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魔王と相討って10年。転生した元英雄の少年は最強女騎士を曇らせる〜俺の死で心が壊れた彼女と再会した結果、めちゃくちゃ溺愛してくるようになった〜  作者: 甥の子
死に戻り3日目

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侮辱してくれるなよ

お読みいただきありがとうございます

「………はあ?」


 まったく面白くない冗談を聞いたとばかりにアウローラ様が声を上げます。

 呆れたような、苛立ったようなその視線をヴァイルシュタイン卿は静かに見つめ返し、


「聞こえなかったかね? 君を餌にラルクスの壁外へ敵勢力を誘い出し、一掃する。これが最も効率的かつ確実な方法だ」


 繰り返す彼の言葉にアウローラ様は、はっ、と鼻で笑いましたが、一考の余地はあると思ったのか、セリア様が割って入りました。


「だが、ヴァイルシュタイン卿。アウローラを囮にしたとして、それに連中が食いつかなければ意味はないぞ。見込みはあるのか?」


「今回の襲撃犯、あるいは今もこの街で息を潜めている者たち。彼らが元からラルクスに潜伏していたするなら、いささかその数が多すぎる。恐らく敵は最近になって外部からこの街に侵入してきたのだろう。もちろん侵入を手引きした者はいるのだろうが」


「そうだな。侵入のタイミングはアウローラが結界を壊した時だろう。この街は常に結界に覆われ、通行門には衛兵が常駐している。誰にも気づかれずに侵入するとしたらそこしかない」


「結界が破壊されたのは彼らにとっても突発的な偶然だ。そんな行き当たりばったりの侵入であれば満足な隠れ家も用意できていないだろう。結界が修復され、再展開されれば街からの脱出も当然難しくなる。彼らもその前に決着をつけ、街を去りたいと考えてるはず。敵の目標であるエヴァーフレイムを餌にすれば街の外への誘引は充分可能だろう」


「――――――」


 セリア様が腕を組んで黙考します。

 ヴァイルシュタイン卿の提案を吟味しているのでしょう。


 私の目にも現実的な策ではあると思いました。

 少なくとも騎士団総動員での捜索よりも市民へのリスクは低い。


 ですが、それは囮であり餌でもあるアウローラ様の危険を全く考慮していない作戦です。


 私はチラリとアウローラ様に目を向けました。

 彼女はじっと半目をヴァイルシュタイン卿に向けて、


「あのさ、一応訊くけど。貴方、私がそんな面倒なことをすると思うの?」


「逆に訊くが、君は自分に拒否権があると思っているのか? この騒動の原因は君にある。結界を壊したことだけを言っているのではない。そもそもの話――君(・)が(・)聖(・)剣(・)を(・)継(・)承(・)し(・)て(・)い(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、こ(・)ん(・)な(・)事(・)態(・)に(・)は(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。違うかね?」


「……そうね」


 アウローラ様はあっさりとヴァイルシュタイン卿の言葉を認め、


「貴方の言い分は正しいわ。全ての元凶は私にある。私が10年前、兄様を護れてさえいればこんな事にはなっていなかった。だから貴方も、罪人の私はさっさと死ぬべきだとそう言いたいのかしら?」


「聖天教の暗部ごときに君を殺せるとは思っていない。それこそ『災害殺し』でも出てこない限り、何人いようと君の敵ではないだろう。ただ、私個人の意見を言うなら、仮に聖剣が彼らの手に渡ったとしても、それはそれで良いと考えている」


「へぇ、貴方はアイツらに聖剣が相応しいと? 私を殺すためだけに平気で子供を巻き添えにするようなあのイカれた連中に?」


「巻き込まれたその少年には同情するが、一枚岩の組織など存在しない。組織が巨大になれば猶更な。聖天教の一部が過激で狂っているのは否定しないが、彼らの根底にある『人間を護る』という教義。少なくとも、その一点だけは信用できる」


 ……その『人間』の定義が狭いのですけどね、彼らの場合。


 いえ、今はその話は関係ありませんか。


 ヴァイルシュタイン卿はまっすぐにアウローラ様の紅い瞳を見据え、話を続けます。


「エヴァ―フレイム。私は強い力には強い意志が伴うべきだと考えている。ましてや聖剣は人魔大戦を終わらせ、世界に平和をもたらした『秩序の象徴』だ。君のような何の信念も覚悟もなくただ力を振り回すだけの人間が持っていて良いものではない」


「だから大人しく餌になって奴らに殺されろと? その『秩序』とやらのために?」


「先ほども言った通り、彼らに君を殺すだけの力はない。しかし、仮にそうなったとしても問題はないだろう? 元より君は、1(・)0(・)年(・)前(・)の(・)あ(・)の(・)日(・)か(・)ら(・)ず(・)っ(・)と(・)死(・)に(・)た(・)が(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)」


「―――――」


 瞬間。

 室内の空気が凍りつきました。

 

 ヴァイルシュタイン卿の仰ることはアウローラ様の本質を衝くものでした。

 アウローラ様は10年前、主君である『聖王』カイラード陛下を喪って以来、死ぬ理由を求めていた。


 彼女が自ら命を絶たず、今日まで生き永らえていたのは聖王陛下から生きろと命じられたからに他なりません。


 ですが―――


「……今は違う。生きる理由がある。一緒に生きたいと思える人も。その人がいる限り、私は他人のために身を削るつもりも、殺されるつもりもないわ」


「その少年のことかね?」


 言いながら、ヴァイルシュタイン卿はちらりとソラ様を一瞥します。


 それから、殊更に皮肉を籠めて、


「なるほど。君は既に『次』を見つけたというわけだ。生きる理由があるのは大変結構。だが、今の君を果たして聖王陛下はどう思うのだろうな?」


「……何が言いたい?」


「君の忠誠など、所詮その程度ということだ。主君の命を犠牲に生き延びておきながら、課せられた義務を放棄することに何の痛苦も抱かないのであれば、やはり10年前に死ぬべきは君だった。抜け殻のような生き方が正しいとは思わないが、次の依存先を得て、はしゃいでいる姿を見るのは些か不愉快ではある」


 数日前までならいざ知らず、今のアウローラ様を単純な命令だけで動かすことは出来ません。


 ヴァイルシュタイン卿も無理だと判断したのでしょう。


 ゆえに彼は攻め方を変えました。

 すなわち、聖王陛下を護れなかったという、アウローラ様の唯一最大の罪悪感を煽る方法へと。


「こんな尻軽騎士のために命を投げ棄てるとは。ああ、陛下も本当に――無意味な最期を遂げられたものだ」


 ですが、それは完全な悪手というもの。

 だって、この場には―――



「――ほざくなよ、キース。その最期に立ち会うことすら出来なかったお前が、そのような暴言をぬかすか」



 その張本人がいらっしゃるのですから。


 ヴァイルシュタイン卿は微かに眉を顰め、


「……どういう意味かね、少年?」


「言葉通りの意味だ。あの場所にいなかったお前に、あの時のことをとやかく言う資格はない」


 卿の眼光にもソラ様は怯むことなく、正面から向き合います。

 その上で冷静に淡々と、


「キース=アウグスト=ヴァイルシュタイン。お前のことは知っている。お前の戦歴も、師団長という肩書が決して軽いものではないことも。だが、仮にお前が持てる戦力と権力を総動員したとしても、コイツに勝つことは出来ない。それが『煌』の魔術師だ。あの戦いでお前がお前の為すべきことを果たしたように、彼女もまた己の責務を果たしていた」


「まるで見てきたように言うな。では、言ってみたまえ、少年。あの時、主君の命さえ護れなかった彼女が果たした責務とは、一体なんだ?」


 ヴァイルシュタイン卿が目を細め、ソラ様に問いかけます。

 その問いに、ソラ様は胸を張って堂々と―――


「王の最期を看取り、王を孤独から救ったこと」


 一切の迷いなく、そう断言しました。


 その答えに卿は面食らったように、目を見開き、


「……大仰なことを。それがそんなに重要なことかね?」


「重要さ。そして、それはお前たちの誰にも出来なかったことだ。死にゆく中で誰かが傍にいてくれることは、その者にとって何よりの救いとなる。だから―――」



 ――あまり侮辱してくれるなよ。


 と。

 静かな怒りを滲ませて、そう言いました。


 幼さの残る、未だ声変わりすらしていない少年の声。

 けれど、それによって途方もない重圧が圧し掛かってきました。


 エイベル騎士が。

 セリア様が。

 ヴァイルシュタイン卿が。


 一人の少年に気圧され、息を呑みます。


 魔力を発しているわけでもないのに、その身から溢れ出る濃密な気配だけで場を支配する。



 これが――『聖王』。

 数多の英雄を従え、人魔大戦を終わらせた絶対の王。



「……少年。先ほどまでは流していたが、初対面の目上に対し『お前』や呼び捨ては非礼ではないかね?」


 ですが、ヴァイルシュタイン卿とて歴戦の大騎士。

 一早く立て直した卿はソラ様へ苦言を呈しました。


「む。それは……その通りですね。失礼しました、ヴァイルシュタイン卿」


 卿の言うことがもっともだと思ったのか、素直に謝るソラ様。

 途端に部屋に充満していた威圧感は消え去り、私たちはほっと息を吐きます。


 ヴァイルシュタイン卿も呼吸を落ち着けた澄まし顔で、


「だが……そうだな。こちらも非のある発言であったことは認めよう。すまなかった、エヴァーフレイム」


「……別に」


 頭を下げるヴァイルシュタイン卿に、アウローラ様は腕を組んでそっぽを向きます。

 卿は彼女のそんな態度を特に気にした様子もなく話を切り替えました。

 

「さて、少々脱線したが、このままだと事態は解決しないのは事実。少年、君はエヴァーフレイムを囮にすることは反対かね?」


「いや? 卿の言い方がムカついただけで、作戦自体は全然アリだと思ってるよ」


「――えっ?」


 ソラ様の返答にアウローラ様は目を丸くして彼の方を向きます。

 

「えっと……その心は?」


「卿の言う通り、このままじゃ事態は解決しないし、お前なら敵が何人いようと関係ないだろ? だって、お前は――アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムは俺が選んだ『最強』だから」


 ソラ様は戸惑うアウローラ様の手を握り、微笑みかけます。


「アーラ。頼むよ」


「……っ、はい! お任せあれ!」


「おいおい……」


 ソラ様の一言であっさり翻心するアウローラ様にセリア様が呆れの声を上げます。

 いえ、私も同じ気持ちですけどね?


 まあ、そんなわけでアウローラ様を餌に聖天教の残党を殲滅することが決定したのでした。



 なんなんでしょうか、この茶番は。





ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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