第23話 新しい窓
セレスはグレアラシルに、この書架の建物の間取りや機能等々を一通り説明し終わると、グレアラシルは早速新しい部屋に入って行った。
部屋の中ではガタゴトと音がするので、持ってきた荷物を色々配置しているのだろう。
グレアラシルは家財道具全てを持ってきたと言っていたが、見た感じはそんなにたくさん入っている様でも無かったので、そんなに部屋の中を住みやすくするのには時間がかからないだろうとセレスは思っていた。
が、結構な時間が経っても出てこないので、不安を感じたセレスはドアを叩いてグレアラシルの生存を確かめてみる事にした。
ドンドンドンドン!!
「おい!グレ!!聞こえているか?それとも居るのかいないのか?!」
そう言ってドアを開けるとそこには、まだ満月も空に上がっていないのに何故かウサ狼の姿に変幻してしまって居るグレアラシルが居た。
「!!」
ウサ狼になると喋れない?のか、ベッドの上で飛び跳ねている様子しか分からない。
一体何が原因でこんな事になってしまったのかは分からないが、とりあえず元の姿に戻ってもらうために、一度部屋のドアを閉じた。
しばらくした後、変幻が解ける時に出る音が聞こえて来たので、無事に元の姿に戻ったのだろう。
セレスは本当に戻ったのか?と変幻した理由を尋ねるために、再びドアを開けた。
「おいグレ!変幻した理由、聞かせてもらうぞ!」
バン!っと勢いよくドアを開けると、そこには全裸の男が立っていた。
「ぅわ!」
と言って身体を隠したグレアラシルだったが、セレスは平然としてグレアラシルに問う。
「良かった、元に戻って。でもなんだって満月でも無いのに変幻してたんだ?そう言う体質なのか?」
そう言われたグレアラシルは、セレスが全然恥ずかしそうにしていなくてむしろ正々堂々としているのを見て、自分は何でこんな隠している必要があるのか?と思い立ち、隠すのを止めた。
「あ、姐さん、実はどうもココ最近の疲労が蓄積してしまって、疲労で変幻してしまったんすよね~。鍛え方が足りない証拠っすね!」
と言いながら、頭をかいた。
するとセレスは、
「そんなに疲労していたんなら、どうして今朝は朝ご飯を作ったりなんだりしていたんだ?一泊の恩とか、そー言うヤツか?」
何やら少し不機嫌そうにグレアラシルに言い放つ。
グレアラシルは、このまま裸で仁王立ちの方が恥ずかしくなって、いそいそと服を着始めた。
ある程度着終わった後、ペコペコ頭を下げながら、
「いや~どうも昔まだ小さかった頃に、親の手伝いで家事全般をしていた頃を思い出してしまって、ついつい料理などしてしまった次第で~。」
と、今朝何故台所に居たのかの説明をした。
その説明に対してセレスは、昔近所(魔界の)に住んでいた子供の事を思い出す。
よく一緒に遊んでいたけどその子は、家の都合なのか何なのかで数日に1回兄弟たちとローテーションで食事を作る当番をしていると言っていたな~と。
それに近い状態だったのか?と思って納得すると、「うんうん」と言いながらグレアラシルの腕を叩いた。
「なるほどなるほど、お前は子供の頃から結構苦労人だった訳だな。」
と、一人セレスは納得していた。
その様子を見たグレアラシルは、
「ありがとーございますぅ~~!!俺の、今までの人生って結構大変だったんっすーー!!」
と言いながら号泣した。
おいおい?そんなに号泣するほど大変な人生を送って来たのか?と、少々辟易しながらもセレスは号泣するグレアラシルの腕を叩きながら、
「まぁまぁまぁ、とりあえずはココで暮らして、悠々自適生活ってのを味わって行くと良いと思うぞ?」
と、改めで慰めた。
確かにこの書架での暮らしは、そんなに稼いでいなくてよく暮らせるな?と言われる位には貧相そうに見えるのだが、手持ちの魔法の知識や技術によって生活水準は、この裏路地のある商店街の地域以外の地域よりはかなり高いと言えるだろう。
実は、この書架でやってみた事は、同じ通りに面する店や家にも試してもらっている所為で、この辺り一帯の地域だけはセレスの作った魔道具や仕掛けによって、生活がかなり便利になっている事だけは間違い無かった。
ソラ・ルデ・ビアスの書架がただの書架や貸本業や古本屋と言う訳でも無く『魔道具屋』と影ながら言われているのは、セレスが生活を楽にしようと、いや楽に生活しようと思って創り出した魔道具を地域の人に試してもらって、それが結構な実績になっている事から、その様になって行ったのだった。
「ま、アタシは基本的に楽に生活したいからね、キツい生活をむざむざ送る様な事は断じて無いから、グレも自由気ままに過ごして良いんだぞ?」
と、気まま生活をアピールした。
すると、グレアラシルが何やら質問したそうな目をしてきたので、セレスはその言葉を促した。
「何か質問したそうな目だが?」
「姐さん、本当に至れり尽くせりで非常にありがたいっす。この恩を一生かけて返そうと思っているんすが、その前に、あの部屋の窓の外の景色、メルヴィレッジじゃない様な気がするんですが・・・・」
と、グレアラシルが言って来た。
はて?
セレスは頭を捻って思い出そうとするが、あの窓はとりあえずこの書架の屋上に付いている窓と言う設定にしたはずだが・・・・・。
と逡巡していても仕方が無いので、とりあえずその窓の外を確認する。
部屋に入ってその作った窓を開けて外の風景を確認したセレスは、急に大きな声を上げた。
「ああああ!!しまった!!」
確認した外の風景は、本来なら書架の隣にあるアパートメントの建物が見えるはずなのだが、想像していたその景色とは全く違った、想像を絶する?風景の中に書架がある?事になっていたので、セレスは久しぶりにかなり驚いた。
どうやらセレスは、このグレアラシルの部屋に付けた窓の外の景色を、魔界にある書架(本店)の屋上の窓に結びつけてしまっていた様だった。
魔界の書架の屋上の外の世界では、空はピンク色で白い雲が浮いていて、空には猫の頭をした鳥が飛んでいる。窓の近くには、頭は鳥だが身体が獣の姿をした鳥?が闊歩していた。
空間を捻じ曲げて作った部屋なので、魔界への扉をくぐらずに魔界に通じる窓を作ってしまった様だった。
「すまん!グレ!!その窓魔界に通じる窓だった!!今から『この書架』の屋上の窓に繋げるから!!」
と言ってセレスは、今度こそ窓をちゃんとしたこの世界の空間に繋げる突貫工事?の魔法をかけはじめた。
魔法は、何種類もの言葉の組み合わせで構成されていて、まるで言葉で編み物をする様な感じ?にグレアラシルには見えた。
セレスは焦って直した割にはよく出来た!と思いながら、今度こそ書架の屋上に繋がっている窓を改めて開けてみる。すると、さっきの屋上よりもマシな位置に窓を固定する事が出来た様で、普通に窓の外の景色の様に見える窓が完成した。
「・・・・はぁ~~~。これで、安心安全な普通のメルヴィレッジの下町の裏路地と、隣のアパートの風景が見えるはずだ・・・・」
と言って、グレアラシルのベッドに倒れ込んだ。
「姐さん?!」
グレアラシルが呼んだが、魔法の使い過ぎの疲労なのかセレスは既に寝息を立てていた。
グレアラシルが揺すっても全然起きないので、しばらくそのままにしておくことにした。
「姐さん、ありがとうございます。本当に何とお礼を言ったらいいか分かりません。俺、これからこの書架の、姐さんの立派な婿として頑張りまっす!!」
グレアラシルは、新しく始まるこの書架での暮らしをより良いモノにして行こうと、強く決意するのだった。




