第四話:熾り狂う嫉妬の炎と、孤高のクーデレ女子
「——新井、炭の隙間が狭すぎる。それでは空気が通らない。上昇気流を意識して、煙突を作るように立体的に組めと言ったはずだ」
「う、うぅ……こう? これならどう、佐藤くん……っ?」
週末、俺は美羽を連れて近郊のキャンプ場へとやってきていた。
マウンテンパーカーの袖をまくり、顔を煤で黒くしながら必死に炭と格闘する美羽。ネイルの施された指先は少し汚れているが、彼女はそれを気にする素振りも見せない。本気で俺の技術を盗もうとしていた。
「うん、その角度ならいい。次は——」
私が次の指示を出そうとした、その時だった。
「……あれ。佐藤、じゃない」
背後から、鈴の音のように涼やかで、しかし感情の起伏が薄い声が響いた。
振り返ると、そこには俺と同じ『ワイルド・ルーツ』の常連であり、このキャンプ場の主とも言えるソロキャン仲間——加藤 遥が立っていた。
遥は黒のテクニカルジャケットに身を包み、腰には使い込まれたブッシュクラフトナイフを下げている。無駄のない洗練された佇まいは、まさに『プロ級のソロキャンパー』そのものだ。
「遥か。奇遇だな、お前も今週末はここだったのか」
「うん。……ところで、その後ろの『初心者』は誰? 佐藤が誰かを連れてくるなんて珍しい」
遥の冷徹な視線が美羽を射抜く。
美羽はトングを握りしめたまま立ち上がり、本能的に敵を察知したように身構えた。
「ウチは新井美羽! 佐藤くんの……あ、ううん。佐藤師匠の『第一お弟子さん』だけど!? あんたこそ誰よ、佐藤くんと仲良さそうに話して……!」
美羽の言葉に、遥はピクリとも表情を変えず、ただ淡々と口を開いた。
「……弟子。佐藤、いつからそんなおままごとの付き合いを始めたの。その子、炭の組み方もなってないし、さっきから着火の基本すら怪しい。道具だけは良いものを使っているみたいだけど、ただの『形から入ったにわか』にしか見えない」
「に、にわか……っ!? ウチは本気で勉強しに来てんの!」
「本気なら、口を動かす前に手を動かすべき。……佐藤、そいつの指導で行き詰まってるなら、私が手本を見せてあげようか?」
そう言うと、遥は懐から手慣れた動作でマイナイフと自作のフェザースティック(火がつきやすいように薄く削った薪)を取り出した。そして、金属片をナイフの背で激しく擦り、一瞬で鮮やかな火花を散らして見せたのだ。
「……これが『本物』の火起こし。おままごとがしたいなら、学校の家庭科室でやればいい」
冷酷なまでに完璧なマウンティング。
美羽はあまりの技術の差と、遥が放つ圧倒的な「佐藤くんをよく知る熟練者」のオーラに、悔しさと嫉妬で顔を真っ赤に染めた。
「な、なによそれ……っ! ウチだって、ウチだって佐藤くんに教えてもらえば、それくらいすぐできるようになるんだから……っ!」
美羽の瞳に、激しい嫉妬の炎が灯る。それは奇しくも、彼女がずっと点けられずにいた備長炭よりも、遥かに熱く赤々と燃え上がっていた。
「……別に、私は張り合うつもりはない。佐藤、後で私のエリアに来て。良い鹿肉が手に入ったから、お裾分けする」
遥はそう言い残すと、パタパタと静かに自分のテントへと戻っていった。
「ちょっと、佐藤くん! あいつ何なの!? ウチ、絶対に負けたくない! お願い、今すぐウチに世界一カッコいい火の点け方教えて!!」
美羽は私の腕を掴み、涙目で激しく揺さぶってくる。
図らずも現れた最強のライバルによって、ギャルの野生の対抗心に、完全に火がついてしまったようだった。
(第四話 終わり)




