第七話:新たな刺客と、にわか男子たちの無謀な挑戦
美羽の爆弾発言から数日。俺の周りは静かになるどころか、新たな面倒事を引き寄せていた。
昼休み、俺がいつものように購買のパンを片手に文庫本を読んでいると、影が差した。
見上げると、そこにはクラスの体育会系グループのリーダー・木村をはじめとする男子三人が、腕を組んで不機嫌そうに私を見下ろしていた。
「おい、佐藤。ちょっと面貸せよ」
木村の態度は明らかにトゲがあった。
彼らはあのバーベキュー大会で美羽たちと同じ班だった男子たちだ。美羽に良いところを見せようと躍起になり、結果として一緒に「肉の消しゴム」を食べる羽目になった張本人たちである。
「何かな、木村くん。もうすぐ予鈴が鳴るんだけど」
「シラ切ってんじゃねえよ。お前、美羽に変な吹き込み方しただろ? 『アウトドアの真髄』だのなんだのって。挙句の果てに他校の女子まで連れ回してマウント取ってさ。男としてセコいんだよ」
木村の取り巻きの男子も「そうそう、陰キャのくせに調子乗んなよな」と野次を飛ばす。
要するに、美羽が自分たちを差し置いて私にベタ惚れ(技術的に)しているのが、プライド高き彼らには我慢ならないのだろう。絵に描いたような嫉妬だった。
「吹き込んではいないよ。新井さんが自分の無知を自覚して、僕に教えを請うてきた。それだけだ」
「ハッ、何が教えを請うてきただ! たかが火起こしごときで職人ぶってんじゃねえよ!」
木村は机をバンと叩いた。
「あんなの着火剤の量が足りなかっただけだろ。俺たちだって、本気出せばお前以上のBBQなんて余裕でできんだよ。……おい、今週末、もう一回同じキャンプ場に来い」
「……断る。なぜ俺がお前らの遊びに付き合わなければならないんだ」
「ビビってんのか? お前が本当に『本物』か、俺たちが直々に格付けしてやるよ。もし俺たちの火起こしの方が早くて、美味い肉が焼けたら、二度と美羽の前で師匠面するな。大人しく陰キャらしく隅っこで芋でも焼いてろ!」
あまりの身勝手な言い分に呆れていると、背後から冷たい声が響いた。
「——ちょっと。ウチの佐藤師匠に、随分な物言いじゃん」
いつの間にか戻ってきていた美羽だった。
彼女は木村たちの間に割って入ると、腰に手を当てて鋭い視線を向けた。
「木村、あんたたちマジでダサい。先週、着火剤ドバドバ撒いてお肉を薬品臭くしたの、もう忘れたわけ? 佐藤くんの技術は、あんたたちみたいな『にわか』が口で勝てるレベルじゃないんだけど」
「美羽、お前あいつに騙されてんだよ! 炭に火を点けるなんて誰でもできる!」
木村は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「……じゃあ、受けて立てばいいんじゃない。佐藤」
不意に、教室の入り口からもう一つ、凛とした声が響いた。
全員が振り返ると、そこにはなぜか我が校の制服を着て、書類を手にした加藤遥が立っていた。他校の生徒のはずだが、どうやら生徒会交流会の資料を届けに来たらしい。
「加藤さん!? なんでここに……」美羽が驚きの声を上げる。
遥はクラスの騒ぎなど一瞥もせず、私の方だけを見て言った。
「ちょうど週末、同じキャンプ場に行く予定。佐藤、この口だけのアマチュアたちを、あなたの『本物の火入れ』で完全に黙らせるいい機会。新井の成長を見せる舞台としても、悪くない」
「遥さんまで……!」美羽の目が輝く。
私はため息をついた。
美羽だけでなく、遥まで参戦するとなれば、もう逃げ道はない。何より、ここまで『火起こし』を舐め腐っている男子たちには、一度自然の厳しさと本物の技術の差を骨の髄まで教えてやる必要があるかもしれない。
「わかった。そこまで言うなら今週末、受けて立つよ。ただし、泣き言はなしだ」
「フン、言ってろ! 泣きを見るのはお前の方だ!」
木村たちは勝ち誇ったように笑い、席へと戻っていった。
こうして、地味なソロキャンパー佐藤と、プライドだけは一丁前の男子グループによる、週末の「リベンジ火起こしタイマン」が決定したのだった。
(第七話 終わり)




