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魔王と相討って10年。転生した元英雄の少年は最強女騎士を曇らせる〜俺の死で心が壊れた彼女と再会した結果、めちゃくちゃ溺愛してくるようになった〜  作者: 甥の子
死に戻り2日目

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死に戻りの貴方へもう一度

お読みいただきありがとうございます

「…………はぁ」


 と。

 少年の口から吐息が一つ零れ落ちた。


 それで胸の奥に溜まった何かが軽くなったわけじゃないけど。

 意識を切り替えるためにあえて行った。


 そんな意味合いの溜息だった。

 

「アーラ。どうやら、ここまでみたいだ」

「くふっ、そのようですねぇ」


 ほら、やっぱり無駄だったでしょう? と。

 少年の物憂げな表情を見て、アウローラは意地悪げに笑う。


 ソラはそれに肩を竦めて返した。


「そうでもないさ。少なくとも、俺の中で納得は得られたからな」

「納得?」


 アウローラがソラの方を振り向き、不思議そうに首を傾げる。

 どうしてそんな言葉が出てくるのか解らない。

 そんな表情。


「それは、必要なものですか?」


 訝しげに少年にそう問いかけた。


 最初に言った通り、こんなのはただ降りかかる火の粉を払うだけのことだ。

 何しろ相手は自分たちを殺そうとする敵なのだから。

 情けなどかけようがないし、心を砕く必要もない。


 少年が躊躇う理由が、アウローラには不可解でしかなかった。

 

 そんなアウローラにソラは苦笑して、


「必要さ。受け入れるにせよ、抗うにせよ。自分の中で納得が得られなければ前に進むことは出来ない。そうでなければきっと後悔する。お前だって自分の生き方に納得した上で、騎士になる道を選んだんじゃなかったのか?」


「……そうですね」


 それを言われてはアウローラに反論する言葉はなかった。


 自分とて本来なら違う道を選ぶことも出来たはずだった。

 否、彼が用意してくれていた。


 名前すら与えられなかった最下層の身分から騎士へと上り詰めた。

 かつての彼はアウローラが戦いの中に身を置くことを厭い、彼女の未来を案じていた。


 そんな彼の反対を押し切り、騎士となることを選んだのはアウローラ自身だ。

 ただこの人の傍にいたかったから。


 聖王カイラードこそが本物の英雄であり。

 彼を護る剣であることをアウローラは望んだ。


 それ以外の生き方に興味などなかった。


「ああ……そういえば、まだお前には大事なことを訊いていなかったな」


 ふと、ソラは思い出したようにアウローラを見上げた。


 紅い瞳の中にソラの顔が映り込む。

 目つきの悪い平凡な顔立ちだと、ソラはつくづく思った。

 

「なぁ、アーラ。お前が剣を捧げる相手は、本当に今の俺でいいのか?」

 

 唐突な問いにアウローラは目を見開く。

 そして、すぐさま不機嫌そうに眉を顰めた。


「……どうして、そんな当たり前のことを訊くのですか?」


「あの頃とは何もかもが違うから。アーラ、俺は……カイラードは既に死んだ人間なんだよ。そして、その人生に満足していた。だから、お前の献身が俺の死に責任を感じてのものだとしたら、そんな必要はないんだ」


 人魔大戦を終わらせ、大切な人たちが魔獣に脅かされることのない世界を創る。


 そのために王として多くを巻き込み、多くの人々を犠牲にした。


 自分に出来ることを精一杯をやった結果だから、そこに後悔はないけれど……それでも後ろめたさのようなものはあった。


 大勢を死なせておきながら、自分一人が生き残ることに対して。


 だから、10年前のあれはカイラードにとって最良の終わり方だった。

 限られた選択肢の中で、大切な家族を護って、看取られて、眠ることが出来たのだから。


 目の前の彼女がそれに納得しないことは解っているけれど。


「俺はこの世界に還ってくるつもりはなかった。やるべきことをやりきったという自負があったから。自分がこれから先、この世界でどう生きていけばいいのか……それすらも正直よく分かっていない」


 自分から死にに行くような真似なんてしないけど。

 それでも、ソラ自身いつ終わっても構わないとは思ってた。


 一部とはいえ、かつての自分(カイラード)が見ることの出来なかった景色をこの眼で見ることが叶ったから。


 ―――だけど。


「今は違う。目的が出来た。今の俺にはやらなきゃいけない事がある」


 ぎちりと、音が聞こえた。

 ソラが血がにじむ程に握りしめた拳の音だった。


「こいつらはお前のことを『紛い物』と呼んだ。俺はそれが許せない」


 ……ああ、本当にふざけている。


 何が聖剣の力を運用できていた実績を鑑みて、だ。

 お前たちが鑑みて、慮るべきなのは何よりも彼女の心だったはずだ。


 王の心に焔を灯した彼女に。

 王の最期を看取った彼女に。


 誰よりも人の心に寄り添うべき宗教が。

 10年間ずっと苦しんでいた彼女の心を蔑ろにし、『紛い物』などと貶める。


 そんなこと、許せるはずがなかった。


「~~~~ッ」


 アウローラの心臓がとんでもない速度で脈動する。


 愛する人が自分のために怒ってくれることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。


「アーラ、以前の俺には戦う大義があったし、俺なりの正義もあった。でも、今の俺にそんなものは無い。ここにいるのは王でも英雄でもない、ただの子供でしかない」


 それでも―――


「そんな俺を、お前は護ると言ってくれるか?」


「――もちろんです」


 恍惚の表情でアウローラは断言する。


 自分を殺しにきた暗部の存在など、もはや眼中になかった。

 アウローラは殺気立つ暗部に背を向け、少年の前で跪く。


 何もかもが違いながら。

 あの頃と何一つ変わらぬ心を持った、己のただ一人の主君へ――焦がれるように語りかけた。


「私は王という冠に仕えた覚えはありません。たとえ姿かたちが変わり、尊きその名が時の彼方に永遠に忘れ去られようとも。我が主――貴方の下に在れるのなら、それは私にとって揺るぎない誇りとなりましょう」


 アウローラは恭しく少年の右手を取り、口づける。


 忠節の誓い。

 騎士として、主君に捧げる最上位の『礼』。


「貴方の傍にいたい。貴方と一緒に生きたい。いつか貴方の手の中で砕け散るその時まで。――貴方が再び黄泉路へと旅立つというのなら、今度こそ伴をさせてほしい」


 だから、どうか。

 貴方を犠牲にして生き残ってしまったこの不実の騎士に―――


「ご命令を。貴方の声で、貴方の言葉で聞かせてください。この刃を貴方のために振るうことこそ、私の存在意義なのだから」


 懇願と、どこか祈りにも似た言葉。


 彼女の誓いは10年の時を経てもなお、揺らぐことはなく。


 アウローラはかつてと同じように主の命を待ち。

 少年もまた――かつてと同じようにその覚悟を受け止めた。


「我が騎士アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムに命じる。――奴らを斬れ。その刃が未だ錆びついていないことを証明してみせろ」


「仰せのままに――!!」


 瞬間。

 アウローラの身体から膨大な赤色魔力が立ち昇った。

 紅い稲妻が音を奏で、空間を焼き切る。


「ああ、なんという光栄。なんという栄誉! もう一度、貴方のために戦うことが出来るなんて!!」


 獰猛な笑みを浮かべながら、アウローラは一歩、前へと踏み出した。


 腰の短剣を一息に引き抜く。


 ――『第九の剣軍(ザ・サウザンド)』。


 カイラードが己の直属に授けた九つの『至剣』の一振り。

 人魔大戦において最強と謳われた、聖王近衛騎士団の証。


 紅蓮の魔術士は剣を掲げ、高らかに名乗りを上げる。


 ――『聖騎士』でも『偽焔の騎士』でもない。

 主君より賜った、彼女が名乗るべきただ一つの『銘』を。


「私は聖焔騎士団 第九席『覇軍』アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイム! 我が主よ! どうかご照覧あれ! 我が刃に錆びはなく、毀れなく、翳りもなし! 万難を排し、御身の道を斬り拓いてみせましょう!!」


 その名乗りを合図に。

 アウローラは暗部へと向かい、疾走を開始した。





ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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