあえず寮に戻って旅行の準備を始めた。そうして、旅行当日になると皆各々の服を着て集合した。


 「では船に乗って移動するよ!」


 1年次を抜いても2年と3年がいる為かなり多い。特に2年は3年の倍はいる。3年次は現在100人に相当するが、2年次はなんと1000人近くいる。ざっと1100人の生徒と引率する教師がいる。そんな大勢の客を乗せる船はもちろん大きく部屋数も多かった。1人一部屋取れるほどに。


 そうして全員が船に乗ると静かに船が動き出し、誰1人船酔いすることなくゆったりと極寒の国ローザを目指した。流石に困惑していた生徒も始まったばかりで国に着いていないのにワクワクしているのか口角が上がっている。船にはレストランのスペースがあり、そこで朝食をとれる。3年次と2年次の合同ではあるが、互いに接触することはなく、同学年の人間と話したり遊んでいたりしている。暗殺教育学校の生徒であることを忘れてしまうくらい平和の光景が広がっている。


 「こんなゆったりとした船旅をすることになるなんてなぁ...。」


 青葉がそう呟くと、2年次に進級した明純司と浅永巴が近寄ってきた。


 「なぁに言ってんの。どうせ国に着いたら変なことするに決まってるだろうがよ~!」


 「変なことって? 実務か? こんなに生徒が居たら逆に目立って仕方ないだろ。それに実務だったら事前に言われてないとこっちも対応に困る。」


 「そうよ司。青葉先輩の言う通りです。」


 「えぇ~! 巴ってばいっつも先輩の肩持つぅ!」


 「俺の肩を持つというより、お前が変なことを抜かしてるからだよ。」


 「いぃ~だ!」


 「何て?」


 そんなやり取りをしていると、ローザに着いたのか教師たちが呼びに来た。生徒たち全員が服を着こんで外に出ると、予想を遥かに超える寒さにガタガタと震えるが、全員の確認をしたのちに、生徒たちを引き連れて港から街を目指して全員で歩き出した。そこらじゅうが雪だらけでまさに銀世界。幻想的な風景に目を奪われながらも歩みを止めず街を目指す。そうしてしばらくしていると、ローザの首都に到着した。


 「ここが極寒の国・ローザ。人も住んでるけど、大半は体温を保つ為の白い体毛だったり、雪上や氷上をスケートリングのように滑走する足を持ってるフェリスタ族が住んでる。」


 花が説明すると生徒たちは初めて見るフェリスタ族の人達を不思議そうな目で見ながらもそれぞれの挨拶をすると、フェリスタ族の人達もそれをわかったのか挨拶を返してくれる。そんなこんなで先にローザのホテルを取り、部屋に荷物を置くと自由時間になる。


 「極寒の国で食べるソフトクリーム馬鹿美味いんだけど。」


 「やっぱアイスはバニラだよなぁ~。安心するわ~。」


 ミルクアイスをクローヴンが、バニラアイスをフェブルが食べている。極寒の国であるローザでは基本的にフェリスタ族が多いため冷たい食べ物が多いが、人も住んでいるため温かい食べ物も多く存在する。ローザオルナータはシルヴァマジアと貿易を行っている国の為、機械や電力による生活ではなく体内で生成される魔力や大気中の魔素によって生活が行われる。


 「これ綺麗...。」


 「お? ...買おうか?」


 「自分で買える。」


 凍燐の言葉に少しムスッとして冰燎は自分でお金を払って結晶の耳飾りを買う。ローザでは主に氷雪加工の技術が行われており、氷や雪で作った物体に魔石を埋め込むことで待機中の魔素を吸収して溶けないようになっている。これにより、氷や雪によってできた家具や食器、武具などが売られている。


 「何この音...。」


 「氷琴ひっきんだよ。魔石を埋め込んだ氷を木琴や鉄琴のように配置したものであれで音を出して演奏するんだよ。」


 「木琴とか鉄琴とかと結構違う音出ますね。」


 神流の疑問に林明が答えると、近くにいたグラスハッドも氷琴の音に耳を傾ける。ローザ独自の音楽文化としてこの氷琴と高音の声による演奏がある。フェリスタ族の族長やローザの統治者が決まった時や亡くなった時はこれらの演奏で祝い事や弔辞などを行う。盛大に演奏したり、静かに演奏することでローザの国民の気持ちを一体化させてその儀式を執り行うのだ。


 「...ローザオルナータ。この国の舞台の話があった...。ロードバラッドイズハート。確か...本能の悪魔と理性の使徒に自我を蝕まれている1人の女の子と、その女の子を1人で育てた父親の話だったかな。聖地巡礼って奴かな。このローザで...父親は女の子を殺さざる終えなくなった。ここが一枚絵の場所か。女の子の赤い鮮血が真っ白な銀世界を真っ赤に染めたあの絵。もう動かない娘に猟銃を片手に立ち尽くしている父親の後姿。」


 「先生またロードバラッドの話ですか?」


 「あれ? 聞いてたかい? 好きな作品なんだから仕方がないだろう? 君らの修学旅行は僕にとっては聖地巡礼なのさ。」


 林明の言葉にカーツェは目を細めて離れて自由時間を過ごした。そうして、あっという間に1日目が終わると、明日に向けて生徒は早めに就寝に就いた。


 そうして翌日、泊めてくれたホテルに感謝を述べた後今度は灼熱の国ナータに向かった。数十分の馬車での移動で出発前まで寒かった気温は急激に高くなり、薄着でもどうしようもないくらい汗が噴き出るほどの暑さに座ってるだけなのに疲れる。ホテルを取ったあと、昨日と同じ様に自由時間になるが、全く生徒たちは動く気にならなかった。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛......。」


 「ゾンビみたいな声出さないでもらえるぅ~? あっつい...から...。」


 そうは言うものの暑すぎてレゴンも銀狼も完全にダウンしかけていた。それに加え、ナータはスタミナをつけるために辛い食べ物が多い。もちろん人も住んでいる為、甘い食べ物はあるにはあるが、母数としては圧倒的に多いオーガに甘い食べ物は売れない為、結果的に数が少なくなり、人も辛い食べ物を食べざる終えないのだ。


 「辛すぎる...。」


 「うんめっちゃ辛い...。カプサイシン直食いしてるみたいな気分になってくる。」


 青葉の言葉についてきていた司も同意して何とか完食しつつも、自由時間を食事で潰すということは無理だと確信した。


 「オーガは堅い皮膚と体内魔力を効率的に使う為の角がある。この角は一本でも折れたら致命的でよくて魔力のコントロールが上手くできない。多くの場合は死に至る。」


 「皮膚が若干赤みがかってるのはそう言う理由ですか?」


 「それに関しては単にこの国だからこそ耐熱性だと考えられている。他の国のオーガは赤い皮膚や赤みがかった皮膚という感じではないらしい。」


 オーガの生活を見ながら言ったバンバの言葉に巴は関心を持ったのかオーガの住民に話しかけたりした。


 「ローザオルナータのナータにある火山の火口を見ると、グレンを思い出すなぁ。」


 「グレン?」


 「またロードバラッドすか?」


 「そうだよ。ロードバラッドイズディザスター。主人公のグレン・アルバレスタはこの火口で炎の剣を抜くんだ。業火灼熱の剣・陽炎を使って同じような武器を持つ仲間たちと共に戦う物語だけど、運命に翻弄され最終的には仲間たちと殺し合いをすることになる。」


 「嫌な話っすねぇ。」


 「そうかな?」


 要約された話の内容に引くクローヴンに林明は首を傾げて話を続けた。その後、ナータでの太鼓や銅鑼に低音の声による演奏を聞きながら打ち上げられる花火を見て、なんだかんだ夜も猛暑である灼熱の国ナータでの2日目を終える。


 翌日になると迎えに来た馬車で今度は森林の国オルに向かう。到着したオルはやはりハイエルフと人が多く住むという話の通り、寒すぎることも無ければ暑すぎることも無い住みやすい温度感と綺麗な緑の風景が広がっていた。旅館に着くと、挨拶をした後に荷物を置いて自由時間が始まる。


 「のどかだなぁ...。」


 鳥たちのさえずり、穏やかに暮らす草食動物、広い湖にはたくさんの魚が泳いでいる。木々の揺れる音。黙っていると落ち着きすぎて眠れてしまう。猫や犬、兎や鹿などと触れ合い、草原で寝転がりながら動物たちと一緒に寝たり、花畑の中を歩いたり、雄大な海の中に作られた道を通り、そこから泳ぐ魚群を見る。一緒に食事をしたり、意外にも東洋文化が根強いことが分かったり、修学旅行の1日目や2日目よりも快適に過ごせた。


 「快適すぎて言う事ねぇなぁ~~。」


 「全くだ。極寒と猛暑じゃないだけでここまで違うとは...。」


 「当たり前でしょ。常に動いてないといけないか、動かなくても辛い。このどっちも無い今の環境が良いに決まってる。」


 フェブルとクローヴンの言葉に凍燐がツッコミを入れる。その光景を見ながら冰燎は自分に絡んでくるグラスハッドを冷めた目で見る。


 「止めてくれない? その目...結構効くよ?」


 「しつこく絡んでるからだろ。」


 「よく冰燎の反応って薄いのに絡みに行けるよねぇ...?」


 グラスハッドの悲しそうな発言に呆れるレゴンとカーツェ。一方青葉が天そばを食べていると、巴と司と銀狼が近づいてきて一緒に別々のものを食べ始める。


 「何でいちいち俺の元に来るんだ? 巴はまぁ...司のお守りか? 銀狼は...他の席無かったのか?」


 「一番安心できる人と食べた方が美味しいし楽しいよぉ~。」


 「そうそう! ってか巴は私の親じゃねぇ~し。」


 「でもまぁ心配だから来てはいるんですけど。」


 「えぇ!?」


 「まぁ巴はそうだろうよ。」


 そこから他愛のない話をしていると、バンバが来て読んでいた歴史書を巴に渡す。


 「俺は読み終わった。後は自分で読むと良い。」


 「ありがとうございます先輩。」


 巴はバンバに軽く感謝を述べると、食べ終わって少し離れたところで歴史書を読み始める。その日の終わり際に、ハイエルフと人の琴や笛を使った演奏を聴き3日目が終わり、温泉に入ることになった。


 「ナータに近いから少し暑いけどまぁ全然許容範囲内だなぁ。」


 「いやぁ...。ローザでは普通の風呂、ナータでは冷水だったから全員でこうやって温泉に入るなんてことはなかったから一番旅行っぽいな。」


 「それもそうだな。」


 クローヴンと青葉がそんな会話をしていると、壁を乗り越えようとする数十人の男子を引き連れたフェブルとグラスハッドの姿があった。


 「何をしてる...?」


 バンバが呆れたように言うと、フェブルとグラスハッドはキメ顔で答える。


 「「覗きだよ。」」


 「何も格好ついてねえぞ。」


 即座に青葉が突っ込むとフェブルが隣の女風呂には聞こえない声量で熱く語る。


 「内の女性陣は美人しかいない! この機を逃せば裸なんぞ見れん! 今!! 彼女たちの美しい体を見る時なのだ!!」


 「何を熱く語ってるんだ。」


 バンバが冷めたツッコミをするとグラスハッドが援護をするように語る。


 「気にならないかい? 銀狼の裸体! いつもあんなにボーイッシュでちゃらんぽらんなのに...服装では体型が全く分からない! 最初あった時なんて女性とすら思わなかった彼女の裸体を!」


 「いやまぁ...わからなくはねえが...流石にお前覗きは...。」


 クローヴンが同意しつつ制止させようとすると、黙っていたレゴンが立ち上がり鋭い目つきで歩き出す。


 「気になる...!!」


 「「「(お前そっち側なんかい。)」」」


 心の中で3人がツッコミをすると、3人で何とかして女風呂を覗こうと躍起になっている。


 「どこに本気になってんだよ...?」


 「裸なんぞ見ても何にもならんだろ。」


 「何で特別任務とか進級試験とかの時より本気に見えるんだよ。」


 呆れる3人に対して、元狙撃班の覗き魔3人と他数十名の男子生徒。そんな中、女風呂の方は覗かれようとしていることなぞつゆ知らず温泉を楽しんでいる。


 「あぁ~いいねぇ~。このまま逝ってしまいそうだぁ~。」


 「銀狼? 目が凄い天に召されそうなことになってるよ? というか意外と大きいのね?」


 「まぁカーツェとかみたいによく動く戦い方じゃないしねぇ~。その分太ると言いますかぁ~。」


 「いや...胸の話なんだけど...。」


 銀狼とカーツェがそんなことを話していると、神流と巴のスタイルを司が見比べてまるで実況の如く喋っていた。


 「止めて司。私そんなキャラじゃない。」


 「司ちゃん。結構巴ちゃん嫌そうだから止めてあげたら。」


 「いや! お色気選手権を! 私はこの学校開くんだよ!」


 「「(ここそんなほのぼのとした学校じゃない。)」」


 心の中で巴と神流がツッコミを入れていると、巻き込まれないように凍燐と冰燎はカーツェと銀狼の元に行った。


 「どうしたのぉ~?」


 「いや...あの空気感に巻き込まれたくてね...。」


 「凍燐は絶対に誘われるよ? 地味にスタイルいいし。」


 「まぁそうだね。」


 そんな会話を繰り広げている間に男風呂の方はもう少しで覗きが成功するところまで来ていた。


 「俺達もう上がるからな。後輩たちが待ってるし。」


 「精々天罰が下らないようにな。」


 「絶対下ると思うが。」


 そうして青葉、クローヴン、バンバが大浴場から出ると、レゴン、フェブル、グラスハッドは女風呂を覗くことに成功した瞬間、温泉の水面越しに見ていた銀狼がさりげなく人形で覗きを決行した男たちに天罰を下した。


 「「「ぎゃあああああああ!!!」」」


 「え? どうしたの?」


 「何か変な事しようとしたんじゃなぁ~い?」


 銀狼の返答に全てを察したカーツェは苦笑いしながら、男風呂の壁を見た。


 「天罰...下った...。」


 「き...きくね...。」


 「でも一瞬見れたぜ...。」


 「「...何っ!?」」


 「巴...意外とスタイルが良かった...。」


 そうして気を失うレゴンにフェブルとグラスハッドは親指を立てて気を失った。その後は、青葉の部屋でトランプをしたりして遊んだ後に就寝した。


 翌日。修学旅行最終日のローザオルナータの中央区。ここではほとんど人が住んでおり、所々にハイエルフやフェリスタ、オーガが見える。ここで2年次に特別任務を請け負った者達はデラウェル・スクリームと再会し、中央区を案内してもらった。その中でローザオルナータが同盟を結んだ理由や同盟を結んだ当時の3国のトップの話を林明や花は熱心に聞いていた。


 「いつか...ここにニルファを連れてきたいな。」


 「ニルファさんの病気...治ると信じよう。」


 「もちろん!」


 フェブルの呟きに青葉は頷きながら返す。その後はそれぞれのグループに分かれて行動した。青葉はバンバとそして旅行中は全く接点のなかったクリードと一緒に行動した。


 「クリード。」


 「ん?」


 「お前は何で、暗殺教育学校に来たんだ?」


 ふと青葉が訊くと、クリードは少し黙った後に答える。


 「ダリウスに学校に行けと命じられたからだ。」


 「...じゃあ、クリード。お前は何で躊躇なく誰でも殺せるんだ? 殺さなくてもいい実務でもお前は殺すし、必要のない犠牲も出すときがある。やむを得ないって言ってるけど...そんなことないと思うんだよ。」


 「青葉...。」


 質問をやめさせようとするバンバの言葉を遮るようにクリードは答えた。


 「殺した方が早いからだ。」


 「早い.....?」


 「無意味に残したところで、そこから憎しみの連鎖が始まる。だったら始まる前に鏖殺おうさつして後処理を楽に終わらせる。それだけだ。」


 「そいつが、これから役に立つ可能性があってもか?」


 「それは可能性の未来の話だ。」


 「お前の話だって可能性の未来の話なんじゃないのか?」


 「俺の知っている人間に言われたことがある。人は生まれながらにして悪なんだ。だからこそ、憎悪に嘘偽りがない。だがそれを認めたくない。だからこそ、正義、正しい、正当化という言葉を愛する。自分達の悪を使うための許可の為にな。これから役に立つ可能性...それで生かしたことで自身の命が脅かされたら意味がない。」


 「そうか...。じゃあ...。」


 「青葉! 辞めておけ。すまないクリード。自由行動中に空気を悪くするものじゃないな。」


 バンバが強めに制止してクリードとの会話を終わらせるとクリードは1人でに歩き出す。それを見てバンバは青葉の方を向く。


 「青葉。お前がどういう考えを持っていて、どう行動するかは勝手だが...。クリードは無理だ。あいつを変えることはできない。」


 「そんなのやってみなくちゃ...。」


 「いつまでやってるんだという話だ。2年次の特別任務の日からお前はクリードに何かと話しかけて人間らしさを引き出そうとしているが、それは無理だ。あれは人間じゃない。機械だ。」


 「人間だよ。だって同じように今を生きてる。」


 「青葉。お前の姿勢は正直、褒められるべきものなのかもしれない。だがな? 青葉それはなどんな状況でもその信念を貫ける者が言える言葉だ。お前はもし、クリードに憎悪や殺意を抱いたとき...お前は今のお前でいられるのか?」


 バンバの質問に青葉は少し迷った後に答える。


 「個人の感情だけだったら、俺は耐えられると思う。でも...理由があったら...俺は耐えられないとも思う。...あいつの言う通り...殺す行動に正しさが俺も欲しいんだ。でも、正義や、正しさ、正当化という言葉を愛するのは...悪なのか...? 特別任務の日。俺は人は生まれながらにして善なる者だと思ってるって言ったの覚えてるか?」


 「もちろん。」


 「お前はどうなんだ...?」


 「俺は善悪どちらも無いと思っている。純粋な探求心は時として悪となるだろう。だが探求心は間違いなく悪ではなく知的生命体である人間にとっては善なる心だ。そもそも善悪何て言うのは人間の物差しで決める者だ。そもそも、この世に善悪何て言う概念は人間以外持ち合わせちゃいない。それを言ったらお終いだというんだろうが、お前の質問への答えは俺ならばこれだ。人は生まれたころには善悪はなく無である。」


 「そっか。わかった。」


 青葉とバンバは何とも言えない空気の中で話を切り上げ、クリードと共に自由行動を進めた。ほとんどの生徒が土産を買わない。土産を渡す相手がいないからだ。その中でフェブルは積極的に後輩や同級生に話しかけて土産の品を探した。その光景を見ていた青葉には夕暮れ時に皆で楽しんでいる今が凄く美しく見えた。


 平和だ。誰しもが笑っていて、誰しもが悩んでいて、他愛のない話で盛り上がっていて、青葉は双葉が亡くなってからこの日初めて心の底から笑っている。ここにいる生徒全員が暗殺者。誰かの命を奪って生きている。全員が覚悟している碌な死に方はしないだろうと。だからこそ、全員が思っている生きている時間を精一杯幸せに生きるのだと。いつか来る死に、惨い死に、悔いしか残らない死に少しの恐れと、この道を選ばざる終えなかった自分の人生を呪いながら。


 「皆お疲れ! 2日間の休日の後はラストスパートの授業が始まるよ! では、解散!」


 暗殺教育学校の寮まで戻ると、林明の一声で生徒たちは寮に戻った。この4日間の楽しい思い出を心に刻みながら卒業までの授業を受ける。


 幸福は連続で長く続くことはない。連続で長く続いたと感じたとき、それはその幸福のうちに小さな不幸があった時。だがしかし、稀に本当に幸福ばかりが連続で長く続くときがある。その時は、あとからとても重い代償として大きな大きな不幸がやってくる。


 長ければ長いほど、失う痛みは深く深くなっていく。信じれば信じるほど、信頼を裏切られた時の反動は大きくなっていく。死に際の言葉ほど、それを知っている奴にとっては呪いになる。当たり前だ。この当たり前の積み重ねが、繋がりに深く修復困難な傷を作る。


 「...何だ...これ...。」


 嗅いだことのないレベルの強い血の臭い。大量の先刻まで動いていたもの。始まってたった20分の出来事だった。

次話「卒業試験」

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