10 さらわれた猿田くん
放課後、わたしたちは、鈴ちゃんちの神社に集合していた。
トヨちゃんだけでなく、タヂカラオとアメノイワトも一緒である。二人はわたしに「中学生失格」を言い渡された後、隠形の術で姿を消して学校周辺を警戒してくれていた。
「半蔵、もう体は大丈夫なの?」
わたしは、ウカちゃんにボコボコにされた半蔵の体を気遣い、頭を撫でてあげた。
「うずめ様ぁ~。死ぬかと思ったコケ~」
半蔵は甘ったれた声を出して、わたしに懐いてくる。まだ多少は傷が残っているみたいだけれど、声は元気そうだ。カエルの彦太郎とおサルの藤吉が一晩つきっきりで介抱してくれたおかげだろう。
「彦太郎、藤吉。半蔵を助けてくれて、ありがとうね」
「同じ夫婦神にお仕えする仲間なのですから、助け合うのは当然のことです。ゲロゲロ……」
「お礼なんていらないでござる!!」
彦太郎と藤吉は、本当にいい子だなぁ~。気がいいところは、主人の猿田くんに似たのかも?
「いい仲間を持って幸せだね、半蔵。あんたも、彦太郎と藤吉が困っている時は助けてあげなきゃダメだよ? 今、二人の主人の猿田くんが高天原警察に捕まっている最中なんだし」
「……は、はい、コケ。今すごく罪悪感に苦しんでいるコケ……ごにょごにょ」
「ほえ? 何か言った?」
「な、何でもありませんですコケ!!」
「……ふ~ん? ま、いいや。わたしたち、猿田くんと面会するために今から高天原警察に行くけれど、神使のあなたたちも来るでしょ?」
わたしがそう聞くと、彦太郎と藤吉は「はい。主人が心配ですので」「もちろんでござる!」と即答した。でも、半蔵はというと……。
「半蔵。なんでうつむいて震えてるの? あんたも来るよね?」
「……い、行きますコケ。ああ、サルタヒコ様、心配だな~コケ……」
なんかすごい挙動不審だけれど、本当はまだ本調子じゃないのかしら?
「では、そろそろ参りましょうか。日が暮れたら、天のはしごを上り下りするのが大変ですし」
トヨちゃんがそう言うと、鈴ちゃんがわたしたち神様に丁寧に頭を下げ、「どうか、道中お気を付けください」と心配してくれた。
「たしかに、気をつけたほうがいいかもなぁ~。ウカ様の神使の命婦は自由自在に空を飛べるし、天のはしごをのぼっている最中とかに襲撃されたらかなり危険だぜ」
腕組みをして、タヂカラオがそう言う。
「その時は、わたしが稲荷寿司手裏剣を投げますのでご安心を」
「やめておいたほうがいいんじゃないかなぁ、トヨちゃん……。また血を吐いちゃうよ?」
「お友達を守るためなら、命だって張れますわ」
トヨちゃんはそう言うと、むんっと可愛らしく気合いを入れた。
……癒しキャラのトヨちゃんが血を吐くバイオレンスなシーンは二度と見たくないので、ウカちゃんが襲撃して来ないことを祈ろう。
☆ ☆ ☆
わたし、トヨちゃん、タヂカラオ、アメノイワト、そして半蔵たち神使は天のはしごをのぼり、無事に高天原の都に到着していた。
「……拍子ぬけするぐらい、何も起こらなかったわね」
わたしは、明治時代の銀座あたりを連想させるレンガ街を歩きながら、そう呟いていた。
高天原の都は日本人たちが過去に作り上げてきた街並みを時代別に再現していて、高天原警察署は明治時代エリアにあるらしい。トヨちゃんの説明によると、高天原警察のトップが増田敬太郎という明治期に生きていた元人間の神様だからだそうだ。
「何も起きないのが一番いいのですが、あのウカ様が大人しく引き下がるのはちょっと不気味ですね。……あっ、うずめさん。あそこの鹿鳴館を模した建物の向こうに見える赤レンガの建物が、高天原警察署ですよ」
「本当に何も起きずに着いちまったなぁ~。さすがのウカ様も、この怪力の神タヂカラオ様がうずめのそばにピッタリとついていて、恐れをなしたのかもな。あっはっはっは」
すっかり油断してしまっているタヂカラオが豪快に笑うと、隣を歩いているアメノイワトが眉をひそめて「そんなわけねぇーだろ」と言った。
「あの方は荒ぶる神スサノオ様の娘だぞ? 可愛い顔して何をしでかすか分かったものじゃない。油断するな、筋肉馬鹿」
「何だよぉ~、馬鹿って言うなよぉ~。……オレたちが高天原警察署に入るなり建物ごと爆破するとかかぁ? ちゅどぉ~ん! てな感じで」
そう言って、タヂカラオは「あっはっはっは!」とまた大笑いした。
さすがにアマテラス様のお膝元でそんな過激なテロ行為はしないと思うけれど……。でも、事故とはいえ高天原スカイツリーを炎上させたあのスサノオ様の娘だからなぁ~。万が一ということが――。
ちゅどぉーーーーーーん!!!
目の前の赤レンガの建物が!!
突然!!
大爆発した!!
「た、高天原警察署でテロが起きたコケーーーっ!!」
「危ない! みんな、オレの後ろに下がれ! レンガが吹っ飛んでくるぞ!!」
神様の力で瞬時にTシャツ&ジーパンから鉄の甲冑に衣装チェンジしたアメノイワトが、わたしたちをかばって前に飛び出した。
「古来より宮殿の門を守護してきたオレの防御力をなるな! バリアーーーっ!!」
おお! 普段はお馬鹿な行動が多くても、さすがは御門の神として天皇の宮殿を守ってきた神様だ! 全身から黄金のオーラを発して、飛来するレンガの破片を次々と弾き返し……。
「ごふっ! げほっ! がはっ!」
レンガを弾きかえ……。
「あがっ! ぎぎゃぁ! ごぼべばっ!?」
弾き返してねぇー! 全部命中してる! 無数のレンガの破片でアメノイワトの体がベコボコにぃ~!!
「あの黄金のオーラは何なの? 何か防御効果とかあるわけ!?」
「あれはアメノイワトさんの得意技『アメノイワト総受けバリアー』ですわ。ご自身の防御力を通常の1.2倍にパワーアップさせ、仲間の身代わりになって全ての攻撃を喰らうという自己犠牲のかたまりのような技です」
そう解説してくれるトヨちゃん。1.2倍って、何か微妙な数字だなぁ……。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃーーー! うげらぼべっ!? …………はぁ……はぁ……ぜ、全部、受け止めきった……ぜ……がくっ!」
「し、しっかりしろ、アメノイワトぉーーーっ!!」
満身創痍になったアメノイワトがバタリと倒れ、タヂカラオが号泣しながら駆け寄った。わたしとトヨちゃん、半蔵、彦太郎、藤吉も心配してアメノイワトのそばに寄る。
「ゲロゲロ……。これは重傷ですな。早急に高天原病院にお連れするべきです」
ベテランの神使である彦太郎が冷静にそう言うと、藤吉が「彦太郎先輩! それがしに任せるでござる!」と名乗り出て、得意の変化の術でわたしのお父さんに変身した。
あっ、なるほど。子ザルの藤吉は小柄だけれど、大柄の人間に変身したらアメノイワトをおぶっていけるわけね。
「頼んだぞ、藤吉! ……オレは親友に大ケガを負わせたヤツをぶちのめす!!」
「りょーかいでござる、タヂカラオ様!」
藤吉は気絶しているアメノイワトを背負い、ビューーーン! と思いのほかの俊足で高天原病院へと走って行った。
……アメノイワト。第1巻、第2巻、そして今回の第3巻と三連続で病院送りになるなんて、不憫なヤツ……。
「また爆発が起きるかも知れない。うずめとトヨウケビメ殿はここで待っていてくれ」
戦闘モードになったタヂカラオは、Tシャツ姿から柔道着に衣装チェンジし、わたしたちにそう言った。さすがは怪力の神様だ。脳みそは筋肉だけど、いざという時には頼もしい。
でも、何者のしわざかしら。わたしたちを狙ったのなら、わたしたちが建物の中に入ってから爆破するだろうし。もしかして、爆破の犯人の狙いは……。
「タヂカラオ様、待ってください。瓦礫の中から何者かが出てきます。ゲロゲロ」
「うん? あ、あれは……大量のキツネだ!! 稲荷神の御使いたちか!!」
瓦礫と化した警察署から飛び出してきたのは、二十数匹のキツネたちだった。キツネたちはぷかぷかと上空に浮かび、先頭のキツネだけが白い。あれは――ウカちゃんの神使・命婦だ!
「ふはははは! うじゅ……うずめよ。警察の御用になった夫が心配で面会に来たのか? だが、遅かったな。サぁータヒコはわたくしがいただいたぞ!」
命婦の背中にはウカちゃんがちょこんとのっていて、不敵な笑みを浮かべてわたしたちを見下ろしていた。ウカちゃんやキツネたちはほのかに光るオーラに包まれている。たぶん、あの光が爆発からウカちゃんたちを守ったのだろう。ウカちゃんの膨大な霊力で作ったバリアーかも知れない。
「うずめ様! サルタヒコ様が、右から三番目のキツネの背中にいるコケ!」
半蔵にそう教えられてわたしが目をこらすと、たしかに猿田くんはキツネの背中でぐったりとしていた。さっきの爆発で気絶してしまったのかしら……。
「ちょっと、狐耳ロリ女神! 猿田くんをさらってどうする気!? あなたの狙いはわたしでしょーが!! 卑怯者!!」
「フン! そなたこそヒキョーではないか。トヨちゃんをそばにおいて、わたくしが手出しできにくくしおって。
……いちおう言っておくが、サぁータヒコを傷つけるつもりはない。だから、その点はあんちん……こほん、安心するがいい。サぁータヒコは我々『チーム稲荷大神』の仲間だしな」
いや、あんた、建物を爆破して猿田君を気絶させてるじゃん……。
「チーム稲荷大神? さっぱりワケワカメだけれど、とっとと猿田くんを返しなさーい! 本気で怒るわよ!?」
「サぁータヒコを返してほしかったら、今度の日曜日に指定の場所まで来るがいい」
「なによ、わたしと決闘でもするつもり!?」
「そなたと決闘するのは、ミヤっちじゃ。サぁータヒコをかけて、そなたとミヤっちがきゃっちゅ……きゃっとふぁいちゅ……きゃ、キャットファイトするのじゃ!! …………ぜぇぜぇ、やっと言えたじょ……」
顔はわたしそっくりだけれどドジっ子なミヤっちが、わたしとキャットファイトですって? そんなの楽勝じゃん!
「受けてやろうじゃないの!」
「うずめさん。これはうずめさんをおびきよせようというウカ様の罠です。勝負を軽々しく受けないほうが……」
トヨちゃんが心配してそう言ったけれど、猿田くんを奪われて頭に血がのぼっているわたしは「へーき、へーき! けちょんけちょんにしてやんよ!」とかなりハイテンションな口調で啖呵を切った。
「よく言った! では、今度の日曜日の午後二時、そなたの街のデパートの屋上に来い!」
デパートの屋上って……雪音ちゃんが言っていたアイドルの公開オーディションの会場じゃない。たくさんの人が集まっている場所でドンパチやる気!?
「ちょっとタンマ! その日、そこにはたくさんの人が……」
「約束したぞ、うずめ! 必ず来いよ! ばいばいウカぁー!!」
「あっ、こらぁー! 話の途中で行くなぁーーーっ!!」
命婦たちキツネ軍団は、バビューン! とものすごいスピードで天を駆け、あっという間に消えてしまった……。
<雑談コーナー:アメノイワト×作者>
アメノイワト
「また病院送りになったぁぁぁぁぁぁ!!!」
作者
「というわけで、アメノイワトさんの第3巻での出番は今回で最後になりまーす。お疲れさまでした~」
アメノイワト
「ふざけるな! 今回は出番が多くて活躍できると思ったのにぃぃぃ!!」
作者
「どうどう、どうどう」
アメノイワト
「ていうか、オレの本名はアメノイワトワケノカミなのに、アメノイワトっていう名前の省略の仕方はおかしくないか? アメノイワトワケとかイワトワケのほうが正確だろう!?」
作者
「天岩戸が神格化された神様であることを強調したくて、『本名はアメノイワトワケノカミ。ニックネームはアメノイワト』という設定にしたんだけど……。今考えたらどうでもいいこだわりだったね! てへっ☆」
アメノイワト
「てへっ、じゃねぇー!! 次の4巻ではもっとオレを活躍させろよ!?」
作者
「(顔をそらしながら)次があればね。次があれば……」




