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当事者

「今日木曜日ですね」


「今夜も張り込もうじゃないか」


 その夜、サッカーの練習開始時間前から付近を張り込み、その後大野と小林はコートの前に移動した。地域課の警察官も応援で、事故現場周辺の巡回に入っている。


「間もなく終了時刻です」


 小林が時計を確認した。


 大野は関西から戻った片山の報告を思い出していた。


 橋本氏は川野に対し、チームで虐めがあったことを認め、公式に謝罪すること。虐められた全ての子と親に対して補償を求めたと、妻から証言を得た。


「今それが公になれば、川野の衆院選における公認取消は確実だ」


「その為に橋本さんは消された、ということでしょうか。だとすると、子供達を狙った4件の轢き逃げは、一体誰が…」


「そいつに今日会えたら良いんだがな」


 練習が終わると、勢いよく数十台の自転車が飛び出してきた。


 車道に確認せず出てきた為、走行していたハイエースが急ブレーキをかける音がした。


「うわっ、危ないなぁあいつら」


 小林が叫んだ。


 覆面パトカーを発進させ、自転車の後を等間隔で追った。歩道を歩く人たちの間を、かなりのスピードを出して走り抜けていく。


「これのどこが『健全な精神を育む』だよ。聞いて呆れるわ」


 小林の憤りが語気に含まれていた。その時、一台の自転車が通行人の荷物を、追い抜きざまに引っ掛けた。


 次の瞬間、通行人は勢いで倒れ、他の通行人が駆け寄るのが見えた。


「お前ら止まれ!」


 通行人が怒鳴る。


「うっせーバーカ」


「トロいんだよ死んじまえ」


 大野が赤色灯を展開し、小林がアクセルを踏んだ。サイレン音が周囲に響く。


「やべーおまわりだ!」  


「小林君は自転車を追ってくれ。俺は被害者のところで降りる」


 被害者が倒れている所で大野が降りた後、小林の覆面パトカーは急発進して自転車を追跡した。


 被害者は若い小柄な女性だった。仕事からの帰り道に服を買い、肩から掛けたその袋を自転車が引っ掛けたのだった。


 女性は膝をすりむいているほか、足を挫いたようで立ち上がれない。


 大野はすぐに携帯電話で119番に連絡し、救急車を要請した。


 程なくしてサイレン音が聞こえてきた。救急車ではなく、小林の覆面パトカーだった。


「大野さん、確保しました」


 小林の顔が高揚している。後部座席に先程の少年が座っていた。不貞腐れた態度をしている。


 大野は後部ドアを開け、少年を降ろし、そのまま女性の前に連れて行った。


「何か言うことがあるだろう」


「知らねえし、関係ねえし」


「そうか、知らねぇか。だがな、自転車は乗っていれば車と同じだ。君には救護義務違反という罪が既に発生している。知らねぇなんて通用しないんだよ」


 大野が冷たく言い放った。それを聞いた少年の顔に一気に焦りの色が広がった。


「お前ら、サッカーはただ勝てば良いって思ってたのか。他者に対する思いやりがないから、こんな事が平気でできるんだ!」


 小林が少年の肩を掴んでいる。


「この人がお前の身内だったら、お前許せるか?俺だったら絶対に許せない」


「小林君、もうその辺で」


 大野が小林を諌めた。サイレン音が近づき、救急車が到着した。地域課のパトカーも合わせて到着し、少年が乗せられ所轄署へと移された。


「あの、ありがとうございました」


 担架の上で、被害者の女性が礼を言う。小林が念のため救急車に乗り込み、病院まで付き添うことになった。


「小林君、調書も取れたら頼む」


 救急車の後ろ扉が締まり、ゆっくり発進した。倒れた女性に駆け寄った男性に大野は礼を伝え、覆面パトカーで署へ戻った。


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