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魔王と相討って10年。転生した元英雄の少年は最強女騎士を曇らせる〜俺の死で心が壊れた彼女と再会した結果、めちゃくちゃ溺愛してくるようになった〜  作者: 甥の子
死に戻り2日目

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蹂躙

お読みいただきありがとうございます

 暗部たちの視界からアウローラの姿が一瞬にして搔き消えた。


 強大な赤色魔力を纏ったアウローラは初速からトップスピードに到達。

 夜の闇に紅い軌跡を残しながら怒涛の勢いで敵陣へと突撃を敢行した。


「な―――ッ!?」


 音速の砲弾と化したその姿を、暗部たちのリーダー――グリフィスは捉えることすら出来なかった。

 それは他の部下たちも同様だろう。


 まるで時間がスキップでもしたかのようだった。

 彼我の距離は一瞬にして詰められ、グリフィスの目前にはアウローラが肉薄。


 アウローラの右手には鞘から抜かれた黄金の短剣が。

 左手には先程まではなかった一振りの大剣が握られている。


 速度を殺さぬまま、アウローラは左手の大剣をグリフィスへと一息に振り下ろす――!



「ッぐ!? がぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」



 グリフィスは咄嗟に反応し、剣を盾にしてアウローラの斬撃をなんとか防いだ。


 轟音が夜気を揺るがせる。

 もはや鉄同士がぶつかり合う生易しい音ではない。

 爆撃じみた衝撃をグリフィスは歯が砕けるほどに食いしばり、耐える。


(~~~~ッッ!? ふざけるなッ! なんだっ、この重さは……ッ!?)


 足元の地面が陥没し、数メートルに及ぶ亀裂が生じる。


 剣越しに伝わる破壊の奔流。

 その威力はグリフィスの想定を遥かに上回っていた。


 女としては長身とはいえ、アウローラの身長は精々が170を越える程度だろう。

 体格だって華奢な部類に入る。


 身長も体重も筋力もすべてこちらが上回っているはずなのに、それらの要素を容易く覆す圧倒的な魔力の総量。


 恐らくは様子見の一撃。

 それでなおこの破壊力。


 まともに喰らえば即座に物言わぬ肉片に成り果てていただろう。


 だが、防いだ。

 最初の一太刀は凌ぎ切ったのだ。


「――へえ」


 感心した……どこか能天気な少年の呟きが聞こえたが、そんなものを気にする余裕はない。

 今にも圧死しそうになりながら、絞り出すようにグリフィスは叫ぶ。


「――いまだ! やれッ!!」


 アウローラの死角から4人の部下たちが一斉に飛びかかった。


 グリフィスの役目はアウローラの初撃を防ぐ盾となること。

 そのために一人だけ仮面を取り、会話をすることでさりげなく狙いを自分に誘導した。


 人気のない郊外とはいえ、ほんの数百メートル先には民家がある。


 そんな場所でアウローラの力を全力で解放すれば、周囲の家屋は跡形もなく吹き飛ぶだろう。

 故にその力を十全に振るうことの出来ないこの状況ならば、数撃程度は持ちこたえることが出来る。


 初撃を凌いだ今、あとはカウンターの要領で一気に攻め立てればいい。


 しかし、


「――展開(オープン)」


 アウローラが静かにつぶやいた。


 刹那、彼女の左右に二振りの剣が顕現する。

 それは左手の大剣と同様――『第九の剣軍(ザ・サウザンド)』によって創り出された、剣の形をした高密度の魔力の塊だ。


 紅蓮の刃はそれ自体が意志を持つかのように翻り、飛び掛かる暗部たちを迎撃する。


「ぐあッッ!?」

「ぎゃぁああッ!?」


「――なっ!?」


 下段から振り上げられた剣は暗部たちの魔力のガードを易々と突破し、彼らの肉体を斬り裂いた。


 その動きは美しいほどに流麗であり、一切の無駄がない。


 使い手本人程ではないが、それでも膨大な魔力が篭められた刃は十分すぎるほどの殺傷能力を発揮する。


 一人目はそのまま倒れ伏し動かなくなり。

 二人目は心臓を一突きされ絶命する。

 三人目は首を刎ねられ、四人目は胴を真っ二つにされた。


 瞬きの間にアウローラに襲い掛かった男たちは地面に転がり動かなくなる。


「ふはっ! ぬるい攻めね、『聖天教』! この程度かしら!?」


「……ッ、どうかな! それよりいいのか、『偽焔』!? 護衛対象の傍を離れて!!」


 グリフィスは半ばヤケクソになって叫んだ。


 仲間は4人殺されたが、まだ自分を含めて20人以上も残っている。

 残された仲間の内、5人が無防備な少年目掛けて駆け出した。


 自分より強い主を持った弊害か、思った通りこの女は『護る』ための戦いに慣れていない。

 少年の傍を離れ、初手でいきなり突撃してきたのが良い証拠だ。


 先の会話からアレがただの少年ではないことは理解しているが、部下たちを相手取ることなど出来ないだろう。


「――ははっ!」


 しかし、アウローラの表情に焦りや動揺は見られない。


 アウローラは至極自然な動作で、右手の短剣を後方へ向けた。

 彼女の背後にさらに10本の大剣が展開される。


「ッ!? 避けろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 グリフィスの絶叫が響く中、虚空に浮いた10本の刃が男たちに向かって一気に射出された。


 もはやレーザービームと化した紅の光刃は埒外の速度と熱で暗部たちの肉体を焼き抉る。

 その勢いは暗部たちを貫いてなおも止まらず、遥か先の海面にて着弾――大爆発を引き起こした。



 ―――が、


(一人生き残った!)


 片腕を吹き飛ばされながらも、身を捻ることでなんとか致命傷を避けた者がいた。


 この瞬間を逃す手はない。

 生き残った暗部の一人は素早くナイフを抜くと、そのまま少年に向かって突貫する。


「―――ッ、ちっ!」


 アウローラが舌打ちする。


 暗部と少年の距離は2メートル強。

 アウローラは少年の方を振り向き、再度大剣を展開しようと『第九の剣軍(ザ・サウザンド)』を振り上げる。


 その直前に。


「させるか―――!!」


 グリフィスが決死の覚悟で『第九の剣軍』を素手で掴んだ。


「がッ、ああああああああああ――!!!」


 手掌に刃がめり込み、そこから体内に侵入した稲妻の魔力が血液を沸騰させ、神経を焼きつくす。


 激痛と肉の焼ける異臭が鼻についた。

 刃を掴んだこの右腕は二度と使い物にならないだろう。


 だが、それでいい。


 ほんの数舜だとしても時間は稼いだ。

 この女が少年を助けるより早く、暗部のナイフが彼の喉を裂く。


(このタイミングならば間に合わない! 殺(と)った――!!)


 グリフィスは成功を確信し、ほくそ笑んだ。

 しかし次の瞬間、その笑みは凍りつく。


 紅い閃光が再び闇夜を照らしたかと思えば―――少年に襲い掛かった暗部はその胸を宙に浮かぶ大剣に貫かれ、絶命していた。

 


「…………………は?」


 グリフィスの口から間の抜けた声が漏れた。

 あまりにも唐突なことに理解が追い付かず、グリフィスは思考停止に陥る。


 その隙を見逃すアウローラではない。


「ふはっ! 敵を前に呆けるなんて余裕じゃない!」


 ドゴォッッ!! と、鈍い衝撃音と共にグリフィスの身体が花火のように真上へと蹴り上げられた。

 口から血の塊が吐き出され、内臓のいたるところが悲鳴を上げる。


 そして、上空から見下ろした先――血の滲む視界でグリフィスは見た。


 頬が裂けんばかりに獰猛に笑う獣の顔を。


「く、ふふっ、ふはっ……あははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!」


 嗤う。

 アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムが嗤う。


 哄笑を上げながら、紅い獣は地表に残った暗部たちへと喰らいかかる。

 彼女が剣を一振りするだけで暗部たちの命は容易く刈り取られていった。


 一人また一人と、剣閃が煌くたびに周囲に肉片が飛び散っていく。


 それはまさに蹂躙だった。


 地表からどんどんと遠ざかるグリフィスはそれを見届けることしか叶わない。

 部下たちが散りゆく様をまざまざと見せつけられ、グリフィスは頭がおかしくなりそうだった。



 そして―――



「――さっき、お前は『ハンデがあるならこの人数でも勝機はある』って言ってたけど」


 少年の声が風に乗ってグリフィスの耳に届く。


「悪いがハンデの一つ二つで埋まる戦力差じゃないんだよ。コイツの『銘』の由来を、お前はもっと考えるべきだったな」


 夜空に浮かぶグリフィスは仰ぎながら、ソラは淡々と言葉を紡いだ。


 アウローラの持つ『第九の剣軍(ザ・サウザンド)』の能力は千の剣軍を具現化し、自在に操ること。


 しかし、その真価を十全に発揮するためには莫大な魔力量に加え、瞬時に剣軍を展開出来るだけの魔力の『キレ』が必要となる。


 たとえ千剣のポテンシャルを持っていようと、戦闘の最中に展開まで十数秒もかかるようでは意味がない。


 それを克服するために、かつてのアウローラは魔力の操作範囲の拡張と瞬発力を徹底的に鍛え上げた。


 その結果、アウローラの魔力は雷と同様の性質を帯び、人魔大戦最強と謳われた『聖焔騎士団』の中でも随一の速さを誇るに至った。


「剣を投げつけるだけが能じゃない。コイツは半径200メートル圏内なら何処であろうと一瞬にして剣軍を展開できる。一本一本がアーラの戦闘技術と経験を転写された剣の軍勢だ。だからコイツの銘は『覇軍』なんだよ」


 先ほどもアウローラは剣の射出を囮に、少年と暗部の間に剣を展開させたのだ。


 起点となったのは、当然ながら夜闇を照らした紅い閃光。

『第九の剣軍』から迸った稲妻の魔力は空間を奔り、その先端から新たな剣を生成し、男を貫いた。



 聖焔騎士団 第九席『覇軍』アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイム。


 その速度は文字通りの電光石火。

 対軍殲滅戦に特化した――世界最速の魔術士。



「こ、の――ッ!」


 そして、打ち上げられたグリフィスの身体はやがて最高点に到達し、重力に従い落下していく。


 地表の暗部を全て斬り殺したアウローラは烈風を巻き上げ、高々と宙へと舞った。


 グリフィスに止めの一撃を叩き込むため。

 その身に纏う赤雷の魔力は彼女の昂りに呼応するかのように、最高潮に達していた。



「クソったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」



 最後の力を振り絞り、グリフィスもまた片腕だけで剣を振りかぶる。


 もはやグリフィスに出来ることは、刺し違える覚悟でアウローラに斬りかかることだけだった。


 重力に身を任せ、グリフィスは仲間を、己の命を蹂躙せんとする悪魔へ決死の一撃を叩きこもうとする。


 だが、その一撃は冗談みたいにあっさりと外された。

 アウローラは空中に展開した剣を足場に、斬撃を躱しつつ、グリフィスの頭上へとふわりと跳躍した。



「くふっ、あはッ――!!」



 決死の一撃を躱されたグリフィスに反撃のすべはなく。


 凶悪に口の端を吊り上げたアウローラは、一切の情け容赦なくその刃を振り下ろした。

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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