↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/22

第四話:熾り狂う嫉妬の炎と、孤高のクーデレ女子

「——新井、炭の隙間が狭すぎる。それでは空気が通らない。上昇気流を意識して、煙突を作るように立体的に組めと言ったはずだ」

「う、うぅ……こう? これならどう、佐藤くん……っ?」

週末、俺は美羽を連れて近郊のキャンプ場へとやってきていた。

マウンテンパーカーの袖をまくり、顔を煤で黒くしながら必死に炭と格闘する美羽。ネイルの施された指先は少し汚れているが、彼女はそれを気にする素振りも見せない。本気で俺の技術を盗もうとしていた。

「うん、その角度ならいい。次は——」

私が次の指示を出そうとした、その時だった。

「……あれ。佐藤、じゃない」

背後から、鈴の音のように涼やかで、しかし感情の起伏が薄い声が響いた。

振り返ると、そこには俺と同じ『ワイルド・ルーツ』の常連であり、このキャンプ場の主とも言えるソロキャン仲間——加藤(かとう) 遥(はるか)が立っていた。

遥は黒のテクニカルジャケットに身を包み、腰には使い込まれたブッシュクラフトナイフを下げている。無駄のない洗練された佇まいは、まさに『プロ級のソロキャンパー』そのものだ。

「遥か。奇遇だな、お前も今週末はここだったのか」

「うん。……ところで、その後ろの『初心者』は誰? 佐藤が誰かを連れてくるなんて珍しい」

遥の冷徹な視線が美羽を射抜く。

美羽はトングを握りしめたまま立ち上がり、本能的に敵を察知したように身構えた。

「ウチは新井美羽! 佐藤くんの……あ、ううん。佐藤師匠の『第一お弟子さん』だけど!? あんたこそ誰よ、佐藤くんと仲良さそうに話して……!」

美羽の言葉に、遥はピクリとも表情を変えず、ただ淡々と口を開いた。

「……弟子。佐藤、いつからそんなおままごとの付き合いを始めたの。その子、炭の組み方もなってないし、さっきから着火の基本すら怪しい。道具だけは良いものを使っているみたいだけど、ただの『形から入ったにわか』にしか見えない」

「に、にわか……っ!? ウチは本気で勉強しに来てんの!」

「本気なら、口を動かす前に手を動かすべき。……佐藤、そいつの指導で行き詰まってるなら、私が手本を見せてあげようか?」

そう言うと、遥は懐から手慣れた動作でマイナイフと自作のフェザースティック(火がつきやすいように薄く削った薪)を取り出した。そして、金属片をナイフの背で激しく擦り、一瞬で鮮やかな火花を散らして見せたのだ。

「……これが『本物』の火起こし。おままごとがしたいなら、学校の家庭科室でやればいい」

冷酷なまでに完璧なマウンティング。

美羽はあまりの技術の差と、遥が放つ圧倒的な「佐藤くんをよく知る熟練者」のオーラに、悔しさと嫉妬で顔を真っ赤に染めた。

「な、なによそれ……っ! ウチだって、ウチだって佐藤くんに教えてもらえば、それくらいすぐできるようになるんだから……っ!」

美羽の瞳に、激しい嫉妬の炎が灯る。それは奇しくも、彼女がずっと点けられずにいた備長炭よりも、遥かに熱く赤々と燃え上がっていた。

「……別に、私は張り合うつもりはない。佐藤、後で私のエリアに来て。良い鹿肉が手に入ったから、お裾分けする」

遥はそう言い残すと、パタパタと静かに自分のテントへと戻っていった。

「ちょっと、佐藤くん! あいつ何なの!? ウチ、絶対に負けたくない! お願い、今すぐウチに世界一カッコいい火の点け方教えて!!」

美羽は私の腕を掴み、涙目で激しく揺さぶってくる。

図らずも現れた最強のライバルによって、ギャルの野生の対抗心に、完全に火がついてしまったようだった。

(第四話 終わり)








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。