第六話:週明けの爆弾発言と、格付け完了の教室
あの奇跡のような美味さに満ちた週末が明け、月曜日。
学校の教室は、朝から独特の熱気に包まれていた。
先週、佐藤に冷たくあしらわれて撃沈したはずの新井美羽が、どんな顔をして登校してくるのか。野次馬根性あふれるクラスメイトたちが、遠巻きに美羽の席を伺っている。
当の美羽はというと、いつも通り取り巻きの女子たちに囲まれていた。
しかし、その表情には先週までのどんよりとした陰りはない。それどころか、どこかすっきりとした、大人びた余裕すら感じさせる笑顔を浮かべていた。
「ねえねえ美羽、週末どうしたの? 結局あのあと、別の男の子たちとBBQリベンジしたんでしょ?」
取り巻きの女子の一人が、探るように尋ねた。
「あー、ううん。BBQっていうか、ガチのキャンプね」
美羽はネイルの施された指先で、スマホの画面をタップしながらあっけらかんと言った。
「え、誰と行ったの? まさか一人?」
「違う違う。ウチ、週末に佐藤くんと、隣のクラスの加藤遥さんと一緒にキャンプ行ってきたんだよね」
「は、はあぁっ!?!?」「佐藤って、あの佐藤!?」
美羽の口から飛び出した爆弾発言に、取り巻きの女子だけでなく、聞き耳を立てていたクラスの男子たちまでもが文字通りひっくり返った。教室中が一瞬でハチの巣をつついたような大騒ぎになる。
「ちょっと美羽! 佐藤くんに先週あんな冷たく振られたのに!? っていうか、その加藤さんって誰よ!」
「加藤さんはねー、ウチのライバル! 超カッコよくて、ナイフで木を削って一瞬で火ぃ点けちゃうようなプロ級のソロキャンパー。ウチ、加藤さんの前で炭の組み方めちゃくちゃダメ出しされてさー、マジ凹んだわ。でもね」
美羽はスマホの画面をクラスメイトたちに見せた。
そこには、赤々と美しく熾った炭火の上で、見たこともないほどジューシーに焼き上がった分厚いトマホークポークと、綺麗にロゼ色に仕上がった鹿肉のステーキの写真が写っていた。
「これ、佐藤くんが焼いてくれたの。マジで神。ウチらが先週ダイナマイト大失敗したお肉とは次元が違った。加藤さんの持ってきてくれた鹿肉も、柔らかくて一瞬で溶けたし。……ウチ、自分の無知がマジで恥ずかしくなった。だから今、佐藤くんに弟子入りして一から火起こし勉強してんの!」
「で、弟子入り……っ!?」
クラスメイトたちは完全に言葉を失っていた。
あのカーストトップのギャルが、他校の美少女キャンパーと佐藤を巡って(?)競い合い、しかも佐藤の圧倒的な技術の前にひれ伏して「弟子」を自称している。
先週まで「キモい」「マウント取ろうとして必死」と佐藤を小馬鹿にしていた女子たちは、自分たちがどれほど愚かで、どれほど『本物』の価値を分かっていなかったかを突きつけられ、顔を真っ赤にして黙り込むしかなかった。
その頃、俺はいつも通り教室の隅の席で、文庫本を開いたまま窓の外を眺めていた。
美羽の発言のせいで、クラスの男子たちから「お前、新井美羽と他校の美少女を両手に花でキャンプ行ったってマジかよ……!」という、羨望と戦慄が混ざったような視線が刺さる。
(やれやれ、静かな学園生活が遠のいていくな……)
俺が内心でため息をついていると、美羽がトコトコと俺の席まで歩いてきた。
その手には、可愛らしいラッピングが施された小さなタッパーが握られている。
「はい、佐藤師匠! これ、ウチが昨日家で練習して作った『特製スモークチーズ』。燻製シート使って作ってみたから、味見して! 足手まといって言われないように、ウチ、平日の放課後も自主練するから!」
美羽はそう言って、イタズラっぽく微笑んだ。
もうそこには、他人に依存して美味しいところだけを掠め取ろうとしていた、かつての傲慢なギャルの姿はなかった。
(第六話 終わり)




