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魔王と相討って10年。転生した元英雄の少年は最強女騎士を曇らせる〜俺の死で心が壊れた彼女と再会した結果、めちゃくちゃ溺愛してくるようになった〜  作者: 甥の子
死に戻り3日目

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決闘④

お読みいただきありがとうございます

 床を蹴り、ウェルズリーが『天靴』による突撃を敢行。

『魔封環』によって魔力を制限されていた時とは比べものにならない超スピード。


 時間が加速する。

 視界が膨張する。

 木剣が到達するまで秒もかからぬ速度だったが、ソラの双眸はしっかりとウェルズリーを捉えていた。


 やはり速度が上がった程度では通じない。

 歴然たる技量の差があることは嫌というほど叩き込まれた。


 事ここに至ってウェルズリーは目の前の少年が己より遥か格上であると認識していた。

 格上に一太刀浴びせるには、相手の虚をつくしかない。


 ウェルズリーはソラの手前5メートル地点で地面を強く踏みしめた。

 体は少年の頭上を飛び越え、慣性の法則に従ってソラの後方へと流れる。

 そのままウェルズリーは体を回転させ、着地。

 ソラの背中へ上段からの斬り下ろしを放つ。

 死角からの奇襲。

 全身の力を余すことなく乗せた高速の一撃は、しかしあっさりと防がれた。


「―――ッ!?」


 木剣が少年に届く寸前。

 鍔部分に少年の切っ先が突き立てられ、静止させられたのだ。


「ちぃ!」


 ウェルズリーの口から舌打ちが漏れた。


 信じがたい精妙さ。

 針の穴を通すが如く、渾身の振り下ろしを最小の一点を穿つことで止めてみせた。

 そんな離れ業をいとも容易くやってのける練達の腕前。

 一体どれだけの研鑽を積めば、これほどの境地に到達するというのか。


(まだだ!)


 しかし、ウェルズリーの狙いはここから。


「お?」


 木剣を引き戻すと、そこから手首のスナップでソラの木剣を絡めとった。

 体重を乗せ、木剣ごと少年の体をその場に押さえつける。


「――烏扇の華に誓う」


 唱えるのは、血族伝来の詠唱。


 ウェルズリーの肉体を覆う橙黄色の魔力が密度を増した。

 より強く、より深く能力を引き出すべく、ウェルズリーの精神は己の内界へと埋没する。


「裏切ることなかれ。欺くことなかれ。信義と誇り。忠節と希望。我は聖なる光に傅く者。我は良き騎士道を歩む者なり」


 全身を駆け巡る魔力はウェルズリーの魔力回路をオーバーヒート寸前にまで追い込む。

 視界が赤く染まる。

 悲鳴を上げる痛覚を噛み殺しながら、ウェルズリーはさらなる詠唱を紡ぐ。


「悪を討つために。昏き闇を祓うために。不朽の誉れにこの身を捧ぐ」


 逆巻く烈風。

 見守るミリアリアたちでさえ目を開けていられない風圧の中、喉も張り裂けよと詠唱を結ぶ。


「あらゆる苦難を斬り伏せ、我が刃は天剣へと至らん―――!!」


 加速する魔力回路。

 限界を超えた出力に肉体が耐えきれず、皮膚が裂け血が溢れた。


 構うものかと、ウェルズリーは少年を押し潰さんと全魔力を注ぎ込む。


「おおっ!?」


 木剣を通して伝わる重圧にソラが片膝をついた。

 衝撃の余波が溢れ、足元の石床に巨大な亀裂を刻む。


 傾きつつある勝敗の天秤。

 地に押し込まれる少年の木剣と体。


 決着まであと少し。

 そのわずかな時間がウェルズリーはもどかしく――愉しかった。


 すべての魔力を出し尽くすまであと10秒か、20秒か。

 ここで決めきれなければもうあとがないというのに、口元は自然と吊り上がった。


 思えば、これほど泥臭く、必死になるなんて人生で初めてだった。

 決闘前の自分であれば、きっと指を差して嘲笑ったことだろう。


 けれど、目の前の少年は決してウェルズリーを嘲弄しない。

 ただ真摯に向けられた想いを受け止めてくれている。


「――――――」


 ああ、これが英雄か、と。

 ウェルズリーは心の底から納得した。


 技量や力だけの話ではない。


 誰かの想いを、願いを、祈りを、憎悪を、恨みを。

 すべてを受け止め、前へと進む。

 それが己の重荷になると知りながら、それでも決して投げ棄てたりはしない。


 だからこそ、この少年は英雄だ。

 だからこそ、『勝ちたい』という感情がひしひしとこみ上げてくる。


 激情が、怒涛の如く迸った。


「あぁぁぁああああああッ!!!」


 倒れろ。倒れろ。倒れろ。

 心の中で強く念じながら、木剣を押し込む。


 ピシリッ、と少年の木剣に亀裂が走った。

 魔力を纏わせているとはいえ、この重圧の中でついに限界が来たのだ。


 勝利への確信。

 その直後、


「――ははっ」


 ウェルズリーは少年の愉しげな声を聞いた。


 不敵な笑み。

 獰猛に燃え上がる黒瞳。


 確信が、覆る。



『――セカイはヒカリに満ちている』



 練武場に響く新たな詠唱。

 その声は、この場に集ったすべての者に届いた。


 ――『天声』。


 ウェルズリーのそれとは格が違う。

 己の内界に留まらず、世界の外側にも届き得る――『力ある言葉』。


 変化は劇的。

 絡み合う木剣が地面に触れる寸前でピタリと止まった。


 ソラが纏う透明な魔力に微かな光が滲む。

 光は水に落ちた絵具のように一気に広がり、燦然と輝きを放った。


 驚愕。動揺。そして――畏敬。

 その輝きに、対峙するウェルズリーさえもが目を奪われた。


 黄金の色彩。

 黄属性魔力の最上位貴種。

 人類史にその名を刻んだ伝説の英雄と同じ色彩属性。


「う、お、お――ッ!?」


 押し上げられる木剣。


 脂汗が噴き出す。

 止まらない。

 押し留めることが叶わない。

 下から湧き上がる膨大な圧力に体が弾け飛びそうだった。


「踏ん張れよ、アラン=ローヌ=ウェルズリー」


 柄を握る両腕に力を籠めて、ソラはウェルズリーを見据える。

 踏み込んだ少年の右足が石床を破砕。

 黄金の光が収束。

 瞬間、莫大な衝撃波がウェルズリーを襲った。


「――――――ッ!!」


 叫ぶ間もなくウェルズリーの体は藁人形のように宙を舞い、練武場の観覧席へと激突する。

 どよめく場内。

 砕け散る木材。

 ウェルズリーは瓦礫の山に埋もれ、倒れ伏した。


「がはっ……!」


 血の塊がポンプみたいに口から吐き出された。

 肺腑が捩れ、神経が悲鳴を上げる。

 呼吸さえままならず、酸素不足によって脳が揺れている。


(……くそ、ここまでか)


 ウェルズリーはぼんやりとそう思った。


 木剣は柄だけを残し、粉々に砕け散っていた。

 魔力も体力も底をついた。

 全身全霊で挑みかかり、それを正面から受け止められ、打ち負かされた。


 文句のつけようのない幕引きだった。

 強者に相応しい、堂々たる勝ち方だった。


「………ああ」


 対して、自分はどうだっただろうか?

 本質を見極めようともせず、平民という理由だけで相手を侮り、愚弄し、惨敗。


 どうしようもないこの結末は、きっと生涯にわたる恥として自分の中に残り続けるだろう。


 それでも、と。

 朦朧とする意識でウェルズリーは前を見た。


 壇上ではまだ、少年が残心した状態で自分を見ている。

 ウェルズリーが立ち上がるのを待っている。


 ならば、倒れたままではいられない。


 今でも平民を見下す気持ちはあるし、もう充分ではないかと妥協しようとする弱い自分だっている。

 けど、意識の一片でもあるのなら抗おう。

 自分に期待してくれるこの少年の前でくらいは最後まで意地を張ってみせよう。


 奥歯を砕けんばかりに食いしばり、ウェルズリーは瓦礫を掴んだ。

 砕けた木剣を投げ捨て、震える脚に力を込める。

 落ちそうになる意識を死に物狂いで押し留め、ゆっくりと体勢を整えた。

 握り潰した指先から血が滴る。


 だが―――


「……う、ぉぉぉぉ――!!」


 ウェルズリーは決死の思いで立ち上がった。

 体は電流を浴びたように痺れている。

 視界は定まらず、今にも倒れ込みそうだった。


 遠くの少年がそれを眺めている。


 その双眸が微かに細まり、


「――見事」


 と、呟いた。


 実際に聞こえたわけではない。

 もしかしたら自分の願望が生んだ幻聴なのかもしれない。


 けれど、ウェルズリーの耳には確かにそう聞こえた。


 瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れたように身体が崩れる。

 がくりと膝をつき、ウェルズリーは前のめりに倒れた。


「――勝負あり! 勝者ソラ!!」


 ミリアリアの宣言

 場内は狂乱。

 それらを受けながら、意識が暗転する。


 その数秒後に少年が全身から血を噴き出し倒れたとウェルズリーが聞いたのは、医務室のベッドの上でのことだった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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