特別任務 後編
狭い部屋の中、空間に穴が開きそこから飛んでくる無数ともいえる樹木を高周波で振動する高熱の刀が焼き切る。
「流石は氷月の舞姫...武器の性能が高いと言えど...火照る体でここまで戦うとは...。」
カルヴァ―ドはそう言いながら、狭い部屋の中とは思えないほど空間を行き来する樹木に乗って花に襲い掛かる。
「零晶閃。」
床を蹴るように駆け、刀を順手、鞘を逆手で居合い抜刀するように構え、空間ごと切り裂く樹木の行き来する空間の穴を消した後体勢を崩したカルヴァ―ドとの距離を詰め、剣と鞘で下から切り上げるように回転させる。
「冷炎。」
「ぐはっ...!!」
速すぎる花の動きにカルヴァ―ドは反応できず、攻撃をもろに受ける。しかしすぐに壁に空間の穴を作って外に出る。
「残雪。」
花がそう言った瞬間にカルヴァ―ドの切り傷が抉られるように痛む。
「ぐぅっ...!?」
空間の穴を使って花が追ってくると、自身の傷口から大量の細かい鉄の塊が蠢いて傷口を開いていることに気付いた。
「何...!?」
「この刀...無数の鉄の粒子で出来てるの。斬られた対象の内部から壊せるようにね...。」
それを聞いた瞬間青ざめるカルヴァ―ドだが、即座に花に杖を向ける。花は体勢を敢えて低くして避けて、柄でカルヴァ―ドの顎を殴って腹部を蹴り飛ばす。
「(なぜ殺さない...? そうか...僕を殺してしまったら...あの方の情報を取れないと考えているからか...!)」
そう考えたカルヴァ―ドは即座に片手を床につけてそこから蛇のように動き回る木々を避けながら襲い掛かるカルヴァ―ドにカウンターを合わせるように刀を構える。
「双白龍...。」
その瞬間にカルヴァ―ドを全く同時に2つの斬撃が襲った。しかし、すぐにカルヴァ―ドは2つの斬撃で自分の体から血飛沫が上がろうと、つたと葉で止血しながら蛇のように動き回る木々で花を捕まえた。
「よし...。強い...強い女こそ...屈服させることに意味があるんだ...!!」
カルヴァ―ドは身動きが取れなくなった花の顎を持って口づけをしようとするが、落ちてきた刀に腕を貫かれる。
「ぐああっ...!!!」」
あまりの痛みに悶絶していると、その隙に魔法を緩めた事で自由になった花から躊躇いなく刀を引き抜かれる。
「...!?」
「私の事...舐めすぎね? あんた...。」
その瞬間に花は首を思いっきり鞘で撃ってカルヴァ―ドを気絶させた。
「あれだけ強そうにしておいて...実際は弱いのが...。まぁ...楽だったから良かったけど...。はぁ...この年で媚薬なんぞ使われるとは...こちとら2児の母だぞぉ~? どういう性癖してんだこの男...。...うん、圧倒的にうちの旦那さんの方がイケメンだもんね。」
花はそう言いながらカルヴァ―ドを縛り上げて潜伏班に指示を出しながら抹殺班と合流しに行く。
同時刻、影からの放たれる銃弾や飛んでくる無数とも呼べる槍や剣、大槌や斧と言った武器を2本の短剣で弾いていく。
「(影の中で武器を作っているのか...それともこんな大量の武器を影の貯蔵しているのか...? 生成しているのならこの男の魔法の真髄は武器の生成速度。貯蔵しているなら無制限に影の中にものをしまえるのか? それは魔法の範疇を越えている。何かを溜めこんだりする場合、基本的に魔法ならばその負荷は自分自身にかかるはず...。さっきから定期的に姿を現しているところを見ると、恐らく影の中に自分も侵入できるものの長時間は留まれないんだろう。同じ影にもう一度出てくるのは基本的にない。影に潜んだら別の影から出てくる。影の中は酸素がなくただ落ち続けるのか...? もしそうならば...。)」
女は走り出して明かりの多い部屋に出ると自分に明かりに近づいて自身の影を濃くすると、そこから林明が出てくる。
「!!」
すぐさま攻撃するが即座に影の中に潜られてしまう。
「(今一瞬だけ動きに隙ができた。影の中から出るとき、より濃い影からの方が出やすいのかもしれない...。じゃあ...影が少ない場所で私の影が濃かったら...男が出てくる範囲を狭められる...。)」
女はそう考えて、明かりにできるだけ近く、影の少ない甲板に出る。
「(広い影はあっても...月明りがちょうど照らしてくれる。若干物陰の方が濃いかもしれないが...柵の影より...正面の影が私の影の方が出やすいはず...。さぁどこから来る...!)」
「!!」
女がそう考えている間に林明が正面の影から出てきて勢いよく剣を振り下ろすが女はすぐさま防ぐ。
「この短時間でよくもまぁここまでわかったものだね。だが外に出たのは正解だったのかな? 今は夜...いかに濃い影があっても他のところも暗くて影になっていることは変わらない...。」
「その理論ならばさっきのように無数の武器を放った方が確実に私を攻撃できましたよ。それをしなかったということは...薄い影では何かと不便があるのでは...?」
「...君優秀だねぇ? うちの生徒にならないかい? 今年は2年次の先輩が珍しく長期実務も無くて学校にいるんだよ。毎年2年次と3年次は長期実務で学校にほぼいないから今年は珍しく楽しいよ? 同学年の1年次に編入してみないかい?」
「敵をスカウトとは...随分と余裕ですね。」
「まぁね。僕らには時間が無くてね。その時が来るまでに強くて優秀な子たちを育てておきたいのさ。後進の育成ってやつだよ。」
敵であることを気にもせずスカウトする林明に女は眉間にしわを寄せて首を傾げながら怪訝そうな顔をして押し返すと、短剣を構え直して答える。
「お断りです。正直...私の得になる話とは思えない。」
「そうか...それは残念...。」
林明はそう言いながら影に潜むことなく自身が出てきた影から無数の武器を射出できるようにする。
「断られたら即殺ですか? 質が悪いですね。」
「仕方ないだろう? 断られちゃったらもう敵意外の道ないんだから...。」
そうして女が動き出した瞬間に林明が武器を射出しようとした。
同時刻、船内とは思えないほど自由自在に動き回る大蛇と長い鞭の猛攻に巧みな技術で蛇のように動き回る鎖鎌の猛攻がぶつかり合っていた。
「2対1って...やっぱ卑怯!」
「殺し屋と暗殺者の戦いに卑怯なんて言葉はないぞ。」
女の叫びにダリウスは冷静に対応しながら大蛇と共に見下したように女を見る。
「目つきこわぁ~。超こわぁ~。まぁ確かに? 殺し屋と暗殺者っていうろくでなし同士の戦いだから? まぁ卑怯とかないんだろうけど~。ちょっと情報にない戦い方は...酷いよねぇ~。完全アドリブ全開で戦わないと駄目じゃ~ん。はぁ~~。きっつぅ~~。」
女はそう言いながら鎖鎌を回しながら動きの怠さにムカつきながらダリウスの鞭を見る。
「(この大蛇も、あの鞭も...すげぇ毒あるんだろうな...。こっちも毒もあるのに...全然効いてる感じしないし...。近づいて相手マズかったかなぁ~。すげぇ今...体が重いっつうか...怠いっつうか...。血鎖狩人だから妙に毒を耐えてんのもこのウザさに拍車かけてんだろうな。) マジ最悪...。」
女は悪態をつきながら鎖鎌で跳びあがって大蛇を狙うが、ダリウスの鞭に邪魔される。
「邪魔だよおっさん!!」
女が鎖鎌でダリウスの攻撃に対応すると大蛇に噛みつかれるが蹴り上げて防ぎ、後ろに回って大蛇に鎖を巻き付けると壁ごとぶっ壊して海に投げる。
「しゃっ! 差しの勝負!」
「んふ...。はっは。」
「はぁ?」
急に馬鹿にしたように笑うダリウスに怪訝そうな表情をすると次の瞬間女はしたから大蛇に噛みつかれた。
「ぐっ...!? な...何で...!?」
「俺の大蛇は普通の生物じゃないんだよ。毒を司るものなんだよ。俺が契約した守護者だ。」
「守護者...!? あんた...ただの暗殺者じゃないのかよ...!?」
「暗殺者だとも。俺は昔から暗殺者であり...契約者だ。」
ダリウスの言葉を聞きながらも女は何とか大蛇の口をこじ開けて脱出して立ち上がるが、長く噛まれたことで毒は全身を巡っていた。
「流石に苦しいか?」
「ちょっとその口閉じてくんない...?」
苦しそうに悶える女をダリウスは笑いながら鞭で何度も叩いた。女は叩かれる回数だけ鞭の毒に蝕まれていった。
同時刻、船内全域に複数の足音と銃声、悲鳴が響き渡る。迎撃班は客を護衛しながら増え続け襲い来る銃弾の嵐を捌き続けている。
「だ、大丈夫か!? あんた!!」
「大丈夫...。いいから逃げなさい!」
「言ってる場合か?」
冰燎が客に逃げろと言っていると容赦なくジャックが銃の引き金を引く。冰燎はすぐさま棒で銃弾を弾きながら客には当てないように注意する。
「(暗殺者が何を躊躇っている。大量にいい肉壁になる客が後ろにいるというのに...。)」
ジャックは客を取り囲むように分身して全員一斉に引き金を引く寸前に冰燎はすぐに棒を投げて一撃で分身を倒していくが間に合わない。
「くっ...!!」
冰燎は倒せなかった分身の前に出て客を庇う。体を大量の銃弾に撃ち抜かれ、立っていられずにそのまま倒れ伏す。心配して駆け寄ろうとする客に掠れた声で叫ぶ。
「逃げなさい!! こんなろくでなしを心配せずに!!」
客は躊躇いながらも逃げようとするがジャックが逃がすはずもなく銃口を向ける。
「くっ...! 動け...動け...!!」
冰燎は何とか立ち上がって銃口を向けるジャックの前に立つ。
「俺が分身すればお前の頑張りの意味なぞ無くせるぞ?」
「はぁ...はぁ...はぁ...うるさい...!」
冰燎は棒を弱々しく掴み取りフラフラと構えを取りながらも鋭い目つきでジャックを睨みつける。
「(私が倒せなくても...! 仲間が倒してくれる! 私は客を絶対に守る!!)」
冰燎は走り出してジャックに向かって棒を振り下ろした。
その頃、同じような状況に陥った凍燐は何とか冰燎が守っていた客と合流させた。
「このまま外に出れば...狙撃班の援護を受けられる...! 奴の能力を前に...室内で守ることは得策じゃない...!!」
そう言いながら前を見ると、大量の血を流して戦っている冰燎を発見する。
「このまま外に出なさい!! 振り向かず!! 真っ直ぐ船外に出なさい!!」
そう叫んで、冰燎が戦っているジャックの元に向かおうとするが、分身がその行く手を阻む。
「お前の相手は俺だろう?」
「分身に用はない!」
「うぅ...!!」
フラフラで今にも倒れそうな冰燎が目に入った凍燐は最悪の結果が頭に過ってしまう。
「冰燎...!!」
姉の存在に気づいた冰燎は一瞬だけ安心してしまう。その隙にジャックが引き金を引く。その瞬間に銃弾が弾かれる。
「あ?」
ジャックが窓の方を見ると、全身ずぶ濡れの男が立っていた。
「俺の銃は水に濡れても最新式だぜぇ!!」
「...フェブル...!」
「(こいつ...俺の銃弾を銃弾で弾いたのか?)」
「凍燐! 冰燎! 俺、やっぱ室内戦得意だから協力するぜ!」
フェブルはそう言いながら拳銃を連射して跳弾で全ての分身を倒してジャックに銃口を向ける。
「意外と俺の銃捌きも中々だろ!?」
フェブルの登場によって少し気が抜けた2人は客を船外まで誘導する事に集中した。それを邪魔しようとするジャックの分身をフェブルが倒した。
「させないぜ!」
「(こいつ...言葉遣いや態度はふざけているが...血鎖狩人でもないのに...俺の銃弾に適応してきた...。厄介だな...。)」
フェブルは血だらけの冰燎と多少だが負傷している凍燐が客を船外に誘導しているのを感じながらジャックから目を離していない。
その頃、フロントエリア周辺の客を速めに船外に出せたカーツェは狙撃班の援護を受けながらジャックと戦っていた。
「(銃弾に対応するのが早いな。)」
「(この人の能力は恐らく分身と加速...引き金を引いた瞬間に銃弾は加速を始める。離れれば離れるほど加速していくから...命中率も上がる。面倒だけど...戦えないほどじゃあない。)」
カーツェは分析しながらも放たれる銃弾を全て鎖鎌で弾いて分身を倒していった。
「(即席で増やした分身はなんてことない...。でも分身を出している彼は...中々攻撃をさせてくれない...。)」
「流石は血鎖狩人...。面倒だなぁ...。」
そう言いながら自分を見てくるジャックを見ながら通信でレゴンに狙撃させるがジャックは分身を盾にして防御する。
「(分身がやられてもそのダメージはいかないようだ...。)」
カーツェが冷静に思考していると、ジャックは少し遅く分身を出す。
「ん?」
分身たちはカーツェに向かって銃口を向けて引き金を引く。即座にカーツェは銃弾を弾くが、分身がまた分身を生み出して盾にしてとてつもない速さで増殖を始める。
「なっ!?」
「お前は流石に強いんでな。分身の強さは本体に近づけた。そしてその分身の速度も上げた。簡単には死ななくなって強くなったってことだ。」
それを聞いたカーツェと通信越しのレゴンは客を守る為に動き始めるが、さっきより中々殺せない。レゴンの狙撃も分身が更に即席で作った分身に邪魔をされる。
「クソっ!」
「まずい!! 数で押される...!!」
その瞬間海面から大量の人形が姿を現す。
「ん? 人形?」
「人形...!」
人形たちが同じ構えを取ると、ジャックの分身が全て呪殺される。
「...無事?」
辛そうな銀狼が船に上がってきて言うと、カーツェは周りからいなくなったジャックを一応警戒しながら微笑む。
「ありがとう。でもあんなに一斉に呪殺して大丈夫? 顔真っ青だけど...。」
「大丈夫ぅ~。きついけどぉ~。カーツェ。凍燐と冰燎の客も船外に出たからここの人達合流した方がいい。レゴンとグラスハッドも援護できるし...。」
「うん。そうしましょうか。レゴンも援護ありがとう。グラスは...まだ援護してる?」
「そうっぽい。」
「じゃあグラスが援護しているのはクローヴンよね。銀狼はお客さんたちを合流させて、私はクローヴンと合流するから、室内よね?」
「...うんだってさ。」
カーツェは客を銀狼に任せてクローヴンがジャックと戦っているカジノエリア周辺に移動を始めた。
その頃、カジノエリア周辺で客を守りながら戦うクローヴンは容赦のないジャックに思わず笑っていた。
「俺と差しでの勝負できねえのか!? おっさん!!」
「馬鹿か? ガキだろうとなんだろうと、楽に殺してさっさと終いにしたいだけだ。」
とてつもない速度で自身と同等の力を持つ分身を作り出しながら銃口を自身以外の奴らを狙って引き金を引こうとするジャックに笑いながらもうんざりしたように片方の短剣をブーメランのように投げ、それが分身を殺している中で客を避難させつつ、流れるように投げた短剣をキャッチしてまた投げるを繰り返す。
「(流石は血鎖狩人。だが...大抵の奴らは自分の力を過信して道具とかを持たない。だから...守りの戦いにはめっぽう弱い。これを続けて行けばどんどん体力は削られ...動きが鈍くなっていくぞ。) ...!!」
ニヤリと笑っていたジャックに向かって矢を放ったグラスハッドは舌打ちしながら、客を守り切ったクローヴンを見る。
「まだいけるかい? クローヴン。」
「ああ行ける行ける。全然行ける。って言いたいけどやっぱきちい...。」
クローヴンは深呼吸をしながらジャックを見据える。
「もうきついだろう? 諦めて客なぞ見捨てて殺しにきたらどうだ? 余程勝ち目があるぞ?」
「嘗めんなよ...? お前なんて...お客さんたちを守るくらいのハンデないと勝負にならないっての...!!」
精一杯の強がりを言いながらグラスハッドの援護とジャックに向かって行くが、すぐさま分身を出されて客を狙われる。
「クソっ!」
悪態をつきながらも必死に守る。グラスハッドも自身が放っている矢を見て悪態をつく。
「僕の矢じゃ...一撃で分身を屠れない...! 威力の高い矢でも...奴の分身に簡単に受け止められた...! 初めてだよ...弓を使っててここまで威力不足だと痛感するのは...!」
「グラス...俺が短剣で傷つけた分身ならどうだ?」
「? 傷口に矢を当てられれば屠れるとは思う...。」
「ならそれで行こう...。」
もう一度クローヴンはジャックに走り出す。だが、今度はジャックが分身を出しても片方の短剣をブーメランのように投げるだけでそのまま向かって行った。
「おぉ。仲間に任せたか。」
グラスハッドはカメラで短剣で傷つけられたジャックの分身の傷口を事細かに覚えて拡散する矢を連続で放つ。そうして客に銃弾が飛ぶ前に矢で相殺しながら分身を屠った。
「よし!!」
その声が聞こえた瞬間クローヴンは笑いながら片方の短剣をキャッチしながらもう片方の短剣をジャックに振り下ろす。しかし、ジャックは拳銃で受け止める。
「なっ!?」
「俺もお前ほどじゃないが普通じゃなくてな。間合いを詰めてここまで来たのは結構...。さてどうする? 俺が本物である保証はどこにもないぞ...。」
ジャックがそう言った瞬間にカジノエリアに入ってきたカーツェがジャックの頭を鎌で斬り落とした。
「大丈夫!?」
カーツェが即座にそう訊くと、クローヴンは答える前に客の方を向いてジャックの分身がいないかを確認した後にレゴンに訊く。
「ジャックはまだいるか!?」
「いる! 戦ってる!」
「じゃあ...。本物はどこだ...? ...ごめんカーツェ。大丈夫だ。まずは客を船外に出そう。」
「うん。」
一旦考えることは止めてクローヴンとカーツェは客を船外に出した。そうすると、船外ではフェブルがジャックと相性がいいのか、客がほとんど減ることなく援護もなしに戦えていた。
「フェブル? 泳いで来たのか...? ...いやいやそんなこと考えている場合じゃない。凍燐! 冰燎!! 今から狙撃班の2人がボートで近くに来る! 何度か往復して客を陸地に避難させてくれ!! 銀狼はその間の無防備なところをグラスと一緒に守ってくれ!!」
「わかった!」
「...頑張る...!」
「私はフェブルに協力する。クローヴンは?」
「その前に...花先生とは連絡取れたか? クリードとか。後護衛班」
「花先生はバンバと合流するみたい、クリードはわからない。護衛班は今青葉が何者かに襲われてて...神流が1人で護衛している状態。」
「じゃあ俺は神流と一緒にデラウェルさんを護衛しに行く。」
それを聞いたクローヴンは多人数戦に向かない神流の状態を考えて船内に戻っていった。
その頃、大量に分身したジャックとそこから放たれる銃弾の嵐は多数の客に襲い掛かるもののバンバは全ての銃弾を短剣で弾いて的確に分身を消滅させながら分身を増やし続けるジャックを蹴り飛ばす。
「(こいつ...俺の能力のからくりに気付いてやがる。しかも...対応出来てやがる。分身を出し続ける俺のとの距離を一定に保つことで俺が生み出す分身の大半を高速で狩りきって、遠くの方に分身させた奴は俺が分分身を作れないように蹴り飛ばすなり、ワイヤーで動きを止めるなりして邪魔してる間に他の分身を狩ってやがる。しかも、撃たれた銃弾が加速していくのにも気づいてるから撃った瞬間の初速に追いついて弾きやがる。客を守る時もそうだ。他の連中は身を犠牲にしてでも客を守ることを第一優先した動きをしてるのに...こいつは...違う。客を守ることを後回しに俺を狩りに来てやがる。だが一番驚いたのは血鎖狩人の癖に、巧みに道具や罠を扱いやがる。なんだ...ただのぬるい任務ばっか経験して、自分の化け物じみた力に溺れたケツの青いガキどもの暗殺者だと思ってたら...いるじゃねえかマシなの!)」
ジャックが思わず笑うと、バンバは全く動揺せず落ち着いて一定の間合いを取って構えを取るとそこに花が合流する。
「バンバ君!」
「...はっ...。カルヴァ―ドの野郎もう負けたのか...弱いな相変わらず。」
カルヴァ―ドに心底呆れながらジャックが花を見ると、バンバは即座に指示を出す。
「花先生は客を避難させてください。」
「...1人で戦うつもり? 2人で戦ったり、客を避難させるのを君がやって、私がジャック・ア・ベーゼと戦うのは駄目なの?」
「わかっているでしょう? 今の花先生は見たところ薬を盛られています。そんな状態で万全に戦えるとは思えませんし...守る技術は経験豊富な花先生の方が最適だと思います。何より...。」
「何より?」
バンバの返答に概ね納得していた花はまだ続けようとするバンバに首を傾げる。その様子を敢えて邪魔せずにジャックは見届ける。
「この男を...倒してみたくなった。」
「はぁ?」
「フッ...! 言ってくれるなぁ! 坊主! いや...バンバ! お前の事を侮っていたことを謝罪しよう。真正面から越えに来てくれるのは好きだぜ俺は。」
バンバの返答に呆れながらも、その前の質問の答えに納得していた花は一言言う。
「さっきの質問の答え! かなり良かったから、勝てずとも生きなさいよ!」
花が客を避難し始めると、ジャックは敢えてそれを追うことなく他のエリアや船外でフェブル達と戦っていた分身を解く。
「何のつもりだ?」
「言ったろう? この俺を倒してみたいと...。俺も言った。真正面から越えに来るのは好きだと...。態々差しの勝負を挑まれたんだ。久しぶりにな。他のところに分身を配置した状態でやってられるか。全力で戦ってやろうと考えたのだ。だが...俺とお前は敵同士で合ってライバルではない。ここまでは譲歩するが、飽くまで俺が上だ。船の上は...俺の戦場にはちょっと狭すぎる。」
「何が言いたい?」
「今、お前の仲間が小型のボート使って船にいた客を陸地に避難させている。さて...この船には爆弾が仕掛けられている。」
「!!」
バンバはすぐに動き出したがジャックが引き金を引く速度が速く、壁を貫通して時限爆弾を無理やり起爆した。
起爆する数分前、狭い機関室の中で青葉は縦横無尽に動き回る男に鎖鎌を思うように使えず苦戦していた。
「どうした? そんなもんかぁ?」
「ぐぅっ!」
煽られて男を投げ飛ばして鎖鎌の鎌を直接持って刺そうとする。
「待ってくれ!!」
「ぬぉ...!?」
先ほどの男ではなく怯えた船長の顔が姿を見せる。それによって動揺した青葉を見てすぐに男の顔に戻り青葉を顔面を蹴り飛ばす。
「お前...暗殺者だろう? 殺す度胸もなしに俺と戦ってたのか?」
「...お前は...何だ...? 船長なのか? 船長に変装してるのか?」
「変装なんてしてねえ...。体を借りてんだよ。」
「何...!?」
「この体は間違いなくこの船の長の体だ。だが、意思はこの船にはいないアカザサって男の意思だ。憑き人って言ったろ? 体は基本借り物だよ。意思を乗っ取ればどんな体だって使える。お前の体だってなぁ...。」
目を見開いて驚く青葉に笑いながら男もといアカザサは船長の体だと知って更に攻撃がしづらくなった青葉に猛攻を加える。
「おらぁ! どうしたぁ!? ヒヒヒヒッ!!! こんなもんかぁ!? 血鎖狩人ってのはぁ!?」
「ぐっ...ぐぼぉ...!」
膝をついて吐血する青葉を見て、見下して笑う。
「お前ぇ...暗殺者に致命的に向いてねえなぁ? 船長の体とか関係なく割り切って殺しに来いよぉ?」
「その体から...。」
「あ?」
「...出ろ...!!」
「はぁ~あ。折角、血鎖狩人でも使い手がこれじゃあ宝の持ち腐れだよなぁ...。俺が何でお前の要求を呑むんだよ。」
「クソッ...!」
アカザサから真っ当に言い返された青葉は何も言い返せずに黙ってしまうと、通信でとてつもない叫びが聞こえた。
「ん?」
―――影に入れ!
一瞬何のことだか分らなかった青葉をクリードが林明の作った影から青葉を引きずり込む。それを見て何かあると察したアカザサは意思を抜いて船長をそのまま放置する。それと全く同時に銃弾によって起爆された時限爆弾がクルーズ船全域で連鎖爆発を起こした。クルーズ船はその大爆発によって崩壊、近くの陸地の影から全乗客と抹殺班、護衛班、潜伏班が出てくる。
「ぐはっ...ぶふっ...!!」
影でその大人数を入れて出した林明は大量に吐血しながら咳き込む。それを花が支える。ただひたすら攻撃を受けていた青葉は痛みを堪えながら立ち上がる青葉は満身創痍の仲間を見た後にデラウェルさんと神流の元に行く。
「大丈夫だったか?」
「何とか...。林明先生の影に助けられたね。運よくジャックってやつにも見つからなかったし。」
「ジャック?」
「敵はこの陸地に潜んでいる可能性もある。」
ダリウスがそう言うと乗客たちは各々悲鳴や狼狽える声、怒声や罵声を上げる。その中で青葉が回りを見渡すとクリードの姿がない。
「この方たちの私のせいで死にかけたのなら...奴らはまだ私を狙ってくる。私が諦めて殺されれば全て済むかも...。」
「そんな確証がどこにあるんです...!?」
疲弊しきって死を受け入れようとしているデラウェルを神流が止める。
「(船長もいない。爆発に巻き込まれたのか...。)」
クリードの事を聞こうとするとバンバが立ち上がって陸地の奥を見据える。
「どうした?」
「戦っている音がする。クリードかもしれない。俺は行く。」
「なぁバンバ。」
「ん?」
「俺さ...暗殺者...向いてないよな...?」
皆に聞こえないくらいの声量の質問にバンバは正直に答える。
「...ああ。致命的なくらい向いてない。いざ殺すのを躊躇ってしまう暗殺者なんて聞いたことがない。だが俺はお前の事は嫌いじゃない。俺たちは機械じゃない。心ある人間だ。だからこそ迷うし、殺さない道を選べる。」
「殺さない道。」
「そうだ。俺は強くなりたいというまぁこの中では一番動機としては弱いが、それでも暗殺者をしている。だがむやみやたらに殺す気はない。凍燐や冰燎は間違いなく殺す気はなかった。だから殺してない。俺は殺すべきだと判断したら殺す。それがどんな理由や正義があろうと。殺すべきでないと判断したら、そいつの判断で生かすか殺すかを決める。相手に判断を委ねる。基本的にはな。青葉。お前はどうだ?」
「俺...? 俺は...悪人でも...できるなら生かしたい...。俺は...過去、人間に大切な人達を奪われた。でも、それより多くの人達に助けられた。俺は人は生まれながらにして善なる者だと思ってるんだ。だから...生かしたいと思うんだよ。いや、それ以上に...この手を汚したくないって我儘な心があるんだ。でもそれじゃ甘いよな。」
「甘いかどうかで甘いんだろうが...。そこから答えを見つけるのはお前だ。俺はお前の考えを変えようとしないし、否定もしない。尊重する。」
バンバはそう告げると、戦っている音が聞こえる方向に走り出す。それを見届けた後近くで水音が聞こえ、その方向を見ると海辺から陸地に上がってくる影が見えた。
「!」
青葉はすぐに鎖鎌を構えると2人の顔の見えない女の人影がずぶ濡れでこちらを見据えていた。
「多くない? 絶対無理なんだけど...。」
「そんなこと言っても目の前に抹殺対象のデラウェル・スクリームがいるのなら狙うべきです。」
そんな会話をしていると、青葉は構えを解いて鎖鎌を持ったまま無防備に歩いて近づいていった。それに気づいた2人は即座に戦闘態勢をとる。他の皆は青葉の行動に首を傾げながらも万全に動けるダリウスが何もしないことを見て、いつでも動けるようにはした。
「何? 戦う?」
「それとも、そこで咳き込んでいる男性の方のようにスカウトでもするつもりですか? だったらお断りですよ。」
「......。」
2人に質問されてしばらく黙って考えた青葉は何かを決めたような顔で2人を見据える。
「そんなずぶ濡れの状態でか? しかも火傷痕が見える。爆発に巻き込まれたんだろ? 再生し始めてるところを見て、恐らく血鎖狩人何だろうが...そろそろ再生もきつくなってきたか?」
「何? 煽ってんの?」
「のらないで。」
鎖鎌を持った女が眉間にしわを寄せると双剣の女がすぐに制止させる。
「俺は2人とも殺す気はない。」
「「は?」」
2人が呆けた声を出すと、青葉はニヤリと笑って言う。
「その代わりに寝てもらう。」
青葉の存在感と話に集中していた2人の女の背後に回っていた神流が2人を毒で眠らせる。
「わかりづらい合図に答えてくれてありがとう。」
「いや? 全然活躍してないからむしろこのくらいの仕事はね。大分協力だけど血鎖狩人じゃ死なない睡眠毒だから。すぐに聞かせるために。」
2人の女は青葉が血鎖狩人であり自分達よりも上であることを感じ取っていた。その為にダリウスや林明と戦っていた時よりも警戒し、話を集中して聞いていた。そのせいで後ろに回って近づいてくる神流に気付くことができず、爆発に巻き込まれ大量に再生したこと、泳いで陸地まで来たことによる体力消耗で強力な睡眠毒で一瞬で眠らされてしまった。神流と共に女性を林明と花の元に届けると、神流にデラウェルを任せて青葉は戦っている音がする方向に走り出した。
そうして、乗客もろともデラウェルを狙ってきたジャックとアカザサ、そしてサポートさせるようにカルヴァ―ドと対峙するクリードとバンバに青葉が追いついてきた。
「...。この陸地に生える大量の樹木によってカルヴァ―ド・レオニクスの魔法の物量が上がっている。それに、ジャック・ア・ベーゼとアカザサは完全に対応してくる。ジャック・ア・ベーゼは本体を選べる分身と加速し続ける銃弾が主な能力。アカザサは意思を他人の体に入れて自由自在に動くができる。最悪な場合としてアカザサは一斉に乗客の体を乗っ取る可能性もある。」
青葉が来たことを確認して淡々と説明するクリードに青葉は一言頼む。
「クリード。アカザサは俺にやらせてくれ。」
「わかった。バンバはさっき言ってたな。ジャック・ア・ベーゼか。では俺はカルヴァ―ドをやろう。お前たちよりかは早く終わるだろう。その時は厄介なアカザサのサポートを先にする。いいか?」
「それでいい。」
青葉の要求をクリードは呑み、クリードにバンバが同意した後、カルヴァ―ドが大声で言う。
「甘く見られたものだねぇ。」
「「妥当だよ。」」
アカザサとジャックに突っ込まれるとは思わず複雑な表情をしていると、クリードが気配を消すと同時にバンバと青葉が動き出した。それを見てジャックは自身と同等の分身を大量に出してバンバのみに銃口を向ける。
「雨弾!!」
「ワタリガラス。」
ジャックの銃撃をバンバは天を駆けるように荒ぶる樹木を渡り歩き、降り注ぐように放たれ時をも超えて加速する弾丸を避けながら現本体のジャックに双剣を振り下ろす。
「(銃口の細かな向きの変化そこから引き金を引いてからの動き...全て予測して避けきった...! 何という奴だ!!)」
防ぎながらも感嘆するジャックに腕に油付きワイヤーをさりげなく絡めて吹っ飛ばされたが受け身を取りながら樹木に着地して走り出す。ジャックが分身するとワイヤーも分身する。それに気づいたときにはバンバは着火してワイヤーを伝って本体ごと燃やす。
「ぐぉっ...!」
流石に声を出した本体のジャックとの距離を一気に詰めてバンバは首に向かって短剣を薙ぎ払うが即座に分身に変わって避けたジャックはバンバの背後に回り込む。それに対して即座に振り向きながら斬ったバンバの攻撃も避けてバンバとの距離をかなり話してから銃口を向ける。
「さぁ...! 避けてみろ! バンバ!! 時弾!!」
放たれた銃弾は加速していきバンバに届くころには時を超えてバンバに当たるはずだった。しかし、それをバンバは銃口の向きのみで予測で避けずに切り裂いたのだ。
「(なんて奴だ...。)」
ジャックは両手を上げて降参のポーズをとった。
「...? 何のつもりだ?」
「他にも依頼があってな。まだ死ぬわけにはいかん。このままお前と戦い続ければ確実にどちらかが死ぬ。それはごめん被る。もし生きてまた会った時は...本気でやろうじゃないか。」
そうしてあっさりとジャックはその場から離脱した。
「...道具が切れたら俺が負ける可能性は十二分にあった。運が良かったな。」
その頃、カルヴァ―ドと戦っているクリードは荒ぶる樹木のせいで中々近づけなかったが、確実に追い詰めていきあっさりと目の前まで到達した。
「なっ...!? 馬鹿な!」
「...。」
何かを言う前にカルヴァ―ドはクリードに気絶させられた。
そうして荒れ狂う樹木も無くなりただの森林と化した広いフィールドで青葉はアカザサと交戦していた。今度は船長の体でもなく、狭い部屋でもない場所で。
「何だよ...つええじゃねぇ~の!!」
青葉の容赦のない攻撃を楽しそうに捌くアカザサはカウンターで蹴りを入れるが、強固な青葉の体で逆に骨にひびが入ってしまった。
「いって...。なんだよ。あの野郎...。でもまぁ死体じゃこんなもんか...。」
悪態をつきながらも追撃してくる青葉の攻撃を受け流しながら大量の樹木に自身の意思を分散させて入れることで意のままに操る。
「随分と質の悪いお前だな。自分から雑兵になってどうすんだよ。」
「これでも意外に役に立つんでなぁ!!」
青葉は襲い掛かる樹木を全て壊しながらどさくさに紛れて自分を乗っ取ろうとするアカザサの攻撃を避けてカウンターを決める。
「ぐっ...!! (この体も限界か...! まぁ血鎖狩人の攻撃何てもろに何度も受けてりゃそうなるか...。)」
吐血しながらアカザサはそう考えてまだ襲ってくる青葉から清々しいほど全力で逃げる。
「おい待て!!」
青葉が追いかけると、カルヴァ―ドと倒したばかりで援護に来たクリードと鉢合わせしてアカザサは首を斬られる。
「ぁ...。...ありがとう。すまなかった逃げられるところだった。」
あっさりと殺すクリードに複雑な表情をしながらも青葉が感謝を述べると、クリードはアカザサが動かしていた体をしばらく見た後に気付く。
「本体じゃない。これは元から死体だ。」
「え? じゃあ...。」
クリードが走り出すと青葉も追うように走り出す。すると、ヘリコプターの様な乗り物に顔が分からない人とカルヴァ―ド、に乗り移ったアカザサが乗っていた。顔が分からない人は何か叫んでいるのが見えるがヘリコプターの様な乗り物の扉は締まっており、青葉とクリードにはよく聞こえなかった。しかし、なぜかバンバの耳には言葉のみ届いた。
―――助けてください!!
バンバは体が勝手に動き出してクリードと青葉のいるところに向かうが、一歩遅くれた。ヘリコプターの様な乗り物はもうすでに空高く飛び去ってしまっていた。
「すまん! 取り逃がした!」
「誰が乗ってたか分かるか?」
「顔は見えなかったんだが、何か叫んでるようだった人と、カルヴァ―ド。恐らくアカザサが乗っ取ってるけどその2人だけ見えた。」
「そうか。俺もジャックに逃げられた。だが、これで殺し屋の連中はいないはず、デラウェルさんと乗客を当初の目的地まで送り届けよう。」
クリード、バンバ、青葉は乗客たちや仲間、デラウェルのいるところに無事戻り、ローザオルナータの支援もあり、無事乗客たちとデラウェルを目的地であるローザオルナータに送り届けることができた。こうして暗殺教育学校の2年次の特別任務は終了した。2人の女性の名前もわかり、半ば強制的に1年次として編入させることになった。双剣使いの名前は浅永巴。鎖鎌使いの名前は明純司。
そうして、それからの2年次は実務や進級試験を経て、3年次に進級し、それからしばらくしてないと思ってた修学旅行を迎えることになった。
次話「修学旅行」




