27 今度こそ大団円?
「ウカちゃん、また赤ん坊になっちゃうの? 家庭の問題はひとまず解決したのに、どうして!? 何かウカちゃんにストレスを与えるような要素あった?」
ウカちゃんが光に包まれているのを呆然と見守りながらわたしがそう言うと、ミヤっちは「もしかしたら、幼児退行の逆かも知れません」と答えた。
「幼児退行の逆?」
「はい。ウカ様はストレスで精神に負担がかかると幼児退行してしまいますが、穏やかな気持ちになると体が成長するのです」
「そういえば、成長と幼児退行を繰り返しているって言っていたよね。じ、じゃあ……」
ごくり、と唾を飲みこみ、わたしたちはウカちゃんの「変身」が終わる時を待った。……一人だけ、猿田くんが「蝶がさなぎから羽化するみたいだな。ウカ様なだけに」とかほざいていたけど、聞かなかったことにしておいてあげよう。
「どうやら、本当に成長しているようですね。見てください、ウカ様の体が大きくなっていきます」
トヨちゃんの言う通り、ウカちゃんはまばゆい光を発しながらどんどん大きくなっていく。そして、体の発光がなくなった時にはとうとう……。
「お、おお! ウカがうずめと同じぐらいの背丈まで成長したぞ!」
歓喜の声を上げるスサノオ様。ウカちゃんは13歳前後ぐらいの少女になっていた。
「こ、これは22年ぶりに見るウカ様思春期バージョン! 良かった……。ここ最近ずっと幼女だったから、わがままなウカ様幼女バージョンに振り回され続けて疲れていたところだったんです!」
命婦が心の底から嬉しそうな声を上げ、尻尾をブンブンと振った。どうやら、大まかに分けると、元の姿の大人バージョン、思春期バージョン、幼女バージョン、赤ん坊バージョンの4つのバージョンがあるらしい。
「あ……あの……。わたくし、うずめさんにたいへんご無礼を働いてしまって……。う、ウカが悪い子でした。どうかお許しくださいませ」
わたしとほぼ同じ身長(微妙にわたしのほうが大きい)になったウカちゃんが、成長にともなって少し大きくなった狐耳をピクピク動かし、上目遣いで瞳を潤ませながらわたしに謝った。
くっ……! あ、あざとかわいい!
しかも、悔しいことに、わたしよりも身長低いのに胸はでかい!
ていうか、幼女だった頃の傲岸不遜な性格はどこへ行ってしまったのか、思春期バージョンのウカちゃんはまさに深窓の令嬢。とても儚げだ。
ひ、卑怯だよ……。こんな大人しそうな子を怒ることなんてできない……。だって、可愛いは正義だもん!!
「……それから、サぁータヒコさんもごめんなさい。危うく、あなたのうずめさんへの純粋な想いを踏みにじってしまうところでした……」
そう言って、猿田くんにも頭を下げるウカちゃん。
……舌足らずキャラじゃなくなったのに、猿田くんのことは相変わらず「サぁータヒコ」なんだ。
あれか? 親戚のお兄さんを幼い頃から「サぁータヒコ兄ちゃん」と呼んでいて、中学生になってもまだ昔の呼び方がぬけていない女の子みたいなものか? ……くっ、どこまでもあざといぞウカちゃん思春期バージョン……。
「反省してくれているのなら、オレはそれでいい。……それに、オレも長い間チーム稲荷大神の一員として働けていなかった負い目があるしな。お互いにおあいこということにしておこう」
「わ、わたしも、二度とわたしを暗殺しようとしたり、猿田くんを誘拐したりしないと誓ってくれたら、全て水に流すよ。ぐぬぬぅ……」
「どうした、うずめ?」
「いや、何でもない。ちょっと負けていられないなと思っただけで……」
「???」
くそっ、わたしも「可愛いは正義」に磨きをかけなければ!!
わたしが何に焦りを感じているのか分からず、ウカちゃんはキョトンとした顔で小首を傾げた。
ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁ!! その仕草も可愛いぃぃぃぃぃ!! ちくちょぉぉぉぉ!!
「うずめさん。女の子の『可愛い』はそれぞれがオンリーワンですよ? そんなにも対抗意識を燃やさなくてもいいんです」
唯一、わたしの心を読んでいた鈴ちゃんが悟りきった聖女のような眼差しでわたしに言った。
そ、そうだった……。「可愛い」はそれぞれがオンリーワン。わたしはわたしの道を行けばいいだけ。わたしが間違っていた……。
可愛い道、奥深しっ!!!
☆ ☆ ☆
今度こそ大団円……と言いたいところだけど、実はその後もけっこう大変だったのよ。
まず、おぎゃぁおぎゃぁ言っている人間のみんなを元に戻して、「今日あった騒動の全て」を全員の頭から削除しなきゃいけなかった。
これは「娘が迷惑をかけたから」と言ってスサノオ様がやってくれたから、まあ助かった。ただ……。
「これがオレ流の『記憶操作の術』だ」
などと言いながら、人間たちの頭をどついて回っていたのが激しく不安だった。あれは殴られた衝撃で記憶を失っているだけなんじゃ……?
今日あった出来事だけでなく自分の名前や家族・友達の顔とか大事なことまで忘れていたりは……え? 心配するなって?
でも、念のため、後で雪音ちゃんにわたしが誰か分かるか質問しておこう……。
「ちなみに、アイドルの公開オーディションとやらは無事滞りなく行われた、というふうに記憶を改ざんしておいたぞ。審査員たちによってロコドルとやらに選ばれた人間も、エントリー表の名前から適当に選んでおいた」
ぶん殴っただけでそんな細かい記憶の改ざんができたの!?
ていうか、適当に選ぶなよ! オーディションの優勝者は誰になっちゃたんだろう……。
スサノオ様が屋上に入る人間全員の記憶を改ざんし、ミヤっちがデパートの従業員たちをそれぞれの店の持ち場に返した後、何事もなかったかのようにアイドル公開オーディションの結果発表が行われた。そして、司会のお姉さんが発表した地元アイドルとなる少女の名前は……。
「みなさまお待ちかね、審査発表の時間です! 厳選なる審査の結果、この街で活躍するロコドルに選ばれたのは…………盛々《もりもり》筋肉子さんでーーーすっ!!」
タヂカラオかよっ!!!
アイドルに採用されたタヂカラオ本人も「え!? オレ!?」と驚いている。
アイドルのプロデューサーさんやその他の審査員たちは、「な……なんであんな筋肉ムキムキを採用してしまったんだ……?」と顔を青ざめさせていた。
「なんで!? なんであんなHENTAIが合格してわたしがダメなの!? 世の中おかしいよぉ~!!」
雪音ちゃんが地団駄を踏んで悔しがっていたけれど、雪音ちゃんは歌ぜんぜんダメだったよね……?
「では、見事優勝を勝ち取った盛々筋肉子さん。一言コメントをお願いします♪」
ニコニコ笑顔でタヂカラオにマイクを向ける司会のお姉さん。彼女はこの結果に何も疑問を抱いていないのかしら……。あっ、もしかしてまだキツネにとりつかれてる?
「す、すまない!! オレ、自分がアイドルになるよりも、日本一可愛いアイドルの追っかけをやっていたいんだ! だから、オレはロコドルにはなれない……!!」
「当たり前だ!! 誰が採用するもんか!! というか、お前どう見ても男だろーがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
タヂカラオがアイドルになることを辞退すると、アイドルのプロデューサーのおじさんは発狂してそう怒鳴った。
もう何もかもがぐだぐだだった……。
その後、オーディションの結果発表の様子を見学していたハクトちゃんが、うっかり風呂敷の中身(オオクニヌシ様の生首)を落としてしまって、「ぎゃーーー!! に、人間の首がぁーーーっ!!」とまたまた大混乱に陥りかけた。
もちろん、その場にいた神様たち全員で記憶をすぐに改ざんしたけどね……。
何か今日はすごい疲れたよ。おうちに早く帰りたい……。
<雑談コーナー:うずめ×ウカちゃん思春期バージョン>
うずめ
「わたしと身長同じぐらいなのに、なぜこんな胸囲の格差が……!」
ウカちゃん(思春期バージョン)
「あの……うずめさん……?」
うずめ
「ずるい、ずるいよ……。こんなのひどいよ、あんまりだよ……」
ウカちゃん(思春期バージョン)
「ふえぇぇぇ……。恐い顔でブツブツ呟きながらわたしの胸を触るのはやめてください……。ぐすん……」




