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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
最終章 恋架け橋で約束を
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目覚めて

 私はハッと目を覚ました。

 そして、すぐに起き上がる。

 孝宏君?!


 そばにいるはずの孝宏君を探す。

 しかし、周りには誰もいない。

 神社の鳥居の前で、私は一人、倒れていたみたいだった……。


 そして……不思議な感覚が私に襲いかかる。

 え?

 まさか……。

 今の……さっきの……全部、夢?

 そんな……。

 嫌だ!

「孝宏君! どこ?!」

 私は人に聞かれるかもしれないということすら全く考える余裕もなく、愛しい孝宏君の名前をひたすら呼びつづけた。




 私の名前は、来栖野佐那くるすの さな、十五歳の高校一年生。

 毎朝、通学で乗り込む電車の駅員さん……っていうか車掌さんなんだけど……を好きになってしまい、恋愛成就を祈願するため、寒蝉神社に来たところだったはず………なんだけど……。

 そして、今、目の前に、その寒蝉神社の鳥居が見えてるんだけど……。

 あれ?

 寒蝉神社って、さっきの夢の中にも……。

 いや、違う……夢じゃない!

 あれが夢だなんて、私は信じない!

 信じたくない!


 あたりには、夕暮れ時の情景が広がっている。

 今日は七月七日、七夕で……寒蝉神社のすぐそばにある「恋架け橋」の伝説に合わせて、私はここに来たはず。

 七夕の夜に、恋架け橋ってロマンチックだと思ったから。

 ……あれ?

 恋架け橋って、さっきの夢の中にも……。

 だから~!

 夢じゃないってば!

 こっちが夢!

 そうに決まってる! 


 ごほん……冷静にならなきゃ。

 お母さんの生まれ故郷の街にある、この寒蝉神社は、最近になって恋愛成就に効果があるスポットとして、密かに人気が出てきている。

 なんでも恋愛祈願に関してのみ、絵馬に「日付と自分の名前、好きな人の名前」だけを書いて奉納するという。

 そのことを知らずに、普通に恋愛祈願をしようと、寒蝉神社まで来ちゃった私。

 でも、その車掌さんのお名前を知らなくて……。

 それで、今日のところはいったん引き返すことにしたんだっけ。

 勇気を出して、せめてお名前だけでも聞いてからにしようかと。

 それに、今まで勇気が出なくて、その車掌さんの近くまで接近したことすらなかったけど……制服に名札が付いていたのを思い出したから。

 あの名札を見れば、少なくとも苗字は分かるはず。

 今、日付と自分の名前だけ書いた絵馬を奉納したところで、叶う恋も叶わない気がするし……。


 そういうわけで……せっかくこの街まで来たのに、今日のところはやむなく引き返そうとしてた……はず、多分。

 自分のことなのに、何だか自信がなくなってきた。


 ふと視線を落とすと、そばに私のバッグが転がっているのが見える。

 泥にまみれているけど、中身は無事みたいだった。

 スマホにお財布に腕時計……ちゃんと入ってる。

 時計の針は、午後六時すぎを指し示している。

 私は普段からあまり腕時計を腕につけず、たいていスマホを時計代わりに使っているから、腕時計の出番は少ないんだけど。


 私の記憶が途絶えたのが午後六時前くらいだったはずなので、ここで寝てた……というか気を失ってたのは……どんなに長く見積もっても、十数分そこそこのはずだ。

 そろそろ冷静さを取り戻してきた私は、こっちが夢だなんて、もう思えなくなってきていた。

 でも、だからといって、さっきのが全部夢だなんて、そんなの納得できるはずがない!

 孝宏君!!

 どこ行っちゃったの?!




 私は孝宏君に会いたくて会いたくて、少しでも手がかりがないかと、無我夢中でバッグの中を探った。

 でも、あの思い出の王冠はどこにも見当たらなかったし……宝物になった小物入れもない。

 その他、孝宏君に関するモノや、孝宏君を思い起こさせるモノは何一つないようだ……。

 それどころか、あの絵馬の姿すらないのは不自然だった。

 どういうことなの……。

 私はため息をついた。

 何気なく、ワンピースについている土を払う。

 そこで気づいた!

 あ!

 この濃紺のワンピース、孝宏君に買ってもらったものだ!

 それはどう考えてもはっきりしている。

 間違いない!

 やっぱりあれは夢じゃない!

 だけど……だけど……もっと確証が欲しい!


 そうだ!

 恋架け橋!

 もしかしたら、孝宏君が待っていてくれるかも!

 私は急いで、恋架け橋の方向へ向かって駆け出した。




 しかし、橋が見えてきたところで、落胆が私を襲うことに。

 そこには誰一人いなかったからだ。

 そんな……。

 孝宏君……どこ行っちゃったのかな……。

 私を一人残して。


 そのとき、脳裏にあの秘密の場所がよぎった。

 そうだ!

 あそこへ行けば!

 そして、もしかしたら……孝宏君はそこで待っていてくれているのかも!

 私は記憶をたどりながら、足早に駆け出した。


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