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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第五章 七月五日
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バーベキュー

 孝宏君と私が帰り着いたとき、すでにバーベキューの準備は、おばあさんと雪乃さんによって始められていた。

 バーベキューは、おばあさんの家の裏庭で行われるようだ。

 そういえば、ここでした三人での花火、楽しかったなぁ。

 そのときは夜だったから周りがあまり見えなかったけど、今ははっきり見える。

 けっこう広い裏庭なのに、芝や草木の手入れはきちんとされているみたいだった。

 おばあさんがしているのかな。

 もしそうなら、今度お手伝いしよう。


 私たちもすぐに準備を手伝い始めた。

 指示を出すのはおばあさんのようだ。

 私を含む、他の三人は、指示通りにてきぱきと準備を進めていく。




 私たちが手伝い始めてから五分ぐらいが経過した頃、大学生ぐらいの年齢に見える女性二人組がやって来た。

 一人はショートヘア、もう一人は私と同じく長い髪、と対照的だ。

「雪乃~。ご招待ありがとう」

 ショートのほうの人が言った。

「来てくれてありがとう。こちら、留美と冴子、あたしの友達」

 私に向かって、雪乃さんが紹介してくれた。

 二人とも、おばあさんや孝宏君とは会ったことがあるような様子だったので、私とだけ初対面みたい。

 私たちは「初めまして」と言い、簡単な自己紹介をした。




 それからさらに約十分後、崎山君がやって来た。

 相変わらずの深いお辞儀と共に。

 崎山君はみんなに挨拶に回っていった。


 そしてその直後、また誰かが入ってきたみたいだった。


 見ると―――。


 智君と………美麗さん!


 まさか、美麗さんが来るとは思ってなかったので、驚きのあまり呆然としてしまった。

 たしかに、孝宏君も「別に気まずいわけでもない」とは言っていたけど。

 智君と美麗さんも、挨拶の後、準備に加わってくれた。




 やがて、準備は整った。

 大勢で準備したので、かなりはかどったように思う。

「じゃあ、始めようかね」

 おばあさんの合図で、バーベキューが開始した。


 すぐに、良いにおいが辺りに充満していく。

 もう六時近いせいか、あまり暑くなくて過ごしやすい。

 やや冷たいそよ風が、優しく裏庭に吹いている。

 私たちはおしゃべりをしつつ、食べたり飲んだりを楽しんだ。




「佐那さん、ちょっといいかしら」

 孝宏君、崎山君と三人で話しをしているとき、美麗さんが近づいてきて私に声をかけた。

「はい、もちろん」

「では、ちょっとこちらへ来てくださる?」

「は、はい……」

 何だか怖くなる。

「あの、僕は?」

 孝宏君が聞く。

「いえ、佐那さんだけにお話がございますので、すみません」

 きっぱりと言う美麗さん。

 お、怒ってないよね……。

 怖い。

「まぁまぁ、気にするなって。じゃあ、そっちでしばし二人だけで話してくれば? さぁ、孝宏は、崎山と俺と三人、男子だけでワイワイやろうぜ」

「う、うん……」

 そう言われてしまうと、孝宏君も何も言えないよね……。

「それじゃ、佐那さん、こちらへお願いします」

 何か怒られるんじゃないかと思い、びくびくしながら美麗さんの後をついていった。




 そして、裏庭の片隅にて立って話をすることに。

 私の手には、ついうっかり持ってきてしまったコップがある。

 置いてくればよかった……。

 すごく動揺してるから、無意識だったよ……。


 それにしても……何の話なんだろう。

 不安が募る。

 美麗さん……私が孝宏君とお付き合いすることになって、怒っているのかな……。

 ちらっと、離れた場所にいる孝宏君に視線を向ける。

 すると、ばっちり目が合った。

 孝宏君も心配してくれてるみたい……。


「佐那さん、今まで本当に申し訳ありませんでした」

 そう言って、深々と頭を下げる美麗さん。

 え?

 全く理由が分からなかった。

「今までの無礼な態度をお詫びいたします。ご存知かもしれませんが、私はずっと、神楽坂君のことをお慕いしておりましたので、彼と仲良くされていた佐那さんに嫉妬し、ああいう態度を取ってしまっていたのです。ですが、このたび、神楽坂君と佐那さんがお付き合いを開始され、私も御木本君とお付き合いしようかということになりましたので、ここで一つ、しっかりと謝っておきたいと思ったのです。改めまして、本当にすみませんでした」

 またしても、崎山君のと同じぐらいの深さで、お辞儀をする美麗さん。

 わざわざ謝ってもらえるなんて……。

 予想していなかったせいか、ちょっと涙ぐんでしまった。


 それに………。

 智君と美麗さんがお付き合い?

 智君の新しい恋って、まさか……。

 びっくりではあったけど、その部分には触れないでおいた。


「いえ、気にしないでくださいね。私のほうこそ、七月一日にお会いしたばかりなのに、こうして孝宏君と交際することになってしまって……。何だか、すみません」

 私も、心をこめてお辞儀をした。

「いえいえ、佐那さんは何も謝ることはありませんよ。私の険悪な態度で、さぞかし不快なご気分になられたでしょう……。お詫びの言葉もございませんわ」

「そ、そんなことないです。わざわざありがとうございます」

「佐那さんはお優しいんですのね。さすが、神楽坂君がお選びになった女性だけのことはありますわ」

 美麗さんは、晴れ晴れとした笑顔と共に、そう言ってくれた。

 こんな晴れやかな美麗さんを見たの、初めてだ。

「私にはもったいないお言葉です……」

 何だか恐縮だった。

 別に、私は美麗さんに対して、負の感情など一切なかったし。

 それでも、美麗さんは気にしてくれてたんだ……。

「おや、神楽坂君と御木本君が、心配そうに見てらっしゃいますわね。それじゃ、戻りましょうか。ご面倒をおかけいたしました。お詫びを受け入れてくださって、嬉しいです。これから、仲良くしてくださいね」

「はい! こちらこそ、これからもよろしくお願いします」

 私も自然と笑顔になり、美麗さんが差し出してくれた手を、しっかりと握った。

 今まであまりよく分からなかったけど、美麗さんもやっぱりいい人だったんだ。

 孝宏君が好きになった人なんだから、悪い人なわけないよね。

 私たちは軽やかな足取りで、みんなのもとへと戻った。




「お? 話、終わった? じゃあ、美麗ちゃん、こっちこっち。俺の隣へ」

 美麗さんに隣に座るよう促す智君。

 美麗さんは笑顔で「はい」と言うと、そこに座った。


「おかえり」

 私がそばに腰掛けると、孝宏君が声をかけてくれた。

 どんな話をしてたの、とか聞いてこないあたりに、またしても孝宏君の気遣いと思いやりを感じる。

 私は「ただいま」と言い、すぐに食べ物に手を伸ばした。

「これ、もう焼けてるよ。はい」

 野菜をお皿に入れてくれる孝宏君。

 どこまでも優しい。

「で、美麗さんと佐那さんは、いったい何のお話を?」

 崎山君は堂々と聞いてきた。

「おい、崎山。ちょっとは場の空気を読めって」

 智君が呆れたように言う。

「いえ、いいんですよ。佐那さんに、これまでの非礼をお詫びしました。佐那さんは快く許してくださった、ということで、本当にそれだけですよ」

「いえ、そんな、私は何も謝っていただくようなことをされてませんけど」

「じゃあ、もう美麗ちゃんと佐那ちゃんは友達だな」

 嬉しそうに言う智君。

 孝宏君の表情も明るくなった。


 そして、私たちは再び、おしゃべりとお食事を思う存分楽しんだ。


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