川野の目的
「昨日のお話、もう一度詳細にお聞かせ願いたいのですが」
博人君は当初はサッカーを遊び感覚で楽しみたいとの思いから、チームに入った。チームもそれを歓迎していたが、実際には厳しいクラス分けと、下位クラスは上位への丁稚奉公をさせられていたという実態。
さらには、技量が上がらない事を揶揄された挙句、学校に行ってもそれが原因で虐めを受けていたことが判明した。
「今、博人は私立の中学に中途入学しました。一時は不登校になったのですが、ようやく学校に行き、今は卓球部で頑張っています」
「博人君、頑張りましたね。気持ちの強いお子さんです。サッカーの技量でマウントとるなんて、許せないです」
小林の言葉には怒りがこもっていた。
「ということは、博人君以外にも、同じような事が行われていた…ということでしょうか」
大野が母親に質問した。
「えぇ。沢山あったと思います。博人と仲の良かった子も、同じ原因で辞めています。それで、関西に引っ越したご家庭もありますので」
「そのお子さんの情報、教えていただけませんか?」
片山がメモを取る。
「私が間違っていました。よく精査もせずにあんなチームに入れてしまって。改善を申し入れても、『上達しないのは、能力がないからだ』なんて言われてしまって。博人には可哀想なことをしました」
母親はハンカチで目を押さえていた。
「お母さんは悪くありませんよ。差をつけたり、他者を否定したりしない事を教えるのが教育だと思います」
片山が母親に寄り添った。
署に戻ると、黒田が大野を呼んだ。
「これ、見てください!」
パソコンの画面を指している。
[次期衆議院選挙に川野氏が与党公認]
「奴の最終的な目的はこれだったんだ」
大野が眉をひそめている。
「大野さん、どうだった」
課長が報告を求め、片山から伝えられた。
「そうなると、マル被はチームに通っていた保護者の可能性が出てきたな。まぁ、考えたくはないがね」
「しかし、状況から整理すると、そう考えるのが自然です。それだけの強い恨みを抱く保護者がどれくらいいるか、ですが」
そう語ると、大野がコーヒーを飲み干した。
「だとしたら、悲し過ぎます。親の自責の念や、子供の未来を壊した事への報復って事ですよね」
「まぁ、まだ決まったわけじゃないさ」
大野は立ち上がり、小林の肩を叩いた。
「小林君、もう一度現場近くを探ろう。こういう時は、現場に戻るんだ」




