森の戦い②
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―――直後。
魔弓使いの前方に百を超える剣が一瞬にして具現化した。
剣の一本一本には『中位』級の魔獣を一撃で屠れるだけの魔力が籠められている。
整然と隊列を組むその様は正しく『群』ではなく『軍』。
アウローラの号令の下、統率された剣軍たちは一斉に魔弓使いへと襲い掛かった。
「この距離では中てられないと判断し、物量による面制圧に切り替えたか」
元よりそれこそが『第九の剣軍』の基本戦術。
しかし、どれだけの物量であろうと、距離が開けば開くほど射角は当然限定されていく。
彼我の距離は直線にしておよそ4km。
そして、『第九の剣軍』の展開範囲は本体である短剣から200メートル強。
この広大な森の中、面で覆うにはあまりにも遠く、狭い。
―――故に、迎撃は容易い。
魔弓使いは膨大な魔力が圧縮された矢を淀みなく射放つ。
放たれた矢はまさに流星の如く。
深緑の軌跡を残しながら疾る魔力矢は途中で枝分かれし、それぞれが百の剣軍を正確に射抜いていく。
―――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォッッ!!!!!
盛大な爆発音が『魔の森』に連続して轟く。
閃光と粉塵によって視界は不良。
しかし、魔弓使いの双眸は爆発に紛れ、なおも前進する紅い影を捉えていた。
(……流石に正面からは向かってこないか)
アウローラは射線から逃れるように、斜め前方へと走り出している。
加えて、二度目の雷鳴が響いた。
先ほどと同数の剣軍が再度展開される。
(円状に走りながら剣軍を展開し、包囲網を作る気か……?)
ならば包囲網が完成する前に潰すまでのこと。
いかに速くとも、アウローラ自身の居場所は彼女自身が常に教えてくれる。
展開の起点となる紅い雷の発生源。
アウローラは必ずそこにいる―――!
「さぁ、ギアを上げるぞ。躱せるものなら躱してみせろ」
弓弦を引く。
膨大な緑色魔力が収束し、放たれる。
分かたれた矢が雨あられとアウローラへと襲い掛かった。
『――――――ッ!!』
剣軍が次々と爆ぜ、砕けていく。
魔弓使いは攻撃の手を緩めない。
一射だけでも『第九の剣軍』数十本相当の魔力矢をさらに間断なく射ち続けていく。
まるで隕石が降り注ぐかのような破壊の嵐。
砲撃は森そのものを消し飛ばさんばかりの勢いで徐々に徐々に激しさを増していく。
しかし、アウローラの疾走はそれでもなお止まらない。
吹き荒ぶ爆風の中をアウローラは右へ左へと縫うように駆け抜け、迫る無数の凶星を紙一重のところで躱し続けていく。
だが―――
『――――――、チッ!』
流星の一つがアウローラの進路上にあった樹木の一本を撃ち据えた。
根本を大きく抉られ、樹齢数百年を誇る巨木がメキメキと傾き、アウローラの眼前へと立ち塞がる。
迂回すれば袋小路。
止まれば砲撃の弾幕。
刹那の一瞬で判断したアウローラは速度を緩めるどころか、アクセルを思いっきり踏み込んだ。
凄烈な炸裂音と共に雷光が爆ぜる。
一筋の閃光と化したアウローラは倒れる巨木を一気に駆け上った。
その様は、物体を高速で射出するカタパルトに似ていた。
紅い稲妻を纏ったアウローラの肉体は巨木を発射台にして加速、魔弓使い目掛けて空中へと飛び出した。
「――間抜け。いい的だ」
はっ、と魔弓使いが失笑した。
宙を舞うアウローラの肢体。
魔弓使いまでの距離は目算でまだ1km以上離れている。
決死の特攻も、笑ってしまうぐらいに届かない。
好機に逸る心を冷静に御し切り、魔弓使いは次弾を番える。
空中での回避など不可能。
最高点に到達した後は失速し、落ちるだけ。
空の上では身動き一つさえ、碌に取ることも出来ない。
「死ね」
必中の確信。
しかし、それも一瞬。
魔弓使いが次の矢を射放つ前に、アウローラは左手に掴んだ『何か』を力任せにぶん投げてきた。
「悪足掻き……いや、あの女―――ッ!」
あまりにも非人道的な光景に、魔弓使いは目を剥いた。
投擲された『何か』は首のない死体だった。
アウローラを襲撃した暗部たちの死体。
その内の一体をアウローラは攻撃を躱しながら回収し、そのまま魔弓使いに向けて投げつけてきたのだ。
「外道が……ッ!」
飛距離と速度からして回避そのものは容易い……が、躱せば隙が生じる。
魔弓使いは弓を構え直し、死体に向けてやむなく魔力矢を放った。
爆散する死体。
魔弓使いの前方で赤黒い花火が咲いて散る。
そして、すぐさま訪れる二度目の衝撃。
血飛沫を斬り裂きながら数十もの剣刃が迫ってきた。
「ちっ!」
迎撃は、間に合わない。
魔弓使いは弾けるように真横へ跳んだ。
足場を確認する余裕などない。
ほんの一瞬前まで魔弓使いがいた丘が粉々に吹き飛ばされる。
けれど、その光景を一瞥する間もなく、魔弓使いは今度こそ驚愕に意識を奪われた。
魔弓使いの眼前にはアウローラが剣を振りかぶった状態で肉薄していたのだ。
「―――なっ!?」
いつの間に接近されていたのか。
死体をブラインドにした剣軍による攻撃。
あれでアウローラから目を離してしまったのは事実だが、それでもまだ1km以上は離れていたはず。
ましてや、足場の無い空中でどうやってここまで辿り着いたというのか?
(この女……ッ、具現化した剣を足場に―――!?)
死体花火は魔弓使いの死角を作った。
その隙にアウローラはこちらへ向かうルート上に複数の剣を展開。
標的に向かって飛ばすことが出来るのならば、その場に留まらせることも当然可能。
アウローラはそれを利用した。
空中に浮かぶ『第九の剣軍』を足場とすることで、魔弓使いとの距離を詰めてきたのである。
「くっ――!!」
寸でのところで斬撃を魔弓で受け止める。
甲高い音を響かせながら、魔弓使いの身体が地上へと叩き落された。
地面に激突する寸前、魔弓使いは態勢を立て直し、水飛沫を上げながら着地する。
落ちたのは川辺だった。
轟々と水流が荒れ狂う渓谷の中流。
魔弓使いが落ちた場所はくるぶしが浸る程度の浅瀬だった。
そこへ―――
「――こんにちは。どこの誰か知らないけど、随分舐めた真似をしてくれたわね」
響く声は背後から。
魔弓使いは己の未熟に忸怩たる思いを抱きながら振り返る。
10メートル程先の川岸。
そこに、アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムが真紅の瞳を爛々と輝かせ、立っていた。
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