肩書は聖騎士とその弟子で
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「――さて、君たちの今後についてだが」
朝食を終え、食後の紅茶を飲んでいたセリアが話を切り出してくる。
真面目な空気っぽいのでアーラの膝から降りて隣の椅子に座ろうとするも、すぐに抱きかかえられ、また膝の上に乗せられてしまった。
「おい、アーラ」
「…………………」
俺のジト目をアーラはしれっとスルー。
……さっきから何なん?
真面目に話を聞く気があるなら離してほしいんだけどね?
セリアは呆れたように溜息。
それから、こほん、と咳払いして、
「昨日は準備が何もできていなかったからこの屋敷に泊まってもらったが。ソラ、君には今日からアウローラのアパートで彼女と一緒に住んでもらうことになる」
「そうなのか? てっきりしばらくこの屋敷に間借りさせてもらうことになると思ってたんだけど」
「まぁ、私としてはそれでも構わないんだが、アウローラが絶対に自分のところで引き取るってきかないものでね」
「当たり前よ。こんなに可愛いくなった兄様を他の女と一緒に住まわせるわけにはいかないでしょう。アークレイ邸だとさっきみたいにいつ邪魔が入るかわからないんだから」
アーラは俺の肩に顎を乗せながら鋭い視線をフェリシアに向けるが、当の本人は素知らぬ顔で無視するだけだった。
まぁ、それはともかくとして、
「うーん。アーラと二人きりかぁ……」
「何かご不満でも? まさかとは思いますが……兄様は私と一緒にいるのが嫌なんですか?」
俺の呟きを聞きとがめたアーラがむっとした表情で言ってくる。
心なしか、抱きしめている腕の力が強まったような気がした。
「別に不満ってわけじゃないんだけど……」
正直、心配だとは思っている。
というのも、昨日からずっとアーラは俺に引っ付いて離れようとしない。
そりゃ俺だって男だからアーラみたいな巨乳美人にくっつかれて悪い気はしないけど、いつでもどこでもベッタリっていうのはちょっとやり過ぎだと思うんだよ。
今はまだ再会したばかりで、これから段々と落ち着いてくるのかもしれないけど、現状そうなる気配が全然しない。
もちろん俺としてはアーラと仲良くやっていきたいけど、かと言って必要以上に依存させたいわけじゃない。
そうなると少し距離を置くの一つの手だと思うが、今のこいつを見ていると、ちょっと難しそうなんだよなぁ。
「まぁ、ほらあれだ。アーラにもプライベートってのがあるだろ? なんなら友達とか彼氏とか家に呼ぶ時に困るんじゃないかなぁって―――」
「いません」
「ん?」
「私に、彼氏なんて、いませんっ。その予定もありせん。今の発言は不愉快です。次言ったら、いくら兄様でも怒りますよ?」
アーラは俺の頬に手を添えて、強制的に自分の方を向かせる。
俺の瞳を覗き込みながら囁くように、
「私の全ては兄様のためにあります。兄様が望むことならどんなことだって叶えてあげます。だから、兄様は安心して私に身を委ねてくださいね?」
「お、おう……」
ああ、やばい。
想像以上に重症だ、こいつ。
セリアもフェリシアもあまりの重さにドン引きしてる。
……はぁ。
こいつの兄離れは果たしていつになることやら。
「……わかった。とりあえずアーラのところで世話になる。それでセリア、こんなこと頼むのは心苦しいんだけど……そっちで俺の戸籍を作ることは出来ないか? これから生活していく上で色々と不都合が出てくると思うんだけど」
「ああ、その件についてはアウローラからも頼まれている。戸籍はこちらでなんとかしよう。……ただ、君の身分をどうするか、というのを決めかねていてね」
セリアはそう言ってアーラを見る。
「君は知らないだろうが、アウローラは現在アルカディア聖王国において『聖騎士』の位を与えられている。『聖王』亡き後、当代の聖剣使いであるアウローラのために用意された役職だ。主な任務は『魔の森』に出現する魔獣の討伐と瘴気の浄化。通常の軍の指揮系統には属さない独立遊撃騎士だ。そんな者の傍に素性の知れぬ少年がいたら、妙な勘ぐりやちょっかいをかけてくる輩も出てくるだろう。君だってそんなのは望んでないだろ?」
「そうだな」
俺の正体がそう簡単にバレるとは思わないが、俺だって出来ることなら平穏に暮らしていきたい。
面倒なヤツに絡まれるのは嫌だし、アーラからも釘を刺されたばっかりだしね。
「セリア。決めかねているってことは腹案自体はあるんでしょう? 持って回った言い方をしていないで、さっさと言いなさい」
アーラが焦れたようにセリアに食ってかかる。
そんなアーラの様子にセリアは苦笑して、肩を竦めてみせた。
なんか、こういうの見るとセリアの方がお姉さんみたいだな。
聞き分けの悪い妹の駄々を軽く流しているみたいな。
実際はアーラの方が年上のはずなんだけど。
「あるにはあるが。まぁ、これはあくまで私の考えであって強制は出来ないんだけど……アウローラの弟子というのはどうだろうか?」
「はぁ? 弟子?」
「ああ……なるほど」
アーラはあからさまに眉を顰めるが、俺は割と妙案だと思った。
実態はどうあれ、確かにそれはいい考えかもしれない。
『聖騎士』という役職にどれだけの権限があるのかは知らないが、少なくとも弟子を持つのに不足ということはないだろう。
師弟が寝食を共にするのは全く不思議じゃないし、もしかしたらアウローラの伝手で修行の場として軍施設の一部を借りられるかもしれない。
誰かと争う予定は今のところないけど、今の自分がどれだけ戦えるのかを知る必要はある。
選択肢としては充分にアリだな。
アーラは複雑そうな表情を浮かべてセリアを見ている。
手放しで賛成は出来ないけど代案はない、そんな感じ。
「もちろん、あくまで世間に説明するための表向きの肩書だ。アウローラの弟子になったからと言って何か義務が発生するわけじゃないし、君のこれからの生き方を『そっち』方面に持っていく気もない。君には恩がある。望む生き方が他にあるなら出来る限り協力しよう」
「望む生き方か……」
セリアの言葉に、改めて考えてみる。
俺はこれからどんな生き方をしていきたいんだろうか?
少なくともこの世界に還ってきたのは言ってしまえば事故みたいなもので、自分の意志で戻ってきたわけじゃない。
おまけにソラとカイラードという二人分の記憶があるせいか、自分がどういう人間なのかひどく曖昧になっている。
望む生き方と言われても正直……返答に困る。
「不思議だな。10年前はあれだけ欲しかったものなのに、いざ目の前に置かれると選択肢が多すぎて眩暈がする」
「まぁ、今の君の状況を鑑みれば混乱するのは当然だと思うよ。時間は充分にある。よくよく考えていけばいいさ。なんなら私と結婚でもするかい? アウローラの言じゃないが、君の一生くらい私がずっと面倒見てあげるけど」
セリアはそう言って茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせる。
さすが美人、何をやっても様になるね。
俺は思わず感心したが、アーラの方はそうではなかったらしい。
黒いオーラを放ちながら射殺さんばかりにセリアを睨みつける。
「……笑えない冗談ね。自殺願望があるなら今すぐ殺してあげるわよ、セリア?」
「そう怒るな。ちょっとした冗談じゃないか。まぁ、彼が望むなら吝かではないが」
セリアが流し目で俺を見てくる。
それに釣られるようにアーラの視線もこちらを向いた。
そんな「嘘ですよね?」みたいな顔するなよ。
いくら俺でもこんな状況で真に受けたりしないっつの。
「光栄だけど、それこそよくよく考えなきゃいけない話だろ」
「おや、残念。振られてしまったかな」
さして残念でもなさそうに肩を竦めるセリア。
冗談なのか本気なのかよく分からんね、この子も。
「ま、ひとまずセリアの案でいこうと思う。俺はこの街のことも、今の情勢のこともまだよく分からないから。聖騎士の弟子って肩書も色々と活用できるかもしれない」
「承知した。それでは戸籍についてはそれに適したものを用意しよう。差しあたって君たちの今日の予定は買い出しだな。これから二人で住むにあたって色々と入り用だろう。アウローラ、買い物ついでに彼にこの街を案内してやるといい」
「言われるまでもないわ。――さあ兄様、すぐに出掛けましょう。服とか日用品とか色々揃えなければいけませんから」
セリアの言葉にアーラが同意する。
そして俺を抱えたまま椅子から立ち上がった。
「……おい、アーラ?」
「なんでしょう?」
「いや、なんでしょうじゃないだろ。お前、まさかこのまま行くつもりか?」
俺を横抱きに抱えて進もうとするので制止する。
しかし、アーラはきょとんと不思議そうに首を傾げて、
「何か問題が? 昨日もこうして運んであげたではありませんか。今さら照れる必要あります?」
「昨日は緊急措置だったからだろ!? お前言っとくけどこれ絶対悪目立ちするからな!?」
アーラに運ばれながら俺は必死に抗議する。
そんな俺たちの様子を見ていたセリアはくつくつと笑いを噛み殺し、フェリシアは諦めたように首を横に振っていた。
「アウローラ、二人で出かけるからってあまりハシャぎ過ぎるなよ? 彼の戸籍はまだないんだ。騒ぎを起こして騎士団や警察の目につくようなことは厳禁だぞ?」
「当たり前じゃない。ただ買い出しするだけで、どうやって騒ぎを起こせっていうのよ」
セリアの言葉に、アーラが煩わしそうに吐き捨てる。
言ってることはもっともなんだけど……それってフラグにならないよな?
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