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もう一人の被害者

古い2階建てのアパートの前に到着した。鉄製の階段で2階へ上がる。


 インターホンはない。木製のドアをノックする。部屋の中から、女性の声が聞こえた。


「どうぞ、お入りください」


 弱々しい声だった。


 二人がドアを開けて入ると、殺風景な部屋だった。奥の部屋に介護ベッドが置かれ、そこに高齢の女性が寝ていた。


 起き上がろうとするのを、大野は制した。


「突然申し訳ありません。お加減はいかがですか」


 片山が優しく話しかける。


「こんな身体になってしまってねぇ、事故がなければ、まだ元気だったかしらね」


 弱々しい声で、笑みを浮かべて話す。


「事故で、大腿部を骨折されたのですよね」


「えぇ、歩いている時に、後ろから自転車にぶつけられてしまってね。年寄りは夜に出歩くものじゃありませんねぇ」


 大野は地域課で受け取った書類を見ていた。半年ほど前、女性はサッカー場の近くを歩いているところ、少年の自転車に当てられて転倒したのだった。


 目撃者の証言から、川野のサッカーチームのロゴがプリントされたバッグを持っていたこと。少年であったことが確認されている。しかし、すぐに逃走をしたため、現在に至るまで被疑者は確保されていない。


 その事故は、木曜日に起きていた。


「あの、ご子息はいらっしゃいますか」


 大野が尋ねた。


「えぇ。よく働いてくれていますよ。私に全てを尽くしてくれてねぇ。私がこんな身体にならなければ、結婚しても良い頃なのに」


 女性はそう言うと、涙を流した。片山が女性の背中をさする。


 大野が壁に目をやると、女性に贈られたと思われる寄せ書きが貼ってあった。元気だった頃の女性に、子供達が抱きついている写真が添えられている。


[先生、早く治して帰ってきてください!]


 大野は女性に向き直った。


「もしお差し支えなければ、ご子息にお会いしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか」


 女性の家を出た足で、大野と片山はある場所へ向かった。そこは、解体屋だった。


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