新たな轢き逃げ
翌朝、片山が新幹線で関西へ向かった。現地で地元県警察の刑事と、橋本宅を訪問することにした。
「橋本一馬君の父親がホシってことですか?」
小林が不安そうな表情を浮かべている。
「確証はないよ。ただ、何の目的で川野と接触したのか。奴を揺さぶるためにも、橋本さんの証言が必要だ」
正午過ぎに片山から連絡が入る。橋本一馬の父親が今朝轢き逃げに遭い、市民病院に搬送されたとの事だった。現在集中治療室に入り、話が聞けない状況だった。
「片山君、もし可能ならご家族から話を聞いてくれ。可能なら、な」
大野はそう伝え、電話を切った。
「タイミングが良過ぎるというか、悪過ぎるというか…」
「小林君もそう思うか」
黒田がカップにコーヒーを注ぎ、持ってきた。
「大野さん。川野にとって、橋本氏は何か都合の悪い事実を握っている相手。だから口封じ、って考えられませんか」
「橋本氏の子供が川野のチームで虐めに遭っていたというだけでも、十分都合が悪いさ。まして政界進出がかかった今ならな」
夕方になり、片山から連絡が入った。
「どうもありがとう、ご苦労さん」
課長が電話を切り、大野に内容を伝えた。
「明日、川野に会ってみます。反応を見ましょう」
「元組対の凄み、見せてやってくれ」
夜、サッカー練習が終わったあとの川野を大野と小林が訪ねる。コートのベンチに座っていた。
「犯人の目処はつきましたか刑事さん。私の所に来る暇があったら、犯人を探すべきだ」
「『来る暇』…ですか」
大野が川野の言葉を捉えてニヤリとする。それを見た川野に怯えが浮かんだ。
「川野さん、今回はあなたにお聞きしたい事があって伺いました」
「はぁ?私が何の関係があると?」
「橋本一馬君、ご存じですね。ついでに、彼の父親もだ」
「さぁ、毎日沢山の人と接していますのでね。どちらの方でしょうか」
川野は明らかに惚けている。
「議員になりますとね、有権者の顔を覚えておくのは必須ですよ」
「それは…あなたには関係ない話です。それにその、橋本さん。どちらの方ですか」
落ち着きなく、指で何度もベンチを叩いている。
「教え子の名前も保護者もお忘れですか。随分冷たいんだなぁ」
小林がわざと挑発した。
「あ、あの橋本君ですか…えぇ覚えています。橋本君といっても複数チームにいますのでね。それに、彼は辞めてからだいぶ経ちますので」
「辞めた理由、お忘れではないですよね」
「それは、お父様の転勤とか…」
「ウソですよね、川野さん。貴方は本当の理由をご存じのはずだ」
大野が揺さぶりをかけた事に、川野が苛ついた。




