対決
大野は川野の事務所に出向いた。丁度センチュリーが出発したのが見え、川野は頭を下げている。
その後に覆面パトカーを止めた。
「刑事さん…またあなたですか」
「今日は報告がありましてね、少しだけよろしいですか」
大野は応接室へ通された。川野は明らかに警戒感で溢れていた。
「まだ報道には載っていませんが、犯人が捕まりました」
「そうでしたか!それは良い報告だ。これで子供達も安全が確保されるわけですね」
「川野さん、あなたはご存じの筈だ。半年前の事故。高齢の女性に、自転車に乗るあなたのチームのメンバーが大怪我を負わせた」
川野の表情に、一層警戒感が表れた。
「その後、一人の青年があなたを訪ねてきた。目撃者の証言で、事故はあなたのチームメンバーであることが判明したからだ」
川野は席を立ち、冷蔵庫から缶ビールを出した。
「川野さん。その事故は、木曜日に起きました」
ビールを一気に飲み干して、大野を見る。
「どなたの話か存じませんが、前にも申し上げた筈です。私は毎日沢山の人とお会いして」
「勝てば官軍ですか?」
大野が川野の話に被せた。
「強いものが勝ち、弱者は切り捨てる。あなたのその歪んだ価値観が、一人の青年を狂気に走らせた。あなたのチームのメンバーは、二人の人の人生を壊した。これは事実ですよ」
川野は黙り込み、煙草に火をつけた。
「で?その犯人を警察は逮捕したんでしょ?」
「ええ、逮捕しました。法を犯した以上、例え酌むべき事情があっても、罪を見逃すわけにはいかない。なぜなら、私は警察官だからだ」
大野は強い目で川野を見据える。
「しかしね、あなたがどれほど慈善活動や教育活動で立派な理念を掲げようと、その実態はどうですか。人を負傷させ、救護もしない。なるほど『どんな手を使っても勝て』という、貴方のチームの理念通りだ」
川野は天井に向かって煙草の煙を吐いている。
「スポーツのルールの前に、人間として、社会に生きる者としてのルールを教えるべきでしたな」
そう言うと、大野は立ち上がった。
「刑事さん。それで、私は何の罪で罰せられるのですか。令状があるなら持ってきなさい。あなたの戯言に付き合った事を感謝されても良いくらいだ」
「政治家がバックにいると強気ですな。ただ忘れない方が良い。橋本さんの件も、必ず明らかにする。どんな圧力も俺には無意味だ。俺はそんなに頭が良くないんでね」
川野が立ち上がり、大野へ煙草を投げつけた。
「だから何だって言うんだ!俺は将来を嘱望された人間だ。お前らとは住む世界が違うんだよ!」
「川野、やっと本音が出たな。所詮お前は砂の器だ。犯した罪は決して消えない。亡霊の様にいつまでもお前に取り憑いている。それを忘れるな」
大野は応接室を出た。覆面パトカーの鍵をポケットから取り出し、外へ出ると片山と小林がいた。
「大野さん、どうでしたか」
片山が心配そうに聞く。
「俺に付き合うと、出世に響くぞ」
「興味ありませんよ、そんなもの」
小林が言うと、三人は笑った。
数日後、橋本氏の意識が戻ったとの報告が県警からあった。ただ、跳ねた車については全く記憶がないとの事で、手がかりは掴めなかった。
「大野さん、ちょっと来てください」
黒田が大野を手を挙げて呼び、パソコンの画面を見せる。SNSに、川野のサッカーチームの悪評が沢山載っていた。それらはネットニュースでも取り上げられ、ワイドショー番組にも波及していた。
「虐めがチームであったというのは本当ですか?」
「メンバーが轢き逃げをしたとの情報もありますが」
川野の事務所にはコメントを求める記者が大勢訪れていた。




