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【情けは人の為ならず】を徹底して貫いたら、世界中に幸運をばらまくことになりました  作者: たかさば


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4 悩み相談

「あなたの幸せを、心から願っています!」


 私は、人助けをしたあとに言葉を伝えるようになった。

 何となく、ウサギを助けた日のことが心に残って、自然に口にするようになったのだ。


 ある日、村の広場で泣いている少女を見かけた。

 手に持っていた花冠が壊れてしまったらしい。私はしゃがみこんで、壊れた花冠を丁寧に編み直し、少女の頭にそっと乗せた。


「きれいになってよかった!あなたの幸せを、心から願っているわ!」


 少女は涙を拭い、ぱっと笑顔になった。



 翌日、その少女の母親が孤児院にやってきて、思いがけないことを教えてくれた。


「娘が、村の舞踏会で“花の精”役に選ばれたんです。あの子、ずっと憧れていたんですよ…とても幸せそうに笑って!あなたが祈ってくれたおかげよ、きっと! ステキな花冠を、ありがとう!」


 私は驚いた。

 あの花冠が、そんな幸運を呼ぶなんて。


 それからも、私は人助けのたびに「あなたの幸せを願っています」と言ってから別れるようにした。


 すると…、不思議なことが起こり始めた。


 ・足を怪我していた老人が、翌日には杖なしで歩けるようになった。

 ・商売がうまくいかずに悩んでいた商人が、突然大口の取引先を得た。

 ・家族と喧嘩していた少年が、仲直りして笑顔で帰ってきた。


「……まさか、私の言葉が?」


 最初は偶然だと思っていた。けれど、あまりにも頻繁に“幸運”が訪れる。

 私は、孤児院のシスターに相談した。


「それは、あなたの心が清らかだからかもしれませんね。神様は、そういう人に力を授けることがあるんですよ」

「でも、私はただ……祖母の教えを守っているだけで」

「その“だけ”という考え方が、奇跡を呼ぶのかもしれません」


 私は、自分の言葉が誰かの人生を変えていることに、少しだけ怖さを感じた。


 けれど、同時に――嬉しかった。

 誰かの苦しみが、少しでも軽くなるなら。誰かの夢が、少しでも近づくなら。


「あなたの幸せを、心から願っています」


 その言葉は、私の祈りそのものだった。



 ある日、村に旅の吟遊詩人がやってきた。彼は歌を歌い、物語を語り、人々を楽しませた。

 私は、彼の荷物運びを手伝った。


「ありがとう。君は、優しいね」

「いえ、情けは人の為ならず、ですから!」


「……いい言葉だ。君のような人が、もっと報われる世界であってほしい」


 その言葉に、私は胸が熱くなった。


「あなたの幸せを、心から願っています」


 そう言って別れてしばらく経った頃、吟遊詩人が王都の劇場に招かれたという噂が村中に広まった。



「君の言葉には、何かあるね」


 そう言ったのは、あの青年――旅人風の彼だった。


 ずいぶん親しくなったけれど、名前は知らない。なぜなら、この世界では名前は名乗るものであり、聞くものではないから。だから、いつも、あなたとか、旅人さんとか呼ぶようにしている。…それが、私にできるせいいっぱい。


「……君が“幸せを願う”と、誰かの運命が動き出す。まるで、祝福の風が吹くように」

「そんな……私はただ、祈っているだけです」


「その祈りが、奇跡を呼ぶんだよ」


 彼は、私の手をそっと取った。


「君の優しさは、神の領域に届いている。君は、もう“ただの人”じゃない」


 私は戸惑いながらも、その言葉に少しだけ誇らしさを感じていた。


 私の優しさが、誰かの未来を照らすなら――

 祖母が教えてくれた“情け”の果てにある、報いなのかもしれないと思った。




「あなたの幸せを、心から願っています」


 私の言葉が、村の人々の間で“奇跡の言葉”として囁かれるようになったのは、冬のことだった。


「彼女に相談すると、道が開けるらしい」

「病気が治ったって人もいるぞ」

「商売がうまくいったって話も聞いた」


 そんな噂が広まり始めた頃、私は孤児院のシスターから声をかけられた。


「あなた、村の教会で“悩み相談”をしてみませんか?」

「え……私が?」


「ええ。人々の心に寄り添える人は、そう多くありません。あなたなら、きっと誰かの支えになれる」


 私は迷った。自分にそんな大役が務まるのかと。


 けれど…、祖母の「情けは人の為ならず」という言葉が、背中を押してくれた。



 私は、村の小さな教会で“聖女見習い”として働くことになった。

 教会の一角に、木製の机と椅子を並べ、布で仕切った簡素な相談スペースを作った。すると、村人たちがぽつりぽつりと訪れるようになった。


「息子が家を出てしまって……」

「夫が仕事を失って、家計が苦しくて」

「夢を諦めようかと思っているんです」


 私は、ただ話を聞いた。否定せず、遮らず、ただ耳を傾けた。

 そして最後に、こう言った。


「あなたの幸せを、心から願っています」


 すると、不思議なことに――


 ・家を出た息子が、手紙を送ってきた。

 ・失業していた夫が、村の工房に雇われた。

 ・夢を諦めかけていた少女が、王都の芸術学校に合格した。


「……本当に、奇跡が起きるんだ」


 村人たちは、私を“聖女”と呼ぶようになった。


 けれど、私は…ただの人間だった。


 奇跡を起こしているのは、私の言葉ではなく――きっと、誰かの“信じる心”なのだと思った。



 ある日、教会にあの青年が現れた。


「君、ずいぶんと有名になったね」

「そんな……私はただ、話を聞いているだけですよ」


「それができる人は、そう多くない。君の言葉は、誰かの希望になっている…、誇っていいよ。君は、誰かの人生を変えているんだ」


 私は、彼の言葉に胸が熱くなった。


「……そんなふうに言ってもらえると、少しだけ誇らしいです」


 彼は、私の相談スペースの隅に座り、静かに人々の様子を見ていた。


「君の“願い”は、祝福の種なんだ。それを受け取った人が、自分の力で芽吹かせている…」

「そうなんですか? 教えてくれて、ありがとう! 」


 なにか…お礼をしなくては。

 そんな事を思った私は、ふと、尋ねた。


「……あの。あなたには、悩みはないんですか?」


 たまに、困ったような、寂しそうな表情を浮かべているのが気になっていた。

 もしかしたら、私が聞くことで、なにかが変わるかもしれない…。


 彼は、少しだけ目を伏せて答えた。


「……あるよ。でも、それはまた、別の話」


 その言葉が、後に私の運命を大きく動かすことになるとは――

 この時の私は、まだ知らなかった。



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